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各界の声

国土強靭化基本計画と 防災の主流化

小林 潔司 氏

一般財団法人関西空港調査会理事長 京都大学名誉教授

 新年おめでとうございます。本年も当調査会へのご指導・ご鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

 新型コロナ禍も収束を迎え、ようやく日常を取り戻した年明けとなりました。昨年は世界の平均気温が過去 125,000 年の中で最高を記録したといわれています。気候変動に起因する風水害リスク、南海トラフ等の地震リスク、桜島大噴火等の火山リスクなどによる国土の脆弱性を克服することが求められています。私は内閣官房のナショナル・レジリエンス懇談会の座長を仰せつかっており、年頭のご挨拶の機会に、現在進みつつある国土強靭化基本計画についてご紹介させていただきたいと思います。

 昨年の 6 月 14 日、大規模災害に備えた国づくりを進める「改正国土強靱化基本法」が成立しました。その結果、国土強靱化基本計画の策定とそれに基づく施策の実施に関する中期的な計画策定が法制化され、そのための予算規模が明示的に設定されました。国土強靭化の目的は「防災の主流化」にあります。防災の主流化という言葉は、国連の国際防災戦略の中で使われました。そこでは、1.各国政府が「防災」を政策の優先課題とすること、2.すべての開発政策・計画に「防災」を導入すること、3.「防災」に関する投資を増大させることを防災の主流化の柱としています。現実として、市場メカニズムの中では防災投資は主流になりにくく、だからこそ、防災の主流化を政策的スローガンとして掲げる必要があるのです。目の前にある災害リスクに対し、立ち遅れた市民社会を防御するためのハード・ソフト両面の政策の実施を加速させなければなりません。それが国土強靭化の意義なのです。

 国土強靭化とは、国土が災害という危機的状況に直面した時においても、社会やコミュニティの基本的な健全性を維持することができる能力を意味します。国土強靭化基本計画では、1)人命の保護、2)国家・社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持される、3)国家の財産及び公共施設に係る被害の最小化、4)迅速な復旧復興という 4 つの強靭化目標を掲げています。さらに、それを達成するために、1)国民の生命の財産を守る防災インフラの整備・管理、2)経済発展の基礎となる交通・通信・エネルギーなどのライフラインの強靭化、3)デジタル等新技術の活用による国土強靭化施策の高度化、4)災害時における事業継続性確保をはじめとした官民連携強化、5)地域における防災力の一層の強化(地域力の発揮)という国土強靭化の 5 つの基本的な方針を設定しています。国土強靭化基本計画では、デジタル田園都市国家構想、そして国土形成計画と一体となった取り組みの一層の強化を図るため、デジタルなどの新技術の活用による国土強靭化の高度化、地域における防災力の一層の強化による「地域力」の発揮の 2 点を新たな施策の柱として盛り込むことになりました。

 国土強靭化基本計画は、各省庁が策定する都市・地域に関わるさまざまな計画のいわゆるアンブレラ計画になっています。アンブレラ計画の傘下に、例えば国土形成計画などが位置づけられます。国土強靭化基本計画と国土形成計画の間に上位計画と下位計画という完全な階層関係が存在するわけではありませんが、国土形成計画の中の国土強靭化に係わる事項に関しては国土強靭化計画が上位計画となります。アンブレラ計画では、危機管理時という特別のモードを除いて、基本的に各省庁が策定した個別計画や政策に基づいて、それぞれの省庁が守備範囲である政策を確実に遂行していくという枠組みを前提としています。このとき、省庁間の政策コーディネーションをどのようにやればいいのかという問題が生じます。この問題に対して、国土強靭化基本計画は、脆弱性評価の結果に基づいて「35 の起きてはならない最悪の事態」という最悪シナリオに即して、政策の漏れ落ちや政策の成熟度間のアンバランスを調整するというメカニズムを有しています。さらに、国土強靭化基本計画では、防災・減災、国土強靭化のための 5 か年加速化対策により取り組みの更なる加速化・深化を図りつつ、社会情勢の変化や施策の進捗状況等を考慮し、おおむね 5年ごとに計画内容の見直しを行うことになっています。国土強靭化に係る都道府県・市町村の他の計画等の指針となるべきものとして、都道府県・市町村が国土強靭化地域計画を定めることができます。これから地方自治体レベルでの国土強靭化計画の見直しや策定が進展していくことが期待されます。

 国土強靭化地域計画では、都道府県・市町村による政策遂行の地域力がまさに問われます。地域における災害リスクは多様であり、しかも地方自治体には分野を越えた意思決定を速やかに決定・行使する現場力が求められます。地域ごとの多様性を考慮すれば画一的な地域力を想定することは困難であり、それぞれの地域の実情にあった地域力を育んでいくことが求められます。地方自治体が単独に強靭化政策を立案し政策を遂行することには限界があります。おりしも、近畿ブロックを対象とした国土形成計画のための広域地方計画の策定が進展していますが、そもそも国土形成計画は国土強靭化基本計画との整合性を図ることが求められるものであり、その意味からも、近畿ブロックの広域地方計画は、個別地方自治体の強靭化政策の近畿ブロックでの広域的連携を実践していくための重要な役割を果たすことが期待されています。

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