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航空空港研究レポート

-学識者による研究レポート-

我が国における空港後背圏の設定と 国内航空旅客の流動特性
- 関西3空港の競合・補完関係に関する一考察 -

堂前 光司 氏

関西外国語大学 外国語学部

1 はじめに

航空旅客流動や航空貨物流動を分析する上で、各空港の後背圏を適切に設定することは、極めて重要である。
本研究レポートでは、我が国の国内航空旅客を対象として、空港後背圏を設定した上で、航空旅客の流動特性を明らかにした。そして、分析結果を踏まえて、関西3空港(関西国際空港(関西)、大阪国際空港(伊丹)、神戸空港(神戸))の競合・補完関係について、簡単な考察を行った。

 

 

2 我が国の国内航空旅客を対象とした空港後背圏の設定

2.1 EU における地方区画

EU には、地域統計分類単位(NUTS)という統計のための地方区画の標準規格があり、人口規模を基準として、NUTS1(300-700万 人 )、NUTS 2(80-300万 人 )、 お よ び NUTS 3(15-80万人)という3レベルの地方区画を設定している。そして、それらの地方区画に対応する地域内総生産(GRP)や人口データも入手可能である。EU を離脱したイギリスでも、基本的に、それまでのNUTS を踏襲した地方区画(ITL)があり、ITL 1(12地域)、ITL 2(41地域)、および ITL 3(179地域)の3レベルの地方区画を設定している。このように、EU やイギリスでは、空港後背圏として利用可能な地方区画が設定されており、例えば、EU は NUTS 2、そしてイギリスでは ITL 2や ITL 3が、空港後背圏に該当するであろう(図1参照)。その一方で、我が国に関しては、都道府県レベルでは複数空港が存在するケースが少なくはなく、都市圏レベルでは空港空白地域が生じるなど、空港後背圏として利用可能な地域区分は存在しない。

図 1 EU における地域統計分類単位(NUTS 2)
出所)Eurostat より、筆者引用。

2.2 空港後背圏の設定

以下では、我が国の国内航空旅客を対象として、国土交通省の航空旅客動態調査に基づきながら、空港後背圏の設定を行う。表1は、2019年11月13日(水)に実施された同調査結果から、関西国際空港に関する集計結果の一部を抜粋して示したものである。同表からは、例えば、岸和田市を出発地として、同空港から飛行機に搭乗した旅客数は145人(2.2%)、岸和田市を目的地として、同空港で飛行機を降機した旅客数は86人(2.0%)、その合計が231人(2.1%)、そして岸和田市を現住所とする乗降客数は221人(2.1%)であることが分かる。

表1 航空旅客動態調査における関西国際空港の集計結果
注)2019年11月13日(水)の集計結果に基づく。
出所)航空旅客動態調査(2019年 / 平日)より、一部抜粋。

 

ここでは、まず、東京23区と政令指定都市は1都区および1市とした上で、全国の1,725市町村を対象として、同一郡に含まれる町村は集計した。その結果、空港後背圏の設定は、合計1,168市郡(1都区含む)に対して行った。次に、定期便および定時運航する不定期便の運航実績があった86空港について、各市郡の「乗降客の現住所」に着目し、各市郡は、「乗降客の現住所」が最も多い空港の後背圏であると定義した。例えば、先に示した岸和田市については、関西の「乗降客の現住所」が最も多かったことから、関西の後背圏に含まれることになる。その一方で、豊中市に関しては、ここでは示していないが、伊丹の「乗降客の現住所」が最も多かったことから、伊丹の後背圏に含まれることになる。

 

図2 関西3空港の後背圏(国内航空)

図2は、国内航空旅客を対象として、上記で述べた方法によって設定された関西3空港を中心とした後背圏を示したものである1)。

 

 

3 国内航空旅客の流動特性

3.1 分析方法

以下では、重力モデルによって、我が国における国内航空旅客の流動特性を把握する。重力モデルは、適用しやすい利点があることから、航空旅客や貨物流動の規則性や法則性を明らかにするために、これまでに多くの研究で利用されてきた。
ここで、被説明変数は、2019年の空港間旅客流動数(1万人以上)とし、説明変数については、社会的要因として、2で設定した空港後背圏の1人当たり GRP と人口、路線距離、離島路線(ダミー変数)を取り上げた。そして、経済的要因として、ビジネス目的の旅客数割合、LCC の便数割合、運賃(普通運賃)、路線競争度、および新幹線との競合路線(ダミー変数)を検討した。路線競争度に関しては、ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(HHI)を採用した2)。
以上を踏まえて、分析モデルは、式(1)のように定式化する。そして、式(1)の両辺を対数変換した上で、最小二乗法(OLS)によって、各国内路線の旅客流動数を推計した。

1) ただし、特定の平日を対象として、全ての旅客を対象に実施された全数調査に基づいていることから、市郡によっては、明らかに不自然な空港の後背圏に含まれていたケースも少なくはなかった。その場合には、経済的、社会的、文化的結合関係、あるいは、明治初期までの地方行政区分であった令制国の地理的区分等を考慮して、総合的な調整を行った。
2) これは、ある市場における企業の競争状態を表す指標の 1 つであり、ここでは、各路線に参入している全ての航空会社の便数シェアの 2 乗和となる。HHI は、運航会社が 1 社である路線では「1(%表示である場合は「10,000」)」となり(独占状態)、多くの運航会社が競争している路線ほど「0」に近付く。

3.2 分析結果

表2は、2019年における推定結果を示したものである。まず、モデルの適合度については、自由度調整済決定係数の大きさから、極めて良好であると判断できる。次に、説明変数については、新幹線競合路線ダミーは有意ではないものの、離島路線ダミーは5%水準で、それ以外の説明変数は1%水準で統計的に有意であり、符号条件に関しても、全ての変数で一致していた。
そして、各説明変数については、まず、空港後背圏の1人当たり GRP が高く、かつ、人口が多い路線ほど、旅客流動数は多くなることが明らかとなった。次に、路線距離が長いほど旅客流動数は多くなる傾向にあるが、通常、重力モデルでは路線距離は移動抵抗になると考えられ、Matsumoto and Domae(2019)をはじめ、多くの先行研究で示されているように、国際航空では、長距離路線ほど旅客流動数は少なくなる。国内航空を対象とした本分析では、距離が長い路線ほど旅客流動数は多くなる可能性を指摘できるが、この背景としては、高速鉄道をはじめ、短中距離路線には他の交通機関との競争があることから、長距離路線ほど航空輸送に競争力があることが挙げられるだろう。そして、ビジネス目的の旅客数割合や LCC の便数割合が高い路線ほど、また、航空会社間の競争が激しい路線ほど旅客流動数は多くなるとともに、他の交通手段が限られていることから、離島路線においても旅客流動数は多くなるといえる。その一方で、普通運賃が高い路線ほど旅客流動数は少なくなると同時に、新幹線との競合路線においても、旅客数は影響を受けることが観察された。

表2 推定結果
注)***は1%水準で、**は5%水準で、*は10%水準で統計的に有意を表す。

 

 

4 関西 3 空港の競合・補完関係に関する考察

4.1 モデルの再現性

図3は、関西3空港を対象に、上記の重力モデルによる各路線の旅客流動数(理論値)と実績値を比較し、同モデルの再現性を示したものである3)。同図における45度線の上側に位置する路線は、実績値が理論値を上回っている路線である一方で、45度線の下側に位置する路線は、実績値が理論値を下回っている路線である。全体的に、本モデルの再現性は高いといえるだろう。
まず、伊丹については、羽田線(理論値:163万人、実績値:554万人)が45度線から大きく外れており、それ以外の路線でも、例えば、新千歳線(理論値:34万人、実績値:118万人)、那覇線(理論値:50万人、実績値:117万人)、あるいは、仙台線(理論値:51万人、実績値:90万人)をはじめ、全体的に実績値が理論値を上回っている路線が多い。その一方で、関西については、羽田線(理論値:100万人、実績値:134万人)や成田線(理論値:53万人、実績値:68万人)のように実績値が理論値を上回っている路線と、新千歳線(理論値:144万人、実績値:119万人)や那覇線(理論値:232万人、実績値:119万人)、あるいは、福岡線(理論値:94万人、実績値:47万人)のように実績値が理論値を下回っている路線が、45度線の上下にほぼ均等に散らばっている。神戸に関しては、唯一、実績値が理論値を下回っている羽田線(理論値:82万人、実績値:74万人)、そして理論値と実績値がほぼ一致している茨城線(理論値:25万人、実績値:24万人)を除けば、全ての路線において、実績値が理論値を上回っていることが分かる。

 

3) 各路線の旅客流動数は航空輸送統計調査(2019 年)に基づいているが、12 ヶ月全てに旅客流動データが計上されている路線のみを対象としている。したがって、2019 年に路線が開設されていても、例えば、神戸-長崎線のように、ここでは取り上げられていない路線も存在する。

図3 モデルの再現性

4.2 関西3空港の競合・補完関係に関する考察

以下では、関西3空港を対象として、複数空港で開設されている路線に着目し、競合・補完関係の観点から、簡単な考察を行う。表3は、関西3空港全てに開設されている路線、および関西と伊丹の2空港に開設されている路線を取り上げて、重力モデルによる理論値と実績値を比較したものである4)。
まず、3空港全てに開設されている路線については、実績値が理論値を下回る路線は、羽田線における神戸、そして新千歳線と那覇線における関西の3路線のみであり、それ以外の12路線では、実績値が理論値を上回っていた(表3(1)参照)。次に、関西と伊丹の2空港に開設されている路線に関しては、実績値が理論値を下回る路線は、熊本線と長崎線における関西と伊丹、そして福岡線、新潟線、松山線、および高知線における関西の8路線であり、それ以外の8路線では、実績値が理論値を上回っていた(表3(2)参照)。
以上のことからは、全体的に3空港全てに開設されている路線については、これら3空港は競合することなく、補完関係にあると判断できる。すなわち、後背圏の航空需要に対して、各空港は適切に対応しているといえるだろう。その一方で、関西と伊丹の2空港に開設されている路線に関しては、特に、熊本線と長崎線では、両空港とにも実績値が理論値を下回っていることから、これら2空港は競合している可能性が高いだろう。

4) 伊丹と神戸の 2 空港、あるいは、関西と神戸の 2 空港に開設されている路線は存在しない。

表3 複数空港開設路線における理論値と実績値の乖離

 

 

5 おわりに

本研究レポートでは、国土交通省が公表している航空旅客動態調査の集計結果を踏まえて、まず、我が国の国内航空旅客を対象に、空港後背圏の設定を試みた。次に、設定した空港後背圏に基づきながら、重力モデルによって、我が国における国内航空旅客の流動特性を把握した。そして、関西3空港を取り上げて、複数空港開設路線に焦点を当てながら、これら3空港の競合・補完関係について、簡単な考察を行った。
設定した空港後背圏をベースに、国内航空旅客の流動特性を検証した結果、社会的要因(空港後背圏の経済水準と人口規模、路線距離、離島路線)や経済的要因(ビジネス旅客割合、LCC 便数割合、運賃水準、路線競争度、新幹線との競合路線)によって、かなりの程度、説明できることが明らかとなった。また、関西3空港の複数空港開設路線を対象とした考察からは、関西と伊丹の2空港に開設されている路線では、競合関係が観察されたものの、基本的には、これら3空港は補完関係にある可能性が示された。

参考文献

1)国土交通省航空局 [2019] 航空旅客動態調査 .
2)松本 秀暢 [2024] 我が国における空港後背圏の設定と国内航空旅客の流動特性, ていくおふ, 174, 近刊 .
3)Matsumoto, H., Domae, K. [2019] Assessment of Hub Status of Cities in Europe and Asia from
an International Air Traffic Perspective. Journal of Air Transport Management, 78, 88–95.

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