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今月のセミナー

-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-

①Wi-Fi パケットセンサを用いた関西広域流動解析手法の研究
②居住者・観光客の多様性を考慮したサービスアクセシビリティ評価

①中村 俊之 氏

岐阜大学工学部 准教授

②松島 格也 氏

京都大学大学院工学研究科 准教授

●と き 2023 年 7 月 19 日(水)16:00 ~ 17:00

●ところ 大阪キャッスルホテル 7 階 松・竹・梅の間(オンライン併用)

発表1

Wi-Fi パケットセンサを用いた関西広域流動解析手法の研究

岐阜大学工学部 准教授

中村  俊之 氏

はじめに

 Wi-Fi パケットセンサを用いた関西広域流動解析手法の研究という題目で、岐阜大学中村より報告します。なお、研究分担者の岐阜大学・倉内文孝先生と㈱社会システム総合研究所・西田純二先生との3名で行っている研究です。私自身は、名古屋大学に3月まで所属しており,この4月から岐阜大学に異動しました。

研究の背景と目的

 研究の背景ですが、人の移動履歴を捕捉できる手法が充実してきたことはご存じかと思います。例えば、交通系 IC カードを利用し、地下鉄やバスに乗ることで乗降データが蓄積される、また携帯の基地局情報を利用したデータからはリアルタイムに混雑場所が分かる、もしくは携帯のアプリケーションを通じて、人の移動を捉えることが昨今進んでいます。コロナ禍の中で、感染防止の観点からも人流把握が求められる環境になったことは皆様も認識されているところかと思います。
 旅客流動をリアルタイムに、かつ広域に計測する仕組みを構築できれば、現実空間での検証が難しいシミュレーションや分析などを、デジタル空間でも再現可能であり、その結果を現実にフィードバックできるのではないかという問題意識を持っていました。
 この研究は、昨年度(2021年度)も関西空港調査会より助成に採択されており、このときのタイトルがやはり「Wi-Fi パケットセンサを用いた関西3空港間の旅客流動解析手法の研究」でした。昨年度は関西3空港の大阪国際空港・関西国際空港・神戸空港に Wi-Fi センサを置いて、流動が取れる基盤を構築する、さらには関西都市圏に付いている Wi-Fi センサとも連携しながらデータ収集の仕組みを構築することが昨年度の研究目的であり、成果でした。
 今年度(2022年度)は、昨年度の成果により、基盤が整っき中で、関西圏の広域流動をどの程度分析することができるか、またリアルタイムに関係主体が利活用できる仕組みをつくることと考えました。その観点から、今年度は昨年度整備した解析基盤の拡充とともに、コロナ回復期における旅客流動分析ができるように、解析基盤のバージョンアップを図りました。

Wi-Fi パケットセンサとその仕組み

 本研究で利用する Wi-Fi パケットセンサは、箱型のセンサを設置するだけで、皆が持っているスマートフォンやゲーム機から発信するビーコンを捉え、継続的にデータの取得が可能です。
 多くの方がご存知かもしれませんが、Wi-Fiパケットセンサについて簡単に説明します。スマートフォンなどの Wi-Fi 機器は多くの場合、スタンバイの状態でも、基地局と接続するためのビーコンを発信しています。スライドではサンプルとして iPhone の画面を示したものです。現在は、この一番上にある Wi-Fi にとつながっている状態ですが、その間も更に強いWi-Fi とつながろうとして常にビーコンを発信しています。そのビーコン情報を、Wi-Fi センサで拾っています。
 実際の Wi-Fi センサはスライドに示すような160mm ×160mm の箱で、電源を取りながら調査したい地点に置きます。そこから我々の方では、スマートフォンやパソコン、ゲーム機から発信されたビーコンを拾います。その上でセンサ内に設置している機器より、4G/LTE回線を利用しインターネットに接続し、クラウドストレージサーバにデータをアップロードし、蓄積されたデータを解析に利用しています。

関西 3 空港への Wi-Fi センサの増設

 昨年度の研究助成において、関西国際空港(以下、関空)・大阪国際空港(以下、伊丹)・神戸空港(以下、神戸)の3空港に4つの Wi-Fi センサを設置させていただきました。関空・伊丹・神戸の各空港では、到着側に Wi-Fi センサを設置し、空港に到着した側を捉えようとしました。関空に関しては、関西空港駅にも設置しています。センサ自体にも金銭的な制約がある中で、今年度は前回手薄だった出発側にも Wi-Fiセンサの設置を検討し、関係機関とも相談の上で、センサを増設させていただきました。具体的な増設個所ですが、伊丹では、ANAと JAL の搭乗ゲート側にも設置しました。
 関空では、国際線の出発ロビーと到着ロビー側に空港管理会社にも相談しながら設置個所を決めました。
 神戸でも同じように、到着側に既設していたものに加え、出発側にも Wi-Fi センサを設置しました。設置個所の詳細は配布資料で分かると思います。
 Wi-Fi センサ設置に当たっては、個人情報に配慮しながら、プライバシーポリシーを設定し、大学の研究であり、名古屋大学の研究倫理委員会の承認を経て、その内容をホームページで公開した上で、データを収集しています。したがって、ただ闇雲にデータをスマートフォン等から集めているのではなく、プライバシーポリシーの中で倫理的配慮を行っています。

広域流動解析の実現と課題

 これまで Wi-Fi センサにより収集したデータの利活用は、私どもの研究グループでも、京都の複数の観光地や、名古屋市の東山動植物園などに設置したり、狭域のエリアで行うことが多かったです。今回、関西広域圏で、センサ設置することを考えますと、どうしても単一の機関で担うのは費用面などで難しいこともあり、似たような主体が参画する組織をつくることになりました。
 実際にはスライドに示すように、関西3空港でのWi-Fiパケットセンサの広域流動データを継続的かつ学術的に解析・利用を行う実施主体として「関西広域流動解析コンソーシアム」を昨年度中に立ち上げています。
 この関西広域流動コンソーシアムと検索をすると、実際にどのような主体が参画しているかを確認することができます。コンソーシアムの中では、いかに Wi-Fi センサを連動させデータを収集するのか、あるいは収集したデータをどのように利活用するのか、さらにはデータを使いたい組織、研究者が出てきたとき、どのようにデータを共有するのか、といった多様な議論を展開しています。
 このコンソーシアムの立ち上げに際しては各機関が個々に Wi-Fi センサをつけていた中で、いくつか課題が存在していました。例えば、法律的な部分では、各機関で掲げているプライバシーポリシーを拡大解釈し、広域流動を可能とするプライバシーポリシーの改定や、技術的な部分では、これまで「京都」「大阪」「難波」のような都市単位で取っていたものを、広域圏に拡大すると、収集されるデータ量が飛躍的に大きくなることもあり、データを段階的に、どのように処理するかといった点です。
 大きな課題の1つに事業モデルがあります明確な責任主体、誰がこの責任を持って関西広域流動を実施しているのかということでコンソーシアムが立ち上がりました。今後は、どのようにデータセンターを維持していくのか、運用コストに対するビジネスモデルが、我々に抱えている課題です。

広域流動解析の事例(JR京都駅のケース)

 これまで各主体で設置したセンサを連携することで、関西広域流動を実現させたという説明をさせていただきましたが、例えば、京都の事例では、2018年11月からデータ自体は継続で観測しています。この観測も、国土交通省の「道路政策の質の向上に資する技術研究開発」という研究(京都大学:宇野伸宏教授を代表とした当時の研究)において、観光流動を目的に Wi-Fi センサを設置していたものです。清水寺、銀閣寺、錦市場などの観光地を中心に Wi-Fi センサを設置し、観光客の流動パターン、例えば施策を打ったときの観光地における時間帯別の参拝客の変化などを捉えてきました。
 今回の広域流動解析を行うにあたっては、過去に設置した全ての Wi-Fi センサを用いているのかといえば、実はそうではありません。各都市、設置個所において、中心となるセンサだけを連携するという形を取っています。この広域流動で捉えることが可能なのは、あくまでも大きな都市間の流動所です。

広域流動解析の連携先と対象箇所

 コンソーシアムに参画している組織としては、奈良市、尼崎市、観光局、京都大学をはじめとする大学機関、近鉄、南海電鉄、JR 西日本などです。この組織は、自らが Wi-Fi センサを主体となって設置した主体です。
 センサの対象箇所は、関西3空港以外に JR大阪駅、奈良駅、尼崎駅、南海なんば駅、三ノ宮駅といった主要な駅です。
 昨年度の報告書に、具体的な連携先や Wi-Fi センサ設置個所の詳細を記載していますので、興味ある方はそちらを見ていただければと思います。

開発した関西広域流動解析システム

 関西広域流動解析システムによるデータは、非常にシンプルな構成に見えるかと思いますが、連携にどのような苦労が生じたのかについてもお伝えします。
 実際には、各機関が保有するデータ量を合計しますと1日あたりのレコードが最大1,300万以上、今はそれを超えています。データ量が大きいために、サーバの処理をするだけで費用が生じてきますので、サーバ間での費用を低減するためにインタラクションを減らす必要がありました。そのため、処理の対象となる Wi-Fiセンサを抽出して集約し、多段階で読み込みを行うなどの負荷低減の工夫を図っています。サーバ側では、読み込まれたデータを解析内容に従って、必要なデータをメインメモリに転送して高速に処理を実施しました。

時系列で観測数推移を表示

 実際にこの解析基盤の中で解析されたデータは、リアルタイムで確認ができるものです。こちらは観測数推移を示したグラフです。
 関西空港駅に設置した Wi-Fi センサで補足された取得数を示したものがこちらの数字です。コロナの影響で検査強化や渡航制限が課される期間から、だんだんと推移していることがわかります。また、水際対策の見直しがなされた辺りから、次第に取得されるデータの数も増えてきています。一方で、台風14号の後で、一時的に取得データ量が、がくんと落ちている箇所も見えています。例えば、1月25日に関空連絡橋が通行規制になったとき、リムジンバスや自家用車の代わりに鉄道を使わざるを得なくなり、その結果として、関西空港駅で観測されるデータ量が増えていることも確認ができます。
 このように時系列でデータを追いかけて見ていくとそのときどきの状況が把握できます。データは CSV ファイルとして、ダウンロードすることも可能です。

地点間流動量の変化

 こちらの右図は、まだコロナで流動の制約がかかっているときの2点間の流動量で、左図は2023年3月25日であり、その制約から解放された状態の流動量です。円の弧の長さで表されている部分は、弧全体を100としたときに、例えば関空でどれくらいのデータ量が全体に対して相対的に収集されていたのかを示すものです。
 当然制約がかかっているときは、全体100で見たときに大阪駅や京都駅が多いですが、制約が緩和されることで、関空駅で取れる量が圧倒的に増えていることが見て取れます。
 この1本1本の線は、それぞれのセンサ設置個所の移動量が多い地点間に引かれているとご理解ください。例えば、この赤い線が色濃くなっているのは鉄道で関西空港から南海なんば駅に行く人が多いことを示しています。

参画機関向けリアルタイム解析

 コンソーシアムに参画した組織には、リアルタイムに結果が確認できるサイトを提供しています。交通計画に必要な OD(OriginDestination)表や視覚的にとらえることが可能な OD 表の弦グラフ、滞在時間や前後の地点の分析なども提供しています。
 こちらの設置地点別の前後地点間流動は、関西空港を中心として、関西空港の前後それぞれ2地点について、どのセンサで観測されていたかを視覚的に示したものです。
 こちらは地点間の所要時間です。ここでは関空の1階の国際線到着からアトリウム広場まで行くのにどれくらいの時間を要して移動しているのかが確認できます。最短で移動している人は二つの Wi-Fi センサ間を45分くらいで移動しています。多くの人は複数地点を観光し、アトリウム広場まで3時間程度を要して、移動していることが分かります。ここでは、その上位10%のみ抽出し、その平均として表現したのがこちらの分布となります。この分布は一切寄り道をせず、移動を行ったときに、どれくらいの時間を要しているのかを示していると理解ください。

都市活動実態の基礎分析

 最後に都市活動実態の基礎分析を紹介します。2022年2月から2023年1月までのデータを1週間単位で捉えています。ここでは、同一の ID に対して、どのセンサとどのセンサで観測されているケースが多いのか分析したものです。
 次に同一の ID が、時間的に再観測されるまでの時間を捉えたものです。例えば、大阪駅で観測された ID は、24時間後にまた同じ場所で観測され、48時間後に観測され、72時間後に観測されることを示しています。少しずつ観測量は減っているものの、通勤や通学の動きを捉えることができます。一方で、空港の場合は、複数観測される ID が多く存在はせず、1回カウントされるとその後なかなか出てこないこともありますが、地点による特徴かと思います。

特徴的なパターンを抽出

 特徴的なパターン抽出できないかというところで、非負値行列因子分解(NMF)を用いた分析を紹介します。発表時間の都合上、ODWeek のところだけを簡単に説明します。
 OD(起終点)と週の移動パターンをクラスタリングしてみますと、8個のパターンに分類されました。例えば、WF_0というグループに所属する ID が、この横に書いてある0から13の数字に相当します。主な Wi-Fi センサだけが抽出されており、左図の下側が D(到着側)です。色が濃くなっているのが ID3から4、ID4から3辺りで、京都駅と大阪駅の間の移動が顕著に出てきていることが見てとれます。WF_0は大阪駅からなんばへの移動を行うグループであることもわかります。
 日別・時間帯別に表現した結果から WF_1は、関空と大阪駅、あるいは関空から京都駅に向かっている移動パターンが多く、WF_3は、伊丹と大阪駅・京都駅・なんば駅の間、あるいは大阪駅となんば駅・三ノ宮駅の間の移動パターンが多いことがわかります。さらに、WF_1は、主に空港を利用するグループであり、外国人の新規入国制限の見直し後に色が緑から黄色へと変化している、つまり比較的移動量が増えてきていることを見て取ることができます。


おわりに(まとめ)

 この2年間の研究助成を通じて、広域データ収集・解析基盤を構築しました。また、その裏では、関西広域流動解析コンソーシアムを立ち上げも行いました。
 この研究の背景には、開催が決まっている大阪・関西万博を見据えていたこともあります。この2年間の研究が万博に向けて少しでも活用できるようになるよう引き続き、取り組みを進めたいと考えています。
 一方で、Wi-Fi センサによる収集されるデータには、MAC アドレスのランダマイズ化の課題などもあり、今後もデータの特性を捉えつつ、流動解析を深化させたいと考えています。
 もちろん、Wi-Fi センサのデータ収集にはサーバ費用などの継続運用に多大な費用がかかります。そのサーバ費をどのように捻出していくかが乗り越えるべき大きな課題であることは認識しており、関西広域流動コンソーシアムでは、研究利用あるいはビジネス利用を希望される組織には一定の費用負担をいただき、その費用を運用に回すビジネスモデルの検討も進めているところです。
 また、関西広域流動コンソーシアムのみならず、関西に関連する経済団体や自治体、省庁などと更なる連携の必要もあります。この2年間の研究助成での成果を生かし、1つ1つの課題を地道に乗り越えることで、少しでも社会課題解決に貢献したいと思います。
 以上で、私の発表を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。



発表2

居住者・観光客の多様性を考慮したサービスアクセシビリティ評価

京都大学大学院工学研究科 准教授

松島 格也 氏

はじめに

 関西空港調査会さんの助成ではありますが、あまり「空港」というキーワードは出てきません。後ほど観光客のところで少し関係することをご紹介します。主眼は居住者および観光客の多様性を考慮した都市計画論です。それを考える上で、最近の流れを説明していきます。

20 分都市、15 分都市

 左側はアメリカ・オレゴン州ポートランドのホームページからとった画像で、右側はフランスのパリです。
 フランスのほうは15分都市と呼ばれているものです。真ん中に人が住んでいますが、その人が基本的に15分以内で、かつ車ではなく徒歩や自転車など環境に優しいモードで、例えばパンを買いに行ったり、公園に遊びに行ったり、病院にたどり着いたりできるようにしましょうという考え方です。それぞれ15分以内でアクセスできる、それがフランスで言うところの15分都市です。
 このコンセプトを全域的に実現するのは難しいと思います。左側のポートランドは20分都市ですが、同じような概念です。黄色の部分は、いろいろなサービスへのアクセスがよいエリアです。当然ながら郊外のほうに行くとアクセスが悪くなります。例えば病院は近いが学校までは30分かかるなど、そんなイメージです。
 このように、なるべく街自体をコンパクトにして、かつ車ではなく徒歩もしくは自転車などで環境に優しく移動するというのが、コンパクトシティの考え方の一つの主眼となっており、結構いろいろな所で行われています。
 我々もこのような点に着目したのですが、この考え方には問題点もあると私は考えます。同じような行動をする人であれば良いのですが、例えば15分以内で着く病院があっても、自分で行けない人にとっては役に立ちません。もしくは人によって、例えば糖尿病で通院するので病院は必要だが、子育てのための保育所はそれほど必要でないという場合もあります。
 あるいはシングルマザーで小さな子どもを育てている人にとっては、何と言っても職場と保育所がそれぞれ近いところにあり、一気に行ける方が良いかもしれません。
 このように、同じ施設がある立地でも、それぞれの人々の生活によって評価は違ってくるわけです。そういったものを評価しようというのが今回の取り組みです。

本研究の背景

 これまでは、と言ってももう10年、20年以上前ですが、例えば私が子どもの頃の父親の世代では、当時土曜日は「 半ドン」でしたから、週5日と土曜日、少し郊外の住居地域から都心部へ通勤していました。大体みんなが同じような時間に電車に乗ってラッシュになるといったパターンが多かったわけですが、最近そのようなパターンは次第に崩れてきており、特にコロナの影響もあって在宅勤務が広がったり、週休3日が出てくるようになったりで、いろんなパターンが生じ始めています。
 家族形態にしても、お父さん・お母さん・子どもがいて、場合によってはおじいちゃん・おばあちゃんまで一緒に住んでいる形態は少なくなってきました。家族形態や生活パターンが違えば、必要とするニーズや必要とする施設も結構バラバラになります。そのような状況を踏まえ、どういう都市計画をしていくべきなのかを考えたいと思いました。
 そのために、まずは我々の生活パターンや居住者から始まって、そのパターンがどれぐらい多様化しているかをみます。後半の観光客という部分で少し触れますが、そちらでも移動のパターンがどれぐらい変わっているかをみます。
 そしてそれを踏まえて、多様な生活パターンに対応した計画論ということで、各施設やサービスへのアクセシビリティをどう評価するかという二つ目の部分に入ります。

〈生活パターンの多様化の把握〉

 一つ目のほうでは、生活パターンを Optimal Matching 分析というツールを使って分析します。詳細は後述いたしますが、基本的には人々の時間の使い方です。何時に起きて、学校へ行って友達と会って、帰りにご飯屋さんに寄って帰ってくる、といったように日記のような形で記録をつけてもらい、その皆さんの時間の使い方が似ているか似ていないか判断します。
 「似ている・似ていない」を判断する上で着目したのが、時間の拘束性です。24時間のうち約3分の1が睡眠時間だとしても、それ以外の約16時間は当然いろいろな時間の使い方があります。自由時間というのはそれなりに楽しめるのでよいのですが、先述のように、例えば仕事帰りに子どもを拾って、スーパーに寄って帰って来るといったようなことをする必要があり、かつ時間に追われているようなものを、「時間の拘束性を有する活動」と定義します。
 したがって、そのような時間の使い方の内容が、拘束的か否かというところに着目して、自由時間同士はそれなりに近いが、拘束的な活動とそうでないものについては、分類して距離があるとカウントするという考え方です。

〈多様化に対応したアクセシビリティ評価〉

 それに基づいて多様化に対応したセキュリティ評価を行います。まずはそれぞれの場所がいろいろなサービスに対してどの程度アクセス性がよいのか。例えば天満橋駅は職場には近いが小学校には少し遠い、病院はそれなりにある、といった状況です。
 アクセシビリティだけなら、先ほどのオレゴンやパリで出てきたような考え方と同じなので、まずそれぞれの場所がどのようなアクセス性を持っているかを評価した上で、今度はそれがどんな生活パターンの人にとってアクセス性がよいのかをみます。先述のように仕事の後に子どもを拾ってスーパーで買い物をして帰ってくる人にとってみれば、保育所、職場、スーパーが必要で、それ以外の介護施設などはあまり必要ではありません。
 つまり、その場所自体もいろいろな生活パターンの人ごとに評価が違ってくるのでそこを考えるのが二つ目の点です。

研究手法

 少し重複しますが、手法の説明です。まず生活パターンの多様化を把握するため、ばらつきを評価した Optimal Matching 分析を行います。生活の時系列データ、具体的には15分ごとにそれぞれ何をしていたかという内容に基づいてクラスター分析を行います。そうするとどんなことが出てくるかというと、何となく似通った生活パターンをしているグループがいくつか出てくるわけです。
 その際、どういった人たちが似ていてどういった人たちが似ていないかを判断する際に、先ほど説明したような、時間の拘束性を有する活動、例えば労働、育児、介護などを重要視します。時間の拘束性を有する活動自体が鍵になって生活時間配分全体を規定している、つまりそちらが先に決まって残った時間が自由時間になるわけなので、この拘束的な活動に要している時間に着目しましょうということです。
 その上で後半は、まず場所に基づいたアクセシビリティを評価します。それぞれの場所で施設までの距離を評価して、かつ近くに一つで十分なものもあれば、たまには違うスーパーも行きたいといったように、二つ三つあったほうがいいものもあるでしょうから、ある地点から最寄り三つぐらいまでを評価します。その上で生活パターンにとってどうなるかを考えるということです。

生活パターンの分類

〈データと分類手法〉

 使用したデータは、5年に1回実施される「社会生活基本調査」です。15分ごとに活動内容が区切られています。
 この例では、一番上の人は17時半まで仕事をして、その後は自由時間です。2番目の人は18時まで仕事をして、すぐ買い物に行っています。3番目の人は17時半まで仕事をして、その後家事をして買い物に行っています。
 このような活動をまずは、先述のように拘束的な活動とそうでないものに分けます。この例で言うと、自由時間や家事。家事をどちらにするかというのは議論の余地がありますが、ここでは仮に拘束性がないとします。その上で仕事は拘束的な活動として考えます。さらに仕事以外でも、家での育児や買い物や子どもの送迎などを考えます。
 同じ買い物にしても、2番目の人と3番目の人を比べてみると、3番目の人は仕事を終えて、一旦拘束的ではないものが入ってから買い物に行っており、間に時間があるので若干余裕があります。一方、2番目の人は連続的に行っているので、どちらかというと比較的クリティカルな活動だろうということで、同じ買い物であっても拘束的なものが続いている場合とそうでない場合で区別することも考えています。つまり自由時間から買い物に行く場合と、仕事から買い物に行く場合というのは違うという話です。
 それらの距離を考えたとき、1番目、2番目、3番目の人たちのどれが似ているかということになります。連続するほど、また時間や場所が拘束されるほどその差が大きい、距離が遠い、つまり似ていないと考えられます。そうすると例えばここでは拘束的ではない活動同士の差は1で、これを基準とすると、拘束的でない活動と、拘束的な活動との差は1よりも少し遠くなるので、違うグループになります。さらに、拘束的でない活動と、仕事から買い物のような連続的に拘束的な活動の場合はさらに遠くなる設定をして、距離を計算します。

〈分類結果〉

 サンプル数は約1,600で、サンプルをクラスター分析にかけます。クラスター数も自由に選べるのですが、ここでは代表的に三つ(A・B・C グループ)を取り出しています。
オレンジが自宅で家事以外のことをしている場合で、これは主に睡眠が占めます。青が職場で、それ以外は細かく小さくなっていますが、例えば移動(黄色)、自宅外での拘束的でない活動(グレー)、拘束的な活動(茶色)、さらにそれが連続した場合(濃い灰色)となっています。
 それぞれのグループの中で、上から下までオレンジの部分は、例えば A グループの場合は26サンプルがここに入るのですが、その全ての人が自宅で家事以外をしていることを表しています。したがって大半の人がやっている活動が、上下で見た場合に大きな割合を占めていることになります。
 それぞれのパターンを見てみると、特徴的なことが分かります。一つ目の A のパターンは、仕事が終わって直接的に時間拘束的な活動が連続する場合、具体的には勤務からそのまま買い物に行っているパターンが多いです。
 二つ目の B は、上との違いを見ると分かる通り、この部分のオレンジが増えているのは、一旦家に帰っており、かつ拘束的でない活動を行っているというパターンです。仕事を終えて一度自宅に帰り、子どもを例えば塾に迎えに行くといったような話です。
 三つ目の C は出勤が2回、午前に仕事をして一度帰宅というパターンです。中には自宅に帰るのではなく、よそでいろいろと買い物などをするようなパターンもありますが、午前・午後2回に分けて仕事に出ているパターンです。また、拘束的な時間の中で比較的介護が多いグループだと考えられます。
 これらのサンプルを取り出したのは、行動パターンが特徴的であることと拘束的な生活、すなわち自由時間が全体に比べて少ない人たちを選んだわけです。だからこのような結果が出てきました。

アクセシビリティ評価

〈どの場所が住みやすいか〉

 先ほどお見せしたのは三つでしたが、具体的には十数パターンを取り出し、それらにとってどのような場所が住みよいかを評価します。これがアクセシビリティ評価です。
 ここではどのような場所が住みやすいかを見ています。例えば「家での育児」に拘束されている人にとって、必要なのは当然保育所です。
「買い物」が全体の中でクリティカルつまり拘束性が高い人はスーパーマーケット。このように、拘束的でかつそのグループに含まれている人の多くが行う活動にとって必要となる施設をまず定義します。
 どの施設が重要かについて重み付き平均をとり、時間の拘束性を有する活動と、かつ連続しているものは重みが大きいとしました。要するに、仕事に行って買い物に行く、というように連続している場合の買い物は、家から買い物に行ってまた帰ってくる場合よりも重要性が高いと評価しています。
 これに基づいてアクセシビリティを評価するわけですが、これには複数の段階があります。まずは先述の通り各施設、保育所や学校やスーパーなどそれぞれに対して評価されるアクセシビリティがあるので、例えば先ほど言いました天満橋駅があったとすると、そこからスーパーへのアクセシビリティはどうかといった話です。
 それを今度は生活パターンごとに評価します。生活パターンごとなので、各施設へのアクセスの加重平均をとりますが、そのパターンにとって必要としている活動の重みを高くするわけです。先ほどの例で言うと、仕事→保育所→スーパー→家のようなパターンのところをとれば当然保育所やースーパーの重みが高くなる評価をするということです。

〈施設のアクセシビリティと地点評価〉

 その結果がこのような形です。これは大阪府全域で行っています。左側は各施設を表し、保育所、スーパー、総合病院の三つを取り出してアクセス性を示しています。
 アクセシビリティは濃い色が高く、薄い色が低いことを示します。当然ですが都心の方が高くなります。スーパーは特に中心部の方が高くなっています。一方総合病院は全体数が少ないこともあり、比較的まばらになっています。
 それを踏まえて、右側には先ほどの三つのパターン、A の午後勤務、B の子どものお迎え、C の二度出勤というパターンの人にとっての複合的なアクセシビリティを示しました。例えば子どもが重要であれば保育所へのウエイトが高くなっており、それらをマップに上に落とすとこのようになります。こちらも当然濃い方が高いということです。
 ということは、例えばタイプ A のような生活パターンの人にとって一番住みやすいのは、この濃いドット部分だということになります。これでは少し分かりづらいところがあるので、一部分を拡大したものを次にお見せします。

〈アクセシビリティの評価結果〉

 和泉市周辺を取り出して拡大しています。それぞれ、スーパーの分布、地区公園の分布、介護施設の分布が分かるようになっています。そして先ほど示した A・B・C 三つの生活パターンの人々にとっての複合的アクセシビリティを評価します。
 この結果から見ると、例えば図の中央辺りのエリアは A パターンや C パターンの人にとってはそれなりによいアクセスを持っていますが、B パターンの人にとってはそうでもありません。というのもこの場合、B の人にとってみれば地区公園の重みが高くなりますが、それは自由時間をそのようにとっているからです。そのような公園へのアクセス性を評価している人にとってはよくないが、スーパーに行って介護施設を回って帰ってくるような忙しい人にとってはよいわけです。
 これ自体の結果はそれぞれの点に応じて出すことができますが、計画論的に考えたいと思います。例えばこれは和泉市周辺ですが自治体(市町村)の立場にとって、どのような計画をしていけばいいのかを考えてみます。

多様な生活パターンを考慮した各場所の特性評価

〈総合的な評価指標〉

 先ほど示した A・B・C の三つのパターンで、それぞれアクセシビリティがよければそれに越したことはないのですが、それをやろうと思うと、全てのタイプの施設についての必要なものを全て整理しなければいけないので、この人口減少化のご時世ではなかなか難しいのです。
例えば B だけに特化して公園を重点的につくりましょう、といった政策も考えることができます。そのようなものを考えたらどうかというのがこの提案です。それを評価するための総合的な指標が「g」で表されています。
 これをもって各生活パターンの人にとってのアクセシビリティを総合的にどう評価するのか。式の詳細説明は省略しますが、「ρ(ロー)」というパラメータが一つあります。「ρ=1」の場合は、単純に3タイプの指標を足したものだとご理解ください。一方「ρ=0.5」にしたときは、単純に足したわけではなく、例えば Bだけに特化して、B の人が非常に高いアクセシビリティを持っているところを評価するという考え方です。これで比較するとどうなるかを最後に示します。

〈多様化を考慮した政策〉

 少し分かりづらい図ですが、単純な加算和から「ρ=0.5」にしたときに、その地域の住みやすさの順位が上がる場合が、濃い赤系の暖色で、下がる場合が寒色系です。
 したがって、順位が下がるほうが人に応じて住みやすさが変わるので特化戦略をとっているパターン、要はこちらの方が”ある特定のパターンにとってこうすべきである”という、特化戦略を評価してやると、こういったところがそれなりに評価されることになります。一方、赤い円でくくっている、つまり順位が上がっているところは、どちらかというと画一的なところで評価されていることになります。
 繰り返しになりますが、これまでのように全ての場所にとって望ましい戦略をとることができればよいのですが、そうでない場合を評価しようとすると、この青の部分、例えばこの「ρ=0.5」で評価した場合に、それなりに高い点が出てくることを評価すれば、例えば府全体でそのバランスをとるような戦略もとることができるのではないかと考えております。

はじめに観光客(訪日外国人)の行動パターン

〈wi-fi プローブデータの活用〉

 このような話をやりたいと思い、かつ、これを同じように観光客のパターンでやりたいというのがミッションでした。ただ先ほどのデータは居住者のものしかなく、観光客のものがないので、どうしようかと考えたときに、親しくさせていただいている中村先生(岐阜大学准教授)に相談して、使わせてもらえませんかと言ったのがこのデータです。
 先ほど中村先生からご説明いただいた wi-fiプローブデータ(本抄録の前半参照)を使わせていただき、1週間の履歴から移動のパターンを取り出してみた事例です。

〈抽出条件〉

 今回は観光客ですが、(訪日外国人)とカッコ書きしているのは外国人かどうかを判別できないため、「観光客」という意味で、関西空港にてまず観測されたデータを選び出しました。ただこのうち3日以上観測された分については、関空で働いているとみなして除外します。初めて観測された場所が関西空港駅もしくは発着場とし、これで関西空港から入った観光客を捉えます。しかしそれだけでは分析できないので、関西空港以外の場所で観測されたことがある場合も観光客とみなしました。そして、先ほどありましたが2回以上観測された場合に「滞在」とみなしました。
 こうしてサンプルを抽出した結果、いただいた1週間のデータのうち固定アドレスを使ったら1,533件出てきました。これを使って、例えばある場所でこのようなパターンをとる人にとっては、難波が泊まるのにいいですよ、みたいな話を実はしたかったのですが、データ上の制約もあり、今回は移動のパターンだけを分類した結果を示します。

〈サンプル特性〉

 サンプル特性として、1,533のうち2カ所で観測されるのが約900で、3カ所となると約350になります。そして、それぞれの場所、関空、尼崎、難波、伊丹などでの滞在時間の平均値はこれぐらいです。難波や京都が多いことが分かります。
 1カ所目に行く場所は難波が最も多く、その次に大阪や京都が多くなっています。2カ所目に行く場合も分かるようになっています。

〈訪問地パターンによる分類結果〉

 その分類結果を簡単にご説明します。先ほどと同様に15分ごとに分け、時間の使い方が似ている人たちを同じグループに分けるとどうなるかというのがこの結果です。
 関空の例で、紫は移動を示しています。昼過ぎ、午前中、夕方に観測されて、それから移動しているパターンが結構多く出てきます。一方、2カ所で観測されたり、京都に滞在する人がそれなりに多かったり、難波に滞在する人もそれなりに多かったりというデータが出てくるわけです。
 このデータだけではそこで何をしているかまでは把握できませんが、本来なら何をしているかということ踏まえると、例えば宿泊施設としてこういった場所があって、このパターンの人たちには向いているのではないか、あるいは観光の整備をするにしても、どんな場所にどんなものを整備すればいいのか、ということの知見は得られるのではないか。そのような展望があるということだけ述べさせていただきます。


おわりに

 主に生活者に着目し、多様性を把握した上でアクセシビリティを評価しました。その上で多様性を考慮し、ある場所にとって特定の時間の使い方のパターンをする人にとっての特化戦略を評価する方法を提案しました。
 前半の社会生活調査では、場所が分からないという問題があります。一方、後半で使用させていただいたパケットでは場所が分かりますが、何をしているかまでは分かりません。よって、これらを統合したようなものができると、より精緻な分析ができるのではないかと考えております。
 以上で発表を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。
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