深澤 亮爾 氏
読売新聞前ヨハネスブルク支局長(現・大阪社会部)
秋は関西でアフリカ関連のイベントが集中する「アフリカシーズン」でもある。10月に東大阪市で開かれた「大阪アフリカビジネスフォーラム」と神戸市で9~10月に行われた「AFRIKA meets KANSAI」が代表的だが、それ以外も大小様々なイベントがあり、遠かったアフリカが少しずつ近づいていることを実感した。特に人口増が続く市場の有望性に着目したイベントが目立ったが、アフリカ進出は日本企業にとってこれまでの成功体験が通用しない「鬼門」でもある。20年から3年半、南アフリカに駐在した元特派員の立場から現地の事情を報告する。
その難しさは、東大阪のフォーラムであいさつした京都精華大ウスビ・サコ教授の言葉が象徴的だ。「近年、世界中がアフリカに注目し、特に中国、トルコは国ぐるみで進出し、ライバルが多い。中古車輸入規制など各種規制も年々厳しくなっており、『遅れた国』という甘い認識で進出したら失敗する」。まさにその通り。「最後のフロンティア」などと旧態依然の「未開」イメージで語られることも多いアフリカだが、実際に現地を訪れた人の多くは、ITが生活の隅々に普及した未来的な暮らしに目を見張る。
例えば、ケニアでは携帯電話を使ったモバイル決済「M-PESA(エムペサ)」が下町の屋台にまで普及する。日本では議論のあるライドシェアも各地で普及し、コートジボワールではアラブ首長国連邦に本社を置く「YANGO」が、南アフリカではエストニアの「BOLT」と米国の「UBER」が激しくシェアを競う。21年に私がジンバブエの農村を訪れた時、電気も水道もない伝統的な家屋の中で高齢女性がソーラー発電を頼りにスマホを使っていた。最先端技術が一足飛びに普及する現象を「リープフロッグ」と呼ぶが、新しい技術に親和的な若年層が多いアフリカは開発が遅れたことを強みに非常に変化に柔軟な社会となっている。市場攻略にはまず激しい競争に勝ち抜く柔軟さが求められる。
同時にアフリカは「コネ社会」でもある。政府に提出した書類が延々と放置されるかと思えば、「誰か」を介した途端に物事が動く。現地で順調に業績を伸ばす日本企業の関係者はそろって「成功のカギ」を迅速な意思決定とそれを可能にする現場の裁量権を指摘する。とかくアフリカで日々生じる問題は、日本の想像・常識とかけ離れている。現地の実情を謙虚によく学び、必要であればこれまでのやり方をかなぐり捨てることも必要だが、この当たり前の姿勢が、「遅れたアフリカ」イメージが強すぎると意外と見落とされがちになる。
前述のイベントを通じて多くのアフリカ出身者と出会い、彼らが日本で学び、日本企業で働いている事実に希望を感じる。来年は大阪・関西万博があり、多くのアフリカ諸国も参加する。これを「遠くても近い」日本・アフリカ関係に向けた契機にしたい。