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航空空港研究レポート

-学識者による研究レポート-

ローカル・トゥ・ローカル路線 持続可能の条件

幕 亮二 氏

北九州市立大学大学院マネジメント研究科

■本邦航空市場におけるローカル・トゥ・ローカル路線

 筆者は、前職シンクタンク勤務の20年前から、地域航空路線の活性化について調査・研究を行ってきました。現在は、U ターンした九州を中心に、幅広く地方創生・地域活性化のお手伝いをしていますが、引き続き全国地域航空システム推進協議会の専門委員として、地域航空の課題解決にも取り組んでいます。「交通需要は派生需要」と言われますが、地域活性化の視点からは、どうしても新規の航空路線は「卵と鶏」の卵に見えてしまい、全方位で誘致の可能性を引き上げたいのが本音です。発着枠に制約のある混雑空港以外の地方空港間を結ぶ、ローカル・トゥ・ローカル路線への期待もあります。
 しかし、国内航空市場において、「ローカル・トゥ・ローカル」と呼ばれる航空路線は、必ずしも一様のイメージではないようです。ネットワーク形態を表現するだけなら、ハブ・アンド・スポークの対義語はポイント・トゥ・ポイントであり、敢えてローカル(特定の地域)というからには、就航両地域の際立った個性を支え、地域活性化に資するという意図は共通です。ただ、使用される機材・空港、路線距離により、イメージの相違があります。これらの要素は互いに相関するため、ターボプロップ機を使用する距離の短い路線と、ジェット機を使用する距離の長い路線の、大きく二種に分類できます。

■リージョナルジェットによるダウンサイジング効果と課題

 ジェット機と言っても、ローカル・トゥ・ローカル路線には、B737や A320シリーズのようなナローボディと呼ばれる客席通路1本の小型ジェットではなく、リージョナルジェットと呼ばれる、それよりもさらに小さい100席以下の機材が使用されることが多いです。FDA(フジドリームエアラインズ)は、エンブラエル社製の ERJ170(76席)と175(84席)を使用しています。運航頻度の増加によるサービス水準向上は、背後圏の広域化やリピーター確保等の需要振興と、卵と鶏の関係にあり、先ずは定期便化による認知度向上が優先です。そもそも、座席当たり運航コストが低い小型ジェットの方が、L/F(搭乗率)が損益分岐点を超える需要量があるなら、リージョナルジェットよりも輸送効率は高いです。着陸料の最大離陸重量(トン)当たり料金の閾値が、小型ジェットとリージョナルジェットが同一の1,380円であることも、リージョナルジェットの運航コストが割高となっている要因のひとつと考えられています。幕・磯野他2011では、当時休便する前は小型ジェットで運航していた8路線(福岡・富山、新千歳・松山、新千歳・中標津、新千歳・鹿児島、新千歳・庄内、関空・福島、関空・秋田、関空・花巻)について、リージョナルジェットにダウンサイズすることで黒字化の可能性があるか検証しましたが、ベンチマークとする小型ジェットによる運航時に赤字で、リージョナルジェットにダウンサイズした際に黒字転換するであろう路線は、関空・秋田の1路線のみでした。

■ターボプロップ運航社の費用構造と課題

 ターボプロップ機はプロペラで推進力を得ますが、セスナ等小型機のようにピストン往復運動をプロペラの回転力に変えるレシプロエンジンとは違い、ジェット機同様にタービン回転力を推進力とする構造のエンジンを乗せています。国産の YS11や海外ではサーブ社の340B やボンバルディア(現デ・ハビランド)の DHC8等、かつては国内でも多様な機種が運航していました。しかし、各社ともに新造機生産を中止し、シリーズ初期の機材については純正部品の製造も打ち切られているため、これらの機材で運航している国内の運航事業者は、ネットオークションで部品を調達せざるを得ないケースもあり、とくに規模の小さい運航社においては機材関係費用の変動を大きくするリスクとなっていました。現在、ターボプロップ機を新造しているのは、エアバス傘下の ATR 社だけで、天草エアライン(熊本県)やオリエンタルエアブリッジ(長崎県)といった国内のターボプロップ運航社では、同社機材への更新が進んでいます。山村・加藤2021では、オリエンタルエアブリッジ社の費用構造において、航空機材費が全体経費の占める構成比は7 ~ 8%とされていますが、整備費は20 ~ 23%と約3倍です。機齢が進むほど整備費は高くなる傾向があります。また、オリエンタルエアブリッジは離島航路を運航しているため、機材購入に対する国の補助があり、ある程度費用を抑えられているという面があります。この点では、天草エアラインの条件は厳しく、天草は橋で九州本島と繋がっていますから、機体購入に係る国の補助はありません。代わりにという訳ではありませんが、県と地元自治体が毎回たいへんな苦労と議論を重ねて、機材更新を行ってきました。

■ローカル・トウ・ローカル路線活性化のために

 ストック効果と呼ばれる、交通サービスを利用することで発現する効果は、集積が集積を生むような産業(例えば金融・サービス業等)とこれを支える雇用者・都市機能が集中した大都市圏間と、その他地方圏とのアクセスを改善するプロジェクトにおいて、極めて大きな効果があり、かつその効果は大都市圏のみならず全国に遍く波及します。山口・幕2003においても、1990 ~ 1998年の9年間に首都圏・大阪圏と地方圏間のアクセシビリティが改善されなかったことによる経済損失は56.7兆円、年平均6.3兆円と推定されています。ハブ・アンド・スポークネットワークのサービス水準改善が、広く全国各地にもたらされることは確かでしょうが、現状を起点に将来を見通すフォアキャスト的な予測のみで政策形成がなされることには反対です。そもそも一極集中の是正は永遠の課題ですが、超高齢化や気候及び地政学的環境等確実な将来環境変化の中で、我々がどのような国土構造を志向すべきか、目指す将来像を明確にした上でバックキャスト的に目標までの工程を立てることが急務です。

■ EASLLP の評価検証と今後の議論のために

 前述のように、ターボプロップ機を使用機材として運航している地域航空会社は、単独で更新機材を調達・整備を続けていくことは大変難しいです。調達条件という段階以前に、アフターコロナの需要急回復の市場において、購入の枠(スロット)を確保することも、大手エアラインの系列社でなければハンデを覚悟しなければなりません。九州では、天草エアライン、オリエンタルエアブリッジ、日本エアコミューターといった地域航空会社に、大手 ANA・JAL を加えた5社で、日本航空株式会社地域航空サービスアライアンス有限責任事業組合(EAS LLP)が2023年までの時限的な組織として設立され、系列を超えたコードシェア等一定の成果を挙げています。コロナ禍の影響を鑑み、同組合の評価検証はこれから明らかになるのだろうと思いますが、宿題となっていたサービス供給面の構造的課題の改革に、スピード感を持って取り組める体制への変革が必要だと感じます。規模に対して高コストである地域航空運航社の経営改善に資するには、スケールメリットの効果を最大限に得るべく、ウエットリース等現行制度上不可能なものを除く全ての生産要素において、コモンキッチン化し得る範囲を最大化する必要があります。しかし、コモンキッチン化による効果は、アウトソーシング先選択における競争環境に大きく左右されます。また、仮に持株会社設立による経営統合によって、経営改善あるいは持続可能な経営を志向する意思統一ができるとしても、直接間接にステークホルダーとなる自治体では、現路線の維持+αの、地元利便性第一(採算性や機材回し上のダイヤ制約度外視)を要求する意見も無視できないでしょう。そもそも、地域にとっては路線の維持とさらなる増加による地域活性化が目的であって、そのための地域航空経営への参画ですから、持分比率で合意形成することは至難の業だと想像できます。LLP の時限を鑑みると、議決権が平等で代表権も全社員にある合同会社(LLC)が、次の組織形態検討の選択肢なのかも知れません。その際、中途半端な屋上屋となる持株会社では、持株会社の経営の方が安定しない懸念があります。機材・部品等のドライリースだけではなく、整備に係る機能も有するべきと考えます。しかし、地域航空路線を持続可能ならしめることが目的であり、持株会社を持続可能ならしめるために運航各社の負担が増えては本末転倒です。具体的に持株会社に寄せるべき機能と、持株会社の収入となるリース料+αで、持株会社及び運航各社がともに持続可能となり得るのか、フィージビリティ・スタディを実施する必要があるでしょう。


〈参考文献〉

幕亮二・磯野文暁・大石礎・伊藤智彦(2011)「地域航空の課題解決に資する共同保有機構の提案」三菱総合研究所『所報 (54) 』28-47
山口勝弘・幕亮二(2003)「都道府県間アクセシビリティ改善の経済効果」日本交通学会『交通学研究(47)』9-19
山村宗・加藤一誠「人口減少地域における航空の将来-地域航空」中央経済社『航空・空港政策の展望―アフターコロナを見据えて』182-189

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