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今月のセミナー

-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-

近畿の港湾に関する主な動き

魚谷 憲 氏

国土交通省 近畿地方整備局 副局長

●と き 2023年12月5日(火) 16:30-17:30

●ところ 大阪キャッスルホテル 7 階 松・竹・梅の間

はじめに

 本日は、「近畿の港湾に関する主な動き」についてご紹介させていただきます。国際コンテナ戦略港湾である阪神港、クルーズ、カーボンニュートラル、大阪・関西万博に向けた取り組み等をお話します。

国際コンテナ戦略港湾「阪神港」

〈世界各地域の港湾におけるコンテナ取扱個数の推移〉

 このグラフは、過去概ね20年の国際コンテナの取扱個数と概ね10年の世界各地域別の国際コンテナ取扱個数の推移をまとめたものです。

 2011年から2021年の10年で、全世界では5億9,382万TEUから8億5,111万TEU と約1.4倍増加していますが、日本(ピンク色の部分)は2,055万TEU から2,220万TEU と約1.1倍の増加。一方、日本を除いた東アジアと東南アジア(オレンジ色の部分)は2億8,822万TEU から4億2,208万TEU と約1.5倍に増加しています。つまり、日本発着のコンテナの世界全体に占める割合は減少しており、世界全体の国際コンテナの荷動きの中で我が国の相対的な位置づけは低下しています。

〈コンテナ船の大型化と最大水深岸壁の推移〉

 一方、コンテナ船は、2000年代半ば以降、大型化が急速に進展しています。このグラフは、横軸が時間、縦軸がコンテナ船の大きさ(コンテナの積載個数)を表しています。
 1970年台初頭、「日本船主初のコンテナ船」である752TEU積の船舶が登場し、その後、コンテナ船の大型化が進みました。1985年辺りでパナマ運河を通れる最大の船幅・船長の制限のため一時的にコンテナ船の大型化は小休止しますが、その後のコンテナ船の大型化を見据え、1996年には-15m の水深を有する神戸港ポートアイランド2期のコンテナターミナルが供用されます。当時、日本の船社からは、コンテナ船の大型化はこれ以上進まないので更に水深の深いコンテナターミナルは不要といった声があがっていました。コンテナ船の大型化はその後も続き、現在、最大規模の船舶は、船長400m、最大積載量2万4,346TEU と、パナマックス船の5倍以上大きさの船舶が就航しています。この、コンテナ船大型化と我が国のコンテナ取扱量の相対的な減少が、我が国港湾の国際コンテナ基幹航路寄港喪失につながります。


〈基幹航路が寄港喪失した場合〉

 我が国港湾から国際コンテナ基幹航路が失われると、日本発着の国際コンテナ貨物は、海外港湾での積み替えが必要になります。当然、輸送日数・輸送コストが上昇する等の問題が生じます。航空旅客の場合、直行であったルートが乗換になると、その不便さは理解しやすいと思いますが、貨物の場合は、少し分かりにくいものです。以前、海外に組み立て工場を展開している企業の方からは、港湾は、自分たちのような企業にとっては、工場のベルトコンベヤーの一部の様なものだという話を伺ったことがあります。
 我が国港湾から国際コンテナ基幹航路が喪失することは、企業の立地環境の悪化、つまり、我が国の国際競争力の低下につながることです。このため国土交通省では、国際コンテナ基幹航路の我が国への寄港の維持・拡大を図るために、「国際コンテナ戦略港湾」に京浜港と阪神港を選択し、ハード・ソフト一体になった施策を集中して展開しています。


〈阪神港におけるコンテナ貨物取扱量等の推移〉

 こちらは阪神港のコンテナ貨物取扱量の約30年のグラフです。阪神・淡路大震災で大きく落ち込みましたが、その後徐々に増加し、米国同時多発テロ、リーマン・ショックコロナ禍等による落ち込みはありましたが、増加傾向は続いています。

 一方、約30年の阪神港の輸出・輸入の貿易額と全国シェアを見ると、2022年の速報値では、貿易額は23.4兆円と大幅に増えて過去最高を記録し、さらに輸出が約1兆円多い若干の輸出超過となっています。グラフ左端の1992年では、輸出7.5兆円、輸入4.0兆円と輸出が輸入の倍近い状況にあり、近畿地方を中心とする阪神港の背後圏の活動は、輸出から輸入に変化しています。


〈広域に立地する企業とその活動を支える国際コンテナ戦略港湾「阪神港」〉

 左の円グラフは、我が国のコンテナ取扱の港湾別構成比です。上の個数ベースでは、京浜港35%に対して阪神港19%。下の貿易額ベースでは、阪神港の構成比は17%と名古屋港+四日市港と同程度になります。また、右の地図は、各都道府県から輸出されるコンテナ貨物のうち阪神港を利用した割合を示しています。
 近畿圏の各県では概ね70%の利用となっていますが、岡山、徳島では50%以上、さらに阪神港から離れた滋賀、福井、鳥取、島根、広島、香川、愛媛では30%以上になります。このように阪神港は、西日本の広域インフラとして機能しています。


〈新しい国際コンテナ戦略港湾政策の進め方検討委員会 中間とりまとめ〉

 国土交通省では、現在、新しい国際コンテナ戦略港湾政策の進め方について検討委員会を設置し検討を進めており、令和5年6月に中間取りまとめを行いました。
 基本的な考え方は、従来同様、我が国に立地する企業の国際物流にかかるリードタイムの短縮の重要性を掲げつつ、コロナ禍で新たに顕在化した問題として経済安全保障をあげています。これは、コロナ禍において、日本からの輸出貨物が日本の港湾から直行した場合と海外の港湾を経由した場合で、リードタイムに大きな差が発生したことが背景です。
 主な施策としては、基本的には従来と同様、「集貨」、「創貨」、「競争力強化」があげられています。コンテナ船の寄港には貨物が必要ですが、国際コンテナは国際航空と異なり、運航・寄港の自由度が高く、機材の大型化も進んでおり、こうしたことが国際海上コンテナネットワークの形成に大きな影響を与えていると思います。


〈サプライチェーンの強靱化に資する国際コンテナ戦略港湾政策の深化〉

 国際戦略港湾政策の取り組みの一つである貨物を集める「集貨」ですが、特に日本海側の貨物は釜山経由で取り扱われることが多いため、新たに日本海側までフィーダー航路を設けて、阪神港に貨物を集めるという取組みが始まっています。更に、今後、アジアにある日本企業の工場から出荷される貨物を、釜山ではなく我が国の港湾を経由して北米に輸送する試行に取り組みます。


〈コンテナターミナルの生産性革命〜「ヒトを支援するAIターミナル」の実現に向けて〜〉

 また、コンテナターミナルの生産性向上も必要です。本船の荷役時間の最小化する。生産労働人口が減少する中で港湾労働者の労働環境を改善する。コンテナシャーシを運ぶトラックドライバーも、2024年度から労働時間上限規制の適用が始まるため、外来シャーシの待ち時間の最小化等、こうしたことを実現するため、「AIターミナル」と名付け、コンテナターミナルの生産性向上の取り組みを進めています。


〈CONPASによるコンテナターミナルゲート前混雑の解消〉

 この中で特に取り上げてご説明させていただくのが、現在、阪神港で導入に向け取り組みを進めている③の新・港湾情報システム「CONPAS」です。コンテナターミナル周辺で発生する渋滞が大きな問題になっていますが、このシステムは、外来トレーラーのターミナル滞在時間を短縮する事を目的としたもので、阪神港では携帯端末を用いた情報のやり取りを付加するシステムの構築を進めています。令和5年度中の本格運用開始を目指し、現在、大阪港夢洲の万博会場近くにあるDICTおよび神戸港PC-18で試験運用をしています。
 外来トレーラーがターミナルに近づくと、その情報がターミナルに伝えられターミナルでは事前の準備を行い、また、外来トレーラーはゲートにおいて、PSカードをタッチすることで手続きが完了し、携帯端末に行先案内が表示されます(左下の三つ目のスマホ画面)。
 従来、ゲートにおいて、伝票の受け渡しや外来シャーシへの行き先指示を行う等の作業が必要でしたが、試験運用では、69秒かかっていた工程が9秒に短縮されています。


〈サイバーポートの概要〉

 また、全国的な動きですが、「サイバーポート」という取り組みを進めています。これは、港湾関係者間のやり取りを電子化するもので、ここに示しているのは民間の港湾物流手続きを対象としたものです。従来、FAX、電話、メール等で行われてきた手続きを、サイバーポートのデータ連携により一本化するシステムで、第一次運用を2021年4月1日から行っています。
 サイバーポートは物流分野以外にも、港湾管理者の行政手続き、港湾インフラ分野でも取り組みを進めており、インフラ分野については、令和5年4月から10港を対象に試験的な運用を始めています。

 

クルーズ、カーボンニュートラル、地域振興等

 次にクルーズやカーボンニュートラルの取組みについてご紹介します。

〈我が国のクルーズ船寄港に関する状況〉

 新型コロナウイルス感染症の拡大により2020年3月以降、国際クルーズ船の寄港が停止しました。左のグラフが訪日クルーズ旅客数、右のグラフが外国船社と日本船社のクルーズ船寄港回数を示していますが、2020年以降、急激に減少しているのがお分かり頂けると思います。

 その後、2022年10月に水際対策全体が緩和され、クルーズ船業界団体でガイドラインを作成し、2022年12月から日本船社、2023年3月から外国船社による我が国への国際クルーズ寄港が開始されています。2023年は1,826 回を予定しています。
 また、2023年3月31日に閣議決定された観光立国推進基本計画の中では、クルーズ再興に向け三つの目標を掲げています。一つ目は、訪日クルーズ旅客数を従来と同程度である250万人まで増やす。二つ目は、クルーズ船の寄港回数を従来と同程度である2,000回まで増やす。三つ目は、従来では最大67港であったクルーズ船が寄港する港の数を100港まで増やすというものです。現在、国土交通省では、この目標に向けクルーズ再興に取り組んでいます。


〈クルーズ船の寄港実績・予定等〉

 近畿地方整備局管内のクルーズ船の寄港実績ですが、過去252回が最大の寄港回数であったものが、2023年は172回の予定です。まだコロナ前までには戻っていませんが、徐々に増加しつつある状況です。
 一方、近頃、オーバーツーリズム、バスの運転手の不足等の問題が顕在化しつつあります。


〈カーボンニュートラルポート(CNP)の目指す姿〉

 国土交通省では、港湾のカーボンニュートラルを目指し、カーボンニュートラルポート(CNP)と名付け、取り組みを進めています。港湾で発生するCO2は、大きく二つに分けられます。一つは港湾物流等の港湾活動から排出されるCO2、一つは港湾に立地する発電所や工場等の立地産業から発生するCO2です。港湾のカーボンニュートラルは、これら港湾で発生するCO2をどうするか。そして、このための水素や燃料アンモニア等の代替エネルギーをどのように受け入れるか、受入環境の整備という課題があります。こうした課題の解決に向け、いま各港で「脱炭素化推進計画」の検討が進められています。


〈「港湾脱炭素化推進計画」について〉

 「脱炭素化推進計画」は、令和4年の臨時国会で港湾法を改正し、従来の任意計画を法定計画としたものです。それぞれの港湾の港湾管理者、関係自治体と臨海部立地企業、物流事業者等が連携し策定に取り組むもので、近畿地方整備局管内では、3カ所、神戸港、大阪港と堺泉北港と阪南港の3港をまとめた「大阪みなと」、姫路港と東播磨港の一部をまとめた播磨臨海地域で検討が進められています。
 神戸港では、任意計画はもう既に作成・公表され、今年度以降、法定協議会に移行すると聞いています。また、「大阪みなと」では、現在、法定計画の策定に取組んでおられます。播磨臨海地域では、任意計画の骨子作成後、法定計画策定に取組んでいるところです。播磨臨海地域では、関西電力のLNG火力発電所が立地している等、代替エネルギーとしては水素との親和性が高い地域です。


〈神戸港CNP形成計画(2023年2月公表)〉

 神戸港で作成された任意計画のCNP形成計画のイメージを示しますが、例えば電気推進船の導入、陸上から船舶への電力供給の導入、ターミナル内でのCO2排出削減等に取り組む計画としており、代替エネルギーである水素については、姫路港から二次輸送する計画をしています。このように、CNPについても、各港の役割や機能の分担が検討されています。


〈みなと緑地PPP制度〉

 次に、「みなと緑地PPP」ですが、令和4年の臨時国会で港湾法を改正し作られた制度で、港湾の緑地で収益施設を整備する民間事業者に、その収益の一部を維持管理や整備に使用していただくという制度です。現在、近畿地方整備局管内では、神戸港と大阪港で、事業者の選定手続きを進めており、神戸港では新港埠頭のアリーナ周辺の緑地、大阪港ではマリーナ付近の緑地を対象としています。

近畿地方整備局管内の主な事業の概要

 近畿地方整備局管内の主な事業内容について、簡単にご説明させていただきます。


〈管内の港湾、港湾空港プロジェクトなど〉

 港湾空港関係では、9港湾と八尾空港で直轄事業を行っています。空港整備は、以前は伊丹空港も直轄対象でしたが、現在は八尾空港のみが対象です。
 近畿地方整備局管内の予算は、港湾事業、海岸事業、空港事業等合計276億円で直轄事業を行っておりますが、これに、先日国会で可決された補正予算約60億円を加えて取り組んでいるところです。


〈神戸港〉

 国際戦略港湾である神戸港では、国際海上コンテナターミナル整備事業として、現在は、主に岸壁背後の荷さばき地の耐震強化などを進めております。
 また、皆様もご関心が高い大阪湾岸道路西伸部については、六甲アイランド~ポートアイランドとポートアイランド~和田岬の橋梁基礎水中部等が港湾整備事業の対象です。
 現在は、六甲アイランド~ポートアイランドの主塔基礎部の載荷試験を実施しており、この工期を概ね2024年度後半までを予定しており、試験施行が終わると本体工事に着手する予定です。

〈大阪港〉

 国際戦略港湾である大阪港では、神戸港と同様にコンテナターミナルの岸壁背後の荷さばき地の耐震強化等を進めています。新島地区の直轄土砂処分場の閉めきりが完了したので、今後、航路整備を行う計画です。


〈国際物流ターミナルの整備〉

 また、近畿の各地においては、背後の企業活動や住民生活を支えるために、国際物流ターミナルの整備を、舞鶴港、姫路港、堺泉北港、日高港、和歌山下津港などで進めています。
 姫路港では、令和3年度に新規事業採択した岸壁、航路・泊地、臨港道路の整備に取りかかっていく計画です。堺泉北港では、桟橋方式で岸壁整備を進めています。舞鶴港では、臨港道路の整備、令和3年度に採択した岸壁整備として地盤改良等を進めています。

〈予防保全事業、避難港、海岸事業など〉

 また、老朽化した岸壁の予防保全、避難港である柴山港での防波堤の整備、和歌山下津港海岸地区での海岸整備等にも取り組んでいます。

大阪・関西万博に向けた物流機能強化

 最後に大阪・関西万博関連の話を少しいたします。
 令和7年に開催される大阪・関西万博では、特に万博期間中の交通渋滞が懸念されています。万博会場となる大阪港夢洲には、従来からC10,C11,C12のコンテナターミナルがあり、時間帯によって、公道上でコンテナトレーラーの渋滞が発生していました。万博開催に向け、公道上でのコンテナトレーラーの渋滞を解消するため、荷さばき地の拡張、コンテナ車両の待機場所の増設等の対策を行っています。さらに、夢洲へのアクセス性を向上するため、夢舞大橋と此花大橋について4車線から6車線への拡幅なども行っています。

 また、大阪メトロ中央線についても咲洲から夢洲への延伸を行っています。咲洲から夢洲へのトンネルは、整備当初から道路の間に鉄道を通す空間を確保しており、この空間を使って、地下鉄(大阪メトロ)を延伸します。

 このように、もともとは物流機能が集積していた夢洲において万博を開催するために、物流や人流の強化にも取組んでいます。
 以上、雑駁な説明でございましたが、私からの発表を終わらせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。

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