KANSAI空港レビューは、航空・空港に関する知識の普及のため、
(一財)関西空港調査会が発信する情報サイトです。

航空空港研究レポート

-学識者による研究レポート-

関西国際空港における旅客流動の実態
- 純流動と総流動からの考察-

松本 秀暢 氏

関西学院大学 総合政策学部

1 はじめに

 航空旅客流動は、乗り換えの有無に関わらず、旅客の本来の出発地から本来の目的地までの「純流動」と、旅客が複数路線を乗り継いだ場合には、各路線の旅客流動として計上する「総流動」に分類される。航空ネットワークの観点からは、これは直行便(=純流動+総流動)と経由便(=純流動)に該当する。
 本研究レポートでは、OAGデータと国土交通省の空港/航空輸送関連統計に基づきながら、この観点から、関西国際空港(関西)における航空旅客流動の実態を把握する。

*本研究レポートにおける分析で利用したOAGデータは、公益財団法人中部圏社会経済研究所の調査研究プロジェクト「中部国際空港の将来像調査研究会(座長:加藤一誠(慶應義塾大学商学部教授)」から提供を受けた。ここに、記して感謝申し上げる。


2 航空旅客流動の類型化とデータの整合性

2.1 航空旅客流動の類型化

 図1は、関西を事例として取り上げた上で、航空旅客流動を4タイプに類型化したものである。同図に示されているように、関西を出発する旅客は、
(1)ローカル(Local):関西とB空港の間の乗り換えを伴わない旅客流動
(2)ビヨンド(Beyond):B空港での乗り換えを伴う関西とC空港の間の旅客流動
(3)ビハインド(Behind):関西での乗り換えを伴うA空港とB空港の間の旅客流動
(4)ブリッジ(Bridge):関西およびB空港での乗り換えを伴うA空港とC空港の間の旅客流動
の4タイプに類型化でき、乗り換えの有無に関わらず、これらは全て純流動となる。一方、関西とB空港の間の旅客流動には、ローカルの旅客流動に加えて、ビヨンド、ビハインド、およびブリッジの「関西-B空港」間の旅客流動が含まれており、これらの旅客流動の合計が、関西とB空港の間の総流動となる。
 


 通常、公的な空港統計や航空輸送統計は総流動に基づいていることから、以下では、関西を出発する旅客に焦点を当てながら、航空旅客流動を上記の4タイプに分類する。

2.2 データの整合性

 ここでは、以下で利用するOAGデータと公的データを比較することによって、その整合性を確認する1)。まず、表1(1)は、2019年における「OAGから検索した関西を出発する旅客数(=ローカル+ビヨンド+ビハインド+ブリッジ)」と、「空港管理状況調書(国土交通省)における関西の乗客数」について、国内線と国際線別に比較したものである。空港管理状況調書の乗客数は正確であることを考慮すると、OAGデータの捕捉の程度は、国内線で約79%、国際線で約94%、そして合計で約91%であることが分かる。
 次に、表1(2)は、2019年における「OAGから検索した関西を出発する国内旅客数(=ローカル+ビヨンド+ビハインド+ブリッジ)」と、「航空輸送統計調査(国土交通省)における関西の国内定期航空路線別輸送実績」を比較したものである。同表からは、羽田と高知は100%を上回っている一方で、それ以外の路線は70%~80%台であり、成田は約69%と大きく下回っていることが分かる。しかしながら、全路線の平均では約83%であることから、大きくは逸脱していないと判断できる。


1) OAGデータは、主に、MIDT(Marketing Information Data Transfer)データが基本となっており、MIDTのデータ・ソースは、予約システム(セーバー、トラベルポート、アマデウス、アマカス、インフィニ、アクセス、トッパス、トラベルスカイ等)である。従って、OAGデータは全ての旅客流動を反映している訳ではない。

 

3 関西国際空港における旅客流動の実態

3.1 類型別旅客流動数とその割合

 表2は、2019年における関西、そして比較対象として東京国際空港(羽田)と成田国際空港(成田)のローカル、ビヨンド、ビハインド、およびブリッジ別にみた旅客流動数とその割合を示したものである。同表からは、羽田および成田と比較しても、関西を出発する旅客は、ローカルが多いことが分かる。そして、同空港から他空港経由で目的地に移動する旅客流動(ビヨンド)も、一定程度、存在していることが観察される。その一方で、同空港は、西日本を中心とする国際拠点空港として、航空ネットワークの充実を図っているものの、ビハインドから判断する限り、現時点では、その機能を十分に果たしていないと判断できる。
 表3は、関西における乗り換え旅客の内訳を示したものであり、図1のハブ(=ビハインド+ブリッジ)に該当する。これは、内内ハブ(国内線→国内線)、内際ハブ(国内線→国際線)、際内ハブ(国際線→国内線)、および際際ハブ(国際線→国際線)の4タイプに分類できる。同空港においては、「国際線から国際線への乗り換え」が最も多く、次いで、「国際線から国内線への乗り換え」と「国内線から国際線への乗り換え」が同程度となっている。そして、「国内線から国内線への乗り換え」が最も少ない。同空港の乗り換え旅客数自体は少ないものの、国際線から国際線、そして国内線と国際線の相互接続に相対的な優位性があり、より一層、ハブ空港(乗り換え空港)としての機能強化/拡充が期待されるだろう。

 

3.2 旅客の純流動

3.2.1 ローカル

 以下では、特定路線に焦点を当てながら、関西を出発する旅客の純流動を把握する。まず、表4はローカルの上位10空港を示したものであるが、これは、図1におけるローカルのB空港が該当し、この旅客数は純流動となる。同表からは、関西を出発する旅客は、仁川、台湾桃園、香港、および上海浦東を本来の目的地としている割合が相対的に高く、日本の3空港(羽田、那覇、新千歳)を挟んで、韓国の金海(釜山)と金浦(ソウル)、そしてタイのドンムアンがそれに続いていることが分かる。
 表1(2)で示した通り、航空輸送統計調査(総流動)では、羽田(664,475人)、那覇(596,784人)、そして新千歳(596,592人)であるが、OAGデータ(純流動)では、羽田(460,956人)、那覇(457,442人)、そして新千歳(406,097人)であり、このような実流動の把握が可能となる。

3.2.2 ビヨンド

 次に、表5はビヨンドの上位10空港を示したものであるが、これは、図1におけるビヨンドのB空港が該当する。同表からは、関西を出発する旅客は、香港で乗り換える割合が最も高く、次いで、羽田、仁川、ドバイ、上海浦東の順となっていることが分かる。

 表6は、香港(B空港)を取り上げて、同空港で乗り換えた旅客の最終目的地(C空港)に該当する上位10空港を示したものである。同表からは、関西を出発する旅客は、香港を経由して、スワンナプーム(バンコク)やスカルノ・ハッタ(ジャカルタ)、シンガポール・チャンギをはじめ、東南アジアに向かう割合が相対的に高いことが観察される。

3.2.3 ビハインド

 そして、表7はビハインドの上位10空港を示したものであるが、これは、図1におけるビハインドのB空港が該当する。同表からは、関西で乗り換える旅客は、羽田から到着する割合が最も高く、次いで、新千歳、那覇、福岡、さらにダニエル・K・イノウエ(ホノルル)と続いていることが分かる。

 表8は、羽田(A空港)を取り上げて、関西で乗り換えた旅客の最終目的地(B空港)に該当する上位10空港を示したものである。同表からは、羽田を出発して関西で乗り換える旅客は、那覇や新千歳、宮古等の日本の空港、そして青島や杭州、大連、上海等の中国の空港に向かう割合が相対的に高いことが観察される。

3.2.4 ブリッジ

 最後に、表9はブリッジの上位10空港を示したものであるが、これは、図1におけるブリッジのB空港が該当する。同表からは、関西を出発する旅客は、アムステルダム・スキポールでさらに乗り換える割合が最も高く、次いで、ヘルシンキ・ヴァンターやパリ=シャルル・ド・ゴール、ミュンヘン等のヨーロッパの空港、そしてサンフランシスコやシアトル・タコマ、バンクーバー等の北アメリカの空港、さらには羽田の割合が相対的に高いことが分かる。


 表10は、アムステルダム・スキポール(B空港)を取り上げて、関西とアムステルダム・スキポールで乗り換えた旅客の出発地(A空港)、および最終目的地(C空港)に該当する上位5空港を、各々、示したものである。同表からは、関西とアムステルダム・スキポールで乗り換える旅客は、ヌーメア=ラ・トントゥータを出発した割合が最も高く、続いて、日本の3空港(福岡、羽田、那覇)と金海(釜山)の割合が相対的に高いことが観察される。一方、関西とアムステルダム・スキポールで乗り換える旅客は、フランスの空港(パリ=シャルル・ド・ゴール、ボルドー・メリニャック、リヨン・サン=テグジュペリ、ナント・アトランティック、トゥールーズ・ブラニャック)を最終目的地としていることが分かる。

4 おわりに

 本研究レポートでは、まず、航空旅客流動について、4タイプ(ローカル、ビヨンド、ビハインド、およびブリッジ)への類型化を行った。次に、OAGデータの整合性を確認するために、国土交通省の空港/航空輸送関連統計との比較を行った。そして、関西を事例として取り上げた上で、その旅客流動の実態を把握すると同時に、特定路線に焦点を当てた考察を行った。
 OAGデータは旅客流動を全て捕捉している訳ではないが、同データに基づく分析結果からは、関西の旅客流動はローカルが80%以上と大部分を占めている一方で、約15%は他空港で乗り換えて本来の目的地に移動する旅客流動(=ビヨンド)であることが明らかとなった。そして、関西で乗り換える旅客流動(=ビハインド+ブリッジ)に関しては、全体の約2%程度であることから、同空港の目指す「西日本を中心とする国際拠点空港」としての機能は、現時点では、あまり大きくはないことが判明した。
 関西は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からの完全回復を見据えながら、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)を契機として、今後、インバウンドやアウトバウンド、さらにはビジネス需要を確実に捉える必要があるだろう。

参考文献

1)国土交通省航空局 [2019] 空港管理状況調書.
2)国土交通省航空局 [2019] 航空輸送統計調査.
3)3) OAG [2017] Asia’s Hubs: Dynamics of Connectivity. OAG Aviation Worldwide Limited, 16 pages.

ページの先頭へ