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今月のセミナー

-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-

新しい運び方と付加価値物流の展開
~ヤマトグループのフレイターについてのご紹介~

鈴木 達也 氏

ヤマト運輸株式会社 執行役員 貨物航空輸送オペレーション設計部長

●と き 2024年2月9日(金)

●ところ 大阪府教育会館たかつガーデン2階コスモスの間(オンライン併用)

はじめに

 私はヤマトのフレイターの事業責任者という立場で、この1年ほど準備を進めてきました。元々会社としてはその前から検討しておりましたが、宅配便の会社である当社が飛行機を持つという、ある意味大それたことをするに至った背景についてお話しいたします。
 これは単に飛行機つまりフレイターを購入したという事象だけではなく、当社の歴史も踏まえ、どのような経緯で、何を思って導入したのか、といった部分も踏まえながらのお話しとなります。そして当社として考える物流の展望も踏まえながら、フレイターをどう活用していくのか、当社だけではなく社会全体のためにどうお役立ちさせていけるかについて、当社なりの考えをご説明させていただこうと思っております。
 ぜひ皆様の何かしらの参考にしていただければと思っておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。

2号機の到着について(速報)

 冒頭に、たまたまの出来事ですが、お伝えしたいことがあります。ちょうど昨日(2/8)の朝、シンガポールでずっと改修を行っていた2号機となる飛行機が到着し、私も見に行ってまいりました。
 ニュースで取り上げられていたのでご覧なった方もいらっしゃると思いますが、昨日はJALさんも成田空港で767フレイターのお披露目会を開催され、私も拝見しました。写真では右の2枚にJALさんの767フレイターと当社の321が並んで写っています。いい写真なのでお見せしたいと思い、資料に入れてみました。

 767と321ではサイズも用途も違うと思いますが、貨物専用機をどう使っていくかというところ、あるいは今後の物流全体の物の動きのとらえ方を考えるという意味では、共通する部分もあるのではないかと考えています。
 4月11日から飛行機が飛び始める予定で、それに伴ってコンテナ、フォークリフト、TT車などの準備も着々と進んでいます。TT車(トーイングトラクター)に当社のネコのマークが入っているのですが、TT車にネコマークが入るのは初めてなので、お目にかけたいと思いご紹介しました。

 奥にコンテナが写っていますが、AAY(機体形状に合わせて上部を斜めにカットしたメインデッキ用のコンテナ)というあまり国内では見かけないタイプのコンテナです。このようなものも使ってオペレーションを実行していく予定です。

ヤマトグループのご紹介

 では本題に入ります。大枠は2部構成で、当社の紹介部分と、それを踏まえてフレイターをどう使っていくかという解説です。

<事業規模>

 当社は宅配便を皆様にご利用いただくことで成長してきた会社で、宅配便の中では国内で一番のシェアを持っております。数字で申しますと、全国で3,400の営業拠点、約5万台の「ラストマイル」を配送する車両、そしてセールスドライバーが6万人超。この経営資源を使いながら、年間で23億個弱の荷物を運ぶビジネスを行っております。
 近年ではクロネコメンバーズがあります。昔は不在票を入れて再配達などを行っていましたが、クロネコメンバーズというサービスを始めて、今では約5,000万人の会員の方にご利用いただいています。
 これは数自体も多いのですが、数が多いだけではなく、年間85%以上のアクティブ率になっており、それだけの数のお客様と何かしらのコミュニケーションをとっています。月でも4割ぐらいのアクティブがあるので、形はいろいろですが、例えば「再配達お願いします」といったように、お客様とつながっています。そして、それらをデータとして利活用しながら、より効率化を図りながら仕事を進めており、ある程度利便性も認めていただいた上でこれだけ多くの方々にご利用いただいているのかなと考えております。

<グローバルネットワーク>

 網の目を張り巡らせた宅配便のネットワークの使い方を考えることで、今までそして将来にわたるビジネスのあり方をつくっていきます。
 国内のイメージが強いかと思いますが、グローバルでも25カ国75都市に自社ネットワークを持ち、30カ国以上の代理店ネットワークを持っています。国際小口輸送、フォワーディング、美術品のような特殊な領域の物流も長年手がけてきています。

<創業以来のイノベーション企業>

 ここまでが概略的なご紹介です。ここから、フレイターにつながる部分ということで、当社の歴史を説明いたします。 当社の創業は1919年、100年と少しの会社です。全国にトラックがまだ204台しかなかった時代に、4台のトラックを買って銀座で創業しました。まだ馬車や牛車がメインで荷物を運んでいた時代に、創業者がこれからは車でスピーディに運ぼうと考えました。これは非常にイノベーティブだと思いますし、先見の明を持って事業を始めたということです。
 その後1929年には「路線便」という積み合わせに変わりました。それまでは1カ所から1カ所へトラックで配達する形でしたが、いろいろなお客様から預かった荷物を集めて安く運ぶ路線事業という形態にいち早くスイッチしました。
 その後1976年に「宅急便」という商品を開発して今に至ります。物流という領域で時代の一番前を進んでいくのだという気概を持ってやってきた会社だったという話です。しかし、そんなにうまくいっていたのかというと、そんなことはございませんので、経営危機に陥った歴史もあります。

<社会の変化、消費行動の変化への対応>

 戦後、1960年の前ぐらいから、道路網が整備されていく中で、全国でトラックが東京から大阪、全国に向けてどんどん走り始める時代になってきました。当時の社長は「箱根の関所は越えない」と言っていましたが、時代に取り残されてしまいます。そんなことを言っている間に、関西のトラック事業者がどんどんやってくる時代になり、かなり危なかったという話です。

 こちらにあるように、1963年の『危ない会社』というビジネス書に掲載されたこともありました。この時代は、実際に競争環境の中で競合に先を越される中、非常に厳しい時代を過ごしていました。こうした状況で、ある意味博打、と言うと不適切かもしれませんが、1976年に宅急便を発売開始しました。今から歴史を振り返って見ると、宅急便を始めた人間が知恵を絞って考えたという美しい話でありますが、決してよい話だけではありませんでした。
 かなり追い詰められた中で、それでも何とかしなければいけない状況で、家庭の主婦などのお客様がどういった行動をするのかを観察しながら、宅急便というビジネスモデルを考案し実行していきました。
 結果として、今は大きな成功を収めることができたわけですが、過去には非常に危ない時代も過ごしながら続け、今に至っております。

<「宅急便」が創出したイノベーション>

 ゴルフ宅急便、スキー宅急便、クール宅急便など各種商品があります。この宅急便の車自体、当社が考えてつくった非常に革新的な車両です。こういった形で新しいサービスを生み出しながらご評価をいただいてきました。
 この中で共通しているのは、新しい価値をつくることです。新しい価値をつくり、需要が需要を呼んで大きく広げていく、そうして新しい需要をつくっていくことだと思います。それまではスキーに行くのにも、スキー板を持って移動していたので電車の中はスキーに行く人たちのスキー板で一杯でした。ゴルフも同様です。それが当たり前だった時代に、「宅配で送れる」という価値を提供したら、皆様が「いいね!」と思ってご利用いただけるようになりました。ゴルフもしかりです。こういったことが非常に大きなポイントであったのだろうと思っています。
 宅急便は、今までできないのが当然だったこと、ないだろう無理だろうと思っていたところに新しいサービスをご提案して、「確かに便利だよね」と認められることで需要が拡大し、会社も発展するというサイクルを回してきました。
 特にここで、あえてクール宅急便のお話をします。それまで地方の事業者で、生鮮品やさまざまな食品をつくられている方がビジネスをしようと思うと、商圏はその地域内だけでした。それがクール宅急便で保冷しながら運べるようになったことで、地方の事業者の方々に通信販売も含めて新しい販路をご提供して、お客様の事業成長にも貢献することができました。
 このようなところは当社としても、「なぜ私たちがこの社会に存在していられるのか」に対しての理由となる部分ではないかと自負しております。そのような意味で通信販売による新たな販路というのも、社会が発展していく中で当社が提供するサービスがその一つのきっかけになったと考えております。

<インターネット、新型コロナが変えた社会・経済・暮らし>

 ここまではずいぶん古い、1990年くらいまでの話でした。そこから後の今に続く社会は、インターネット(これもすでにかなり前ですが)、コロナも含めて大きく社会環境が変わってきています。当然オンラインでの消費体験が増え、消費行動が変わります。要は社会におけるモノの動き方や売り方、全部が急速に変化してきています。当然この20年の間にも非常に大きな変化が起きており、そこに対して当社も企業としてどのような形で対応していくかを考えるべき局面に立っています。
 元々個人から個人へ配達していたものですから、我々としては「届ける人の思い」が大事です。モノも届けるが思いもお届けする、というのが宅急便の考え方の原点で、ここは今も変わっていません。
 ただ、これだけインターネットによるECが発達している社会においては、今まで送る人と受け取る人は別の人だったのが、送る人と受け取る人がある意味で同じ人になったわけです。したがって、物を運ぶことに何の価値が求められているのかという話になってきます。「思いは要らないのでその辺に置いておいて」と、玄関前に置けばいいという時代になっています。私自身がECを多用しており、「何で荷物を持って帰っちゃうんだよ」なんて思ったりするぐらいですから、やはり求められるものが違うのです。
 そうなると、当然今までのやり方はむしろ邪魔なだけで、「置いておいてほしいのに持って帰られた」といった状況は評価されないわけです。ただ、これは当社の原点である「思い」の部分と矛盾する部分があるので、そこに対して我々はどうしていけばいいのかを考えていかねばなりません。これが今の課題だろうと思っております。その辺りの話はまた改めてさせていただければと思います。

<『物流』への期待の高まり>

 期待というより危機感ではないかという感じもします。物流を今後も維持していけるのかという社会問題があります。別に宅配だけの世界ではなく、一般的によく言われる話ですが、人手不足や高齢化などの環境変化、トラックドライバーの減少、免許保持者自体が減っています。
 こういった中で、我々だけでなく物流全体が今後も機能を維持していけるのかという課題も抱えていると思っております。ただ「運べないからしょうがない」というわけには当然いかないので、何かしらの方法でクリアしていくことを考えていかねばなりません。
 スライドには「暮らしやビジネスの変化に対応し、変化の先を行く」と綺麗に書いていますが、やはり社会変化の幅が大きく、どうなっていくか予測できない中でも、当社としての宅配サービスのあり方をつくっていくことが必要だろうと思っています。

<これからの未来のために>

 そうした中で、2月5日に次の4月から始まる中期経営計画を当社として発表したところです。中央に「中期経営計画SX2030」と書いてありますが、SXは「サステナビリティトランスフォーメーション」の略です。2030年に向けて環境がどんどん変わっていく中で、いかにサステナブルにサービスをお届けしながら、事業として発展させていくかについて発表しております。

 左の経営理念は、我々が入社以来呪文のように叩き込まれるものです。念仏のように毎度毎度唱えるのですが、実際そうだと本当に思っております。最後の行にあるように、本当に我々は事業を通して豊かな社会の実現に貢献したいと考えています。
 今までは、三つ示した赤丸のうち「運ぶ」を中心に、豊かな社会の実現に役立つよう頑張ってきておりますが、「『運ぶ』に繋がる物流」、つまりサプライチェーンでいうと、倉庫の部分など宅配だけではない物流も当然あるわけです。
さらには「新たな価値」。これも後ほど触れますが、高齢者支援など、いわゆる生活に根ざす事業をしている中で、あるいは「運ぶ」の中で、いかに社会にとってより良い存在であり続けることができるか。ここにいかに取り組んでいくかを考えながら、事業としても企業としても成長していきたいと考えています。

<従来の宅配にとどまらない価値提供>

 したがって、当社としては今後も従来の宅配にとどまらない新たな価値を引き続き提供していきたいと考えます。その中の大きな一つが、今回ご紹介させていただくフレイターです。写真で示しているもので言いますと医薬品の配送や、「ネコサポ」などがあります。

 当社では、集約のためサービス拠点を実は減らしています。これはEC化の進展の中での流れだという話もありますが、先ほど言いました「置き配」を主流とする動きの中で、小さな拠点を多く持つ方向でいくのか、効率を考えて大規模拠点にいくのかは、宅配事業にとっては一つの大きな別れ道です。
 どちらかというと、今は集約しながら大規模化を図って効率を上げているところです。とはいえ、お客様が1日何百個という荷物を持ってこられ、荷受けを行っている拠点が多くあるので、このような所に対していろいろな生活のお手伝いができるようなサービスを提供しています。これも3~4年ぐらい続けてきています。最初は全然収益につながらず、といっても収益を目指したわけでもないと思いますが、コストばかりかかっている状態でした。大体こういった事業は難しいのだと思います。
 しかし最近、一つの型として収益性も踏まえながら、サービスが成り立つような方法にたどり着いたので、ヤマトの経営資源を活用して今後このような事業の展開をしていこうと考えています。

<環境への取り組み>

 環境は、特に物流を生業としている企業として非常に重要なところなので、併せてご紹介いたします。

 先月発表しましたが、サステナブルに大きく関連するところで、ISO14068-1:2023に準拠した形のカーボンニュートラリティを宣言しました。これはカーボンニュートラルを背景に、宅急便で荷物を運んだ際に温室効果ガス(GHG)を排出しないと正式に宣言したものです。物流の中では世界的に見てもかなり最先端な取り組みではないかと思っています。
 設備では多数のEVトラックを導入、太陽光発電の導入も進めています。EV車両は8,500台、自家発電設備は既に300基程度導入しています。このような形で、そもそも排出する量を減らし、それでも削減できない分はカーボンオフセットを行います。
 この辺りは基準が曖昧で、「本当にできるの?よく分からないよね」というのが今までの正直な感覚だったかと思います。しかし2023年11月にこのISO14068-1:2023が規定され、算出の仕方も明確に決まりました。そこでその算出法に準拠した形で宅急便のカーボンニュートラルを宣言したので、宅急便をお出しいただいた場合にCO2は排出しないということになります。
 後でお話しするフレイターについても、フレイターで宅急便を運んでもCO2を排出しないクリーンな配送サービスであるとしています。これだけではありませんが、やはり「環境」「サステナブル」というテーマに対してしっかりと役割を果たしていかねばならないと思っているので、まずここから第一歩として取り組んでいることをご紹介させていただきました。

フレイター事業について

 次にフレイターについてご説明いたします。フレイター事業の目的は「荷物の増加」「環境の変化」「航空輸送環境の進化」の三つです。それぞれ簡単に触れさせていただきます。

<荷物の増加、特性の変化>

 左側のグラフは「宅配便取扱個数の推移」です。ヤマトだけではなく宅配便業界全体として、昭和60年代から個数の推移を示しています。昨年(令和4年度)50億個を突破しました。

 私は2000(平成12)年に入社したのですが、宅配便はもう成熟期で「踊り場」である、これからはそんなに伸びないなどと言われていました。新しく何か成長の種を探す必要があると、会社的には危機に思っていたのですが、現実にはそこからもう1回加速して、非常に伸びています。この10年間を見ても物量が約1.5倍に増えています。
 なぜ物量が増えているのかについて、右側の図表に示していますが、BtoC-ECも含め社会全体が多頻度・小口化したことが考えられます。BtoBの物流も小口化しており、その最たるものがエンドユーザーまで個々に届くBtoC-ECということになろうかと思います。この辺りは皆様も感覚としてご理解いただけるところではないでしょうか。
 日本全体として物流は増えていない、というのもご存知の方は多いかと思いますが、ということは物流自体は増えていない中で、宅配便だけが増えている状況が生まれております。つまり軽くて小さなものが増えているということなので、これは飛行機で運ぶものとして適性があるという理屈になります。
 再度左のグラフに戻って、では業界として航空輸送をどれだけ使っているのか。グラフの一番下が航空輸送ですが、宅配便の個数が右肩上がりなのに比べ、明らかにほとんど増えていません。つまり航空輸送は宅配便の中で全くといっていいほど使われていないのです。
 特に使わない理由もなく、適性のある荷物も増え、市場も非常に拡大している中で、航空貨物にはまだ空いているスペースがあるのではないかと考えています。今まで、国内の航空貨物でキャリアとして入ってもなかなかうまくいかない事例もあったかと思うのですが、当時と比べて物量も増えており、航空適性がある荷物も増えていることは、一つ言えることです。

<物流を取り巻く環境変化(2024年問題)>

 二つ目はいわゆる2024年問題です。これはおかげさまで昨年来、かなり社会的にも取り上げられるようになりました。やはり超長距離運転はトラックドライバーの労働時間の問題にかなり影響を及ぼしてきています。これは我々よりもむしろ小規模事業者にとってより大きなインパクトが出てくる問題です。運べないケースがじわじわ増えてきている、もしくは運べても非常にコストがかかるという状態になりつつあることは、我々も肌身で実感するところです。
 残念なのは、2024年問題は始まりに過ぎないということです。これから2030年に向かってどんどんこの状況は悪化していくと考えられます。そういった中で、長距離をトラックに頼っていていいのか、というと言い方がよくないかもしれませんが、トラックはもちろん今後も大事な輸送モードだが、そこに頼りすぎるとリスクが大きいのではないかと思っています。こういったところが環境変化であると言えます。

<航空輸送環境の進化>

 三つ目は、ここにお越しの皆様にする話でもないとは思いますが、航空輸送環境の進化です。この10年以内でみても、羽田、成田、那覇で滑走路が増え、発着の枠も増えている状況です。したがって当社のような新参者も航空機を飛ばすことができる時代になっています。
 もう一つは、滑走路が増えて飛行機の発着が増えると、機材が小型化してくるということです。10年前と比べると、明らかに飛んでいる飛行機のサイズが全体的に小さくなっています。旅客にとっては便数が増えてメリットになりますが、貨物的な観点では非常に困った状態なのです。飛行機が小型化されてコンテナが積めない飛行機も多くなっています。箱(コンテナ)をもっと使おうと言っておきながら、現実には運べない・運びづらい状況が生まれています。
 当社としては貨物航空機をもっとうまく使っていきたいのですが、環境としては飛ばせるものの、飛行機に貨物を積みづらい状況が生じているわけです。これは日本に限らず、むしろ欧米、中国では先にそうなっているので、この状況は続くだろうと考えます。
 こうした状況で、当社が飛行機を活用しようと思うと、やはり自前で飛行機を持つことが必要ではないかと考えたわけです。特にもう一つ付け足して言うと、旅客機はお客様がいる時間帯に飛ぶので、夜も含め日中がメインですが、物流はどちらかというと夜が主役です。本当は夜にも動かしたいが旅客機ではなかなか難しい。しかしフレイターであれば24時間飛ばせるので、必要とされる時間帯に運ぶことができるのも大きなポイントです。
 以上が、当社として今この状況でフレイターを持つに至った背景的な説明です。

<フレイター事業概要>

 当社が導入する機体はエアバスA321-200P2Fです。この飛行機について皆様には細かくご説明するまでもないと思いますが、28t積載できて約3,000km飛べるので、近距離アジア圏なら飛ばすことができます。
 28tがどのくらいかを我々目線で表すと、大体大型トラック6台弱ぐらいです。飛行機としては小型機に分類されますが、大型トラック6台分というのは、当社としてはそれなりの量を運ぶことができると言えます。とはいえ当社は幹線運行でいうと毎日約6,000台のトラックを走らせているので、それと比較すると6台というのはさほどの量ではないでしょう。
 要は、まだまだモノはある中で、その中の一部の物量について航空機を使おうとしているというところで、感覚的にご理解いただけるのではないかと思っています。「宅急便を運ぶため」にやっているわけでは決してなく、「新しい価値を生み出したい」と考えてやっております。
 一方でベースとなるカーゴはあるので、飛行機を満載にできるだけの物量は常に持ちながら、その中のポートフォリオをどう組んでいくのかを考える形でビジネスとして展開しています。
 冒頭で2号機がやって来たと申し上げましたが、3月ぐらいには3号機がやって来て3機が揃う予定です。運航開始は4月11日から。まだ裏でいろいろすったもんだやっておりますが、おかげさまで改修も無事済んで、訓練飛行も進んでいるので、今のところ当初の計画通り4月に運航を開始できそうです。訓練飛行は2023年11月から開始しています。
 運航路線は、4月からは成田⇔新千歳、成田⇔北九州、そして成田→那覇、那覇→北九州、北九州→成田の三角運航です。夏ごろ(8月ごろ)から羽田も使い、羽田⇔新千歳と羽田⇔北九州を深夜の時間帯を活用して飛ばす予定です。こうして最終的には21便を飛ばします。やはり多く運航して固定コストも下げていかなければなりませんし、ここはお客様のニーズも踏まえながら最大限利用していきたいと考えています。

<プルービングフライト>

 現在、プルービングフライト(訓練飛行)を実施しております。商業飛行では今のところ関空に来る予定がないので少し話しづらいところがあるのですが、プルービングは毎日関空に来ています。もしお時間があれば見に来ていただけると大変幸いでございます。

 プルービングは1日6便です。2号機が来たのでもう少し便数を増やしながら訓練飛行を重ねています。これはスプリング・ジャパンに運航を委託しているので、そのパイロットの訓練がメインなのですが、このような形で訓練飛行しています。

<フレイターの特徴>

 フレイターの特徴を四つ示しました。フレイターをどのように活用していくかという話です。

 一つ目が「需要に合わせた区間・ダイヤ」。飛行機を持つことはそれなりにリスクを伴うので、なぜ持つのかという意味では、ここが一番です。やはり当社としては「飛ばす需要があるところ」「飛ばしたいところ」に、飛ばしたい時間帯でダイヤを組めるということです。もちろん好き勝手に飛ばすわけにはいきませんが、それでも旅客機では組めないような時間帯に、物流に必要な時間・区間で飛ばすことができる。それが当社としては最大の「飛ばす意義」だと思っています。したがって、いま運航する所だけではなく、もちろん関空もそうですが、将来的にはニーズを見つけて飛ばしていくことを考えていきたいと思っています。
 二つ目の「大型貨物の輸送が可能」というところ。ジャンボのフレイターなどにはかないませんが、今のベリーでは運べないような荷物も搭載することができます。決して宅急便の箱に入ったものだけではなく、いろいろな物流、例えばメーカーのさまざまな大型の物や異型物なども運ぶことが可能です。
 三つ目が「災害時に強い」こと。これは近年、当社の事業にとっても大きな課題です。毎年のようにいろいろな災害が起きています。今年(2023年5月)の能登の地震もそうですし、大雪、大雨で毎年多くの道路が寸断される状況の中で、飛行機は強いと言えます。これだけで解決できるわけではありませんが、やはり何か大きな問題があったときに飛行機で物を運べる手段を持っていることは、事業的にも社会的にも有意義です。能登空港も、結局は実施しなかったのですが支援物資をどうしようかという話もありましたし、このようなケースでも大いに活用できるものであると考えております。
 四つ目が「地方創生・地域活性化への寄与」です。これも冒頭から申し上げていたように、当社が存在する意義として非常に大事なテーマであると思っています。物量の比率はどうしても都心から地方(くだり)に向けていくにつれ高まってきて、のぼりの量は減ってきている現状があります。ECが増えるとどうしてもこの現象は起こるのですが、やはりのぼりの荷物も増やしていく必要がありますし、そのバランスを取ることは当社のみならず社会的な課題解決にもなるのではないでしょうか。そういった意味では、地方で生産されたものをいかに都心に早く届けるか、都心だけではなくいかに世界中につなげていくか、そこに当社がお役に立てる部分も大きいのではないかと思っています。

<商業運航開始時の運航ダイヤ(予定)>

 商業運航のダイヤを示しております。4月11日からは、成田→新千歳を2往復、成田→北九州1を往復、そして三角運航で一日計9便を予定しています。

 8月からは先ほど申し上げた通り、羽田便を追加します。新千歳、北九州を1時台に出て3時頃に羽田に到着、また4時台に羽田を出て6時台に新千歳、北九州に到着するダイヤを追加する予定で進めています。

 かつて当社も「超速宅急便」というものを行っていたのですが、夜出して朝受け取る宅配をいかに広げていくか、そこには非常に価値があると考えているので、こういった形で活用していきたいと思っています。

<地方からの時間距離の短縮・国内空港(輸出集約空港)を活用した流通促進>

 これは九州をイメージして作成した資料で、このようなことができますよと、いま実際に営業的なところでもお話させていただいている内容です。

 1日3便出て行き、一番上で言うと、8時に北九州を出る便があります。この便は前日に製造されたり出荷されたりしたものが、朝の10時ごろ成田に到着するので、同じの午後に海外に出て行くフレイターにつなげることができます。また、都内の飲食店に当日届けることもできます。
 このように使っていくことができますし、中段のように午前中に出荷されたものは19時半の北九州便に載せれば、この時間であれば例えば豊洲や大田市場などに深夜に入れることもできます。当然ですが宅急便や一般貨物として翌日の午前中や朝一から関東一円あるいはもう少し広い範囲までお届けすることができます。
 下段の終日集荷では、1日じゅう製造・出荷されたものが夜の1時40分の北九州便に載れば、朝には羽田へ到着するので、ここから羽田発の国際線につなぐこともできるでしょう。また国際線だけではなく、国内線につなぐこともできます。九州から来て、新千歳からも同じタイミングで飛んで来るので、そこでクロスドックして載せれば、九州から北海道まで翌朝に届けることもできます。
 このような形で地方からの時間・距離短縮が、お客様にとってメリットになっていくことができればと考えています。

<将来に向けて>

 最後のスライドに「地方からの時間距離を短縮して地方創生につなげます」と書いておりますが、先ほど申し上げた通りです。これは当社だけがやりますというわけではなく、社会全体としてこれを活用することで、社会や経済がよりよくなっていくことが必要であろうと思っています。

 飛行機も3機来て飛びますので、まずそこのオペレーションが重要で、簡単な話ではないと思っています。オペレーションをしっかり確立した上で、当社だけではなく皆様にもオープンな形でフレイターを活用していきます。
 そうした中で需要が増えていけば、新たな使い方や新たな需要が生み出されていくでしょうから、活用しながら国内だけでなく、国際線も見据えながらつなげていくことができればと思っております。

おわりに

 新しい価値をいかにご提供・ご提案していけるかというのは、我々企業にとっても大事であり、それによって需要を拡大していきたいと考えます。新しい価値を今後も提供して、「ヤマトの存在は社会にとっていいよね」という状況をつくっていきたいですし、それができなければ企業は衰退してしまうと思っていますので、そうならないよう危機感も持ちながらやっていく必要があります。
 フレイター自体、決して当社にとって安い買い物ではなく、かなりのリスクを背負いながら進めているという自覚もあります。ただそれを踏まえても新しい価値をつくっていき、当社の事業としても成長し、そして社会にとっても役に立とう、こういったところを考えてやっております。
 飛ばし始めるのがゴールではなく、サステナブルに飛び続けていける状況をつくることが当社の使命です。その実現に向けてこれからも進んでいきたいと思っております。載せる荷物がありましたらぜひご紹介いただきたく思います。いろいろな手を打ちながら、フレイターが永続的に飛べるように頑張ってまいりたいと考えております。
 本日は皆様のお忙しい時間をいただきありがとうございました。当社の歴史も踏まえてフレイター事業について述べました。多くの人に「なぜヤマトはフレイターを持つのか?」と言われますが、その理由をご理解いただければと思ってご説明させていただきました。 ご清聴ありがとうございました。

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