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各界の声

気候変動と社会インフラ

小林 潔司 氏

一般財団法人関西空港調査会理事長
京都大学名誉教授

 新年おめでとうございます。本年も当調査会へのご指導・ご鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
 近年は、毎年国内のどこかで、台風や梅雨時の豪雨などにより大きな被害が発生することが当たり前のようになってきている。昨年も、8月から9月にかけてのノロノロ台風10号による九州から関東に至る広範囲の大雨被害や、地震被害からの復興が始まったばかりの能登半島への9月の記録的大雨など、家屋の浸水のみならず、土砂崩れによる道路寸断、広範囲にわたる停電など社会インフラにも大きな被害を生じさせる災害が発生した。
 こういった気候変動への対策として、二酸化炭素などの温室効果ガスの発生量を抑制するいわゆる「緩和策」に加えて、社会が気候変動に適応するという「適応策」の必要性が示されている。集中豪雨などの極端気象が増加していく中で、人の営みを安全に継続していくための取組みを計画的に進めていこうということだ。例えば、健康面では熱中症対策の強化、農業では品種改良や作付け品種の変更、水資源対策ではため池管理など渇水増加リスクへの備えなどである。前述の深刻化する自然災害への対応としては、防波堤・堤防の強化、都市の排水能力の強化、災害発生時の廃棄物処理体制の確立などの対応が求められている。少し前には、この「適応策」という言葉が、現実に進みつつある気候変動への対応として報道等でもよく使われていたが、最近はこの言葉を目にする機会が減ったように思う。それだけ、巨大台風や大雨などの極端な気象現象が日常的になり、それへの対応の必要性が当たり前のものとなってきたためだろう。加えて、ヨーロッパや中東での戦争による航空路への影響も長期化しており、2025年も、私たちの日々の生活を支える水道、電気などの社会インフラや、物流・人流を支える交通網に甚大な被害を生じさせる危険要因は、より一層増大していく傾向にあると思われる。
 一方で、今、AI技術、XR技術など、少し前には想像もできなかったような高度なデジタル技術が社会に実装され、日々進化している。また、海洋気象、河川・治水、道路・水道・電気など、社会基盤に関するビッグデータを活用した高度な予測・分析も可能となっている。このような技術を応用すれば、都市の施設・インフラを計画・調査・設計段階から3次元モデル化することでき、サイバー空間内で様々なシミュレーションを行うことで、気候変動等による危機に対応した都市空間の在り様を、迅速に描くことも可能になるのではないだろうか。
 今年は、1970年の日本万国博覧会、1990年の国際花と緑の博覧会以来の、関西で3度目の国際博覧会が開催される。夢洲の会場での参加国や企業のパビリオンの展示、開催されるイベントが楽しみであるのはもちろんのことだが、高度に進んだデジタル社会の中で始めて開催される博覧会となり、過去の博覧会では得ることができなかった、半年間、世界中から人やモノが集中する様々なデータが蓄積される絶好の機会にもなるだろう。このようなデータが、将来の関西の都市形成に生かされることも、また期待したいと思う。

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