-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-
田中 知足 氏
国土交通省航空局 技術審議官
●と き 2024年10月25日(金)
●ところ 大阪キャッスルホテル 7階 松・竹・梅の間(オンライン併用)
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まずは関空開港30周年、誠におめでとうございます。関空関係者の皆様のこれまでのご努力に感謝申し上げるとともに、日頃から航空行政にご理解をいただいていることに、この場をお借りして御礼を申し上げます。
本日は特別セミナーで講演させていただく機会をいただきありがとうございます。係長になりたての平成6年、「青春18切符」で各駅停車に乗って開港日に関空を訪れた記憶があり、非常に懐かしく思っています。それ以来関空には関心を持っており、本日は大変ありがたく思っております。
この30周年の節目に「空港BCP」のテーマで話してほしいと、加藤先生と小池理事からお話をいただきました。こんなおめでたいときに地味なテーマで大丈夫なのかと思ったのですが、航空の基本は安全安心であり、その基本であるBCPを取り上げていただいたのは非常にありがたいと思っています。
そしてもう一つ、空港BCPに航空局が取り組むきっかけの一つが関空であったことは事実なのですが、その後BCPがどのように育ってきたかを考えてみると、今の関空関係者の皆様の取り組みが、全国の展開に大いに役立っているということを今日お話ししたくてやって参りました。そのような観点でお話を聞いていただければありがたいと思います。
皆様は航空空港のプロの方々なので、あまり基本的なことは申し上げませんが、今日は1~5のテーマでお話しいたします。
まず、我々が各空港で事業継続計画(BCP)をつくっていったらどうだろうかと思い始めたときのきっかけです。「空港にはこんなリスクがある」ということを考えながら作業に取りかかりました。
空港における災害例です。一つ目は地震です。載せている写真は能登半島地震のときの能登空港の状況で、滑走路に10数cm以上の段差が生じ、結果として1月27日まで民間航空機が飛行不能になりました。
次に台風・大雨。写真は関空の冠水事案です。あるいは大雪や火山の噴火もあるでしょう。このような事態に備え、空港の機能をより早く復旧させて安全に運用するための手立ての一つとして、事業継続計画に着目したわけです。
これまでの経緯をご説明します。まず平成30年に関空が冠水してしまう事案が起こりました。その翌年、房総半島を北上した台風により、特に成田空港が陸上アクセスを失い、かなりのお客様が空港内に滞留してしまうという事案がありました。
この辺りの反省を受け、当時学識経験者の先生方にご指導いただきながら、「A2-BCP」を日本中の各空港で作成していただくべく、そのためのガイドラインを策定させていただいたわけです。
「A2-BCP」は、「A2」が「Advanced/Airport」を表現しており、「先進的な空港の事業継続計画」という意味です。
当時ご指導いただいた先生方が多数いらっしゃるのですが、委員長を東京大学名誉教授の家田先生が務められ、今日お越しの加藤先生にもご指導いただきました。ありがとうございました。
それから数年が経ち、その間もいろいろな災害が起こりました。令和3年には宮城県沖で地震が発生し、仙台空港に津波注意報が出ました。空港で地上作業をされる方々が屋外に出ることができず、旅客を乗せた航空機も空港の中にとどまってしまいました。ターミナルビルにも付けられず、離陸もできないという状況になり、これにどう対応するのかということが一つの課題となりました。
翌令和4年には、新千歳空港で大雪が降りました。ご存知の通り新千歳空港はJR北海道が大きな二次交通なのですが、JR北海道が数日にわたり不通となりました。これに伴って空港機能が相当程度失われてしまう事案があり、このような事案に対する反省をどう行っていくかということが課題になりました。
その間、全国97ある空港の中で、95の空港においてBCPをしっかりつくっていただきました。全国の航空関係者の皆様の意欲に改めて感謝を申し上げる次第です。
また後述しますが、皆様がガイドラインに基づいて“金太郎飴”的にBCPをつくるのではなく、地域ごとの特性に合わせたいろいろな創意工夫をされていることがその後分かってきています。また、その後さまざまな災害に遭うたびに新しいアイデアを盛り込んでいただいていることもよく分かってきており、非常にありがたいことだと思っています。
そこで我々は昨年(令和5年)の夏にこのガイドラインを見直して改訂しようという取り組みを始め、先ほどの委員会を再起動し作業を始めました。加藤先生にも、全国の空港を何カ所も巡ってヒアリングをしていただき、各地のいろいろな工夫に巡り会うことができて非常に楽しい作業でした。
このガイドラインの見直し作業が大体一段落ついたと思っていたところ、能登半島地震と羽田空港の航空機衝突事故が起こってしまったため、これらの反省も盛り込みながら、今年6月に改訂版の「A2-BCP」ガイドラインを策定することができました。
従って本日は、ガイドラインの見直し作業の結果得られた知見を皆様にご報告させていただきたいと考えます。
その一つ目が、BCPが対象とすべき災害はどんなものかを考えること。オーソドックスな台風や地震などを考えていましたが、実はいろいろなものに適用可能であることが分かってきました。
まず左上「二次交通の不通」は関空の写真で、令和5年の台風時です。確かこのとき、関空の橋は通れたと思いますが、大和川が増水して結果的に鉄道が止まってしまったため、空港側に全然問題がないのに空港が混乱するという状況が起こったのです。
その右横「航空機事故等(他空港含む)」は今年1月2日の羽田空港の航空機事故の写真です。そして雷が最近夏場によく発生するのですが、発雷があると地上職員が屋外に出られず、これにより飛行機が何時間か止まってしまいます。結果としてターミナルビル内が混雑することになります。
話が脱線しますが、「発雷」で雷の写真を載せています。若い職員に「空港に雷が落ちている写真はその辺いくらでもあるだろうから、探して載せておいて」と頼んだら、「そんな都合のいい写真あるわけないじゃないですか」と言われました。ところが最近の若い人たちはさすがで、「AIに描いてもらいました」と言ってこの画像を貼ってくれました。だからこれはどこの空港だか不明で、AIが勝手につくった空港なのですが、確かに雷も描かれてあります。最近は少し工夫するとこんなことができてしまうんだなと感心した次第です。
さて下の「津波警報・注意報」ですが、遠隔地の地震であっても津波警報や注意報が出ると、しばらく空港が使えなくなります。最近では沖縄の那覇空港で、フィリピンの地震の影響で津波警報が発令されました。能登半島地震のときも、新潟空港や小松空港は津波警報のためしばらく使えない状態になりました。
もう一つは「Jアラート(弾道ミサイル・衛星発射)」です。Jアラートが鳴ると空港の地上作業ができないので航空機がターミナルビルに着けません。
このように、非常に幅広い対象に対して備えるBCPにしていかなければならないと考えております。
改めて、空港のBCPはどのようになっているかをご説明します。資料は細かく書いているので中身まで見ていただく必要はなく、申し上げたいことをアンダーラインで示しています。
事業継続計画をつくろうとすると、我々はついつい「地震用の事業継続計画をつくる必要があるんじゃないか」「台風用が必要なんじゃないか」と思ってしまいます。しかしそこに着目するのではなく、滑走路が使えるようになっているか、二次交通は生きているのか、ターミナルは健全なのか、といった空港機能の喪失の程度に着目して計画を立てることによって、どんな災害にも対応できる仕組みにしているのがユニークな部分の一つだと思っています。
さらに空港は、改めて言うまでもなく、空港設置管理者に加え、航空会社、二次交通ほか非常に多数の方々のご協力で成り立っている施設機能であり、そのような関係者の方々が一堂に集まって事業継続計画をつくるわけです。構成員の皆様はそれぞれの事業継続計画をお持ちなので、これらが有機的に連携していくことを目指しています。
今回ガイドラインの見直しを行った際にポイントとなった点をいくつか紹介します。ここでは関空の例を出させていただきました。これがきっかけで非常にBCPが生きてくるようになったと思っています。
令和5年秋、全国の空港管理者を回っていたのですが、特にコンセッション会社の方々がよく次のようなことをおっしゃっていました。「BCPをつくりました。いざというときに対策会議を立てるが、どのタイミングで立てるべきなのか非常に迷う。なぜなら対策会議の議長である社長を引っ張り出すのはかなり覚悟がいる。従ってよっぽど大ごとでないと対策会議は立てられない」。こんな話でした。しかしそれだと何のためにBCPをつくったのか分からくなります。
一方関空では、想定される災害の程度によって、担当ベースの情報共有の場から、管理職、経営層とランク分けして柔軟に対策本部を立ち上げられるようにしているとのお話をいただき、なるほどこれが答えだなと思いました。
だからこれはしっかりコピーさせていただき、全国の空港管理者に「そんなにかしこまることなく、このような考え方のもと、まずは関係者で情報共有を図るということが大事ですよ」と提案させていただいております。
その効果は早速出ていると思います。今年の夏の台風は、なかなか進まない、あるいは去ったはずなのに帰ってくるなどいろいろな特徴がありました。先日、気象庁の職員と話したとき、「進路予報が大変でしょう」私が言うと、「その通りなんですよ。もう進路予報が“心労”予報になってしまっているんです」と言っていました。最近の台風は気象庁でも手ごわいようです。
その中で、今年のお盆に来た台風7号は房総半島のやや東側を北上していきました。これが、先述した数年前の成田の二次交通が麻痺してしまったときと進路が似ていたため、霞が関界隈では「非常に心配だ」という話になりました。ところが羽田と成田では、いずれも早い時期から対策本部を立ち上げて、航空会社、二次交通、そして気象台からの情報共有を早期に図っていただきました。
その結果非常に良いことが起こりました。まず気象台からは最新情報が常に入るので、一番危ない時間帯はどこかというのが関係者全員に分かります。二次交通の皆様はそれに基づいて、どのような交通対応を講じるかを早い段階で発信してくれます。
それを受けて今度は空港の設置管理者も、「この辺りの時間帯は何かあれば着陸制限をかける可能性があります」とはっきり言います。そうすると航空会社の方々も、着陸制限を受けて他の空港へ行くことは避けたいので、逆算してその時間帯は飛ばしてきません。何時間遅らせれば安全かということが分かるので、遅らせて飛んできます。
こうして、危ない時間帯は飛行機がほぼ飛んで来ない状態となり、成田も羽田もうまくいったと思っています。
その後、8月末に台風10号が発生、九州から朝鮮半島のほうに行くはずだったのが、なぜか太平洋側を東にズルズルと動いてきました。そのときは関空あるいは中部空港が心配されたのですが、やはり連絡体制を早く敷いていただきました。よって気象状況がどうなるかについて大体分かり、一時は臨戦態勢に入られていた関空関係者も、比較的早い段階で「これ以上成長しないな」「橋も大丈夫だな」「もう平常運用で大丈夫だな」ということが分かって事なきを得たと思います。
やはり関係者が情報を共有するという、単純ながらもそれだけのことで空港が安全になり、お客様に予見性を持って行動していただけることが分かりました。ぜひ全国の空港でこれを展開していきたいと思っております。
二次交通の確保に関しては、我々は国土交通省なので運輸局を使ってほしいというお願いがあります。具体的な例は新千歳空港で、冒頭で申し上げた数年前の大雪です。JR北海道が数日間動けなくなり、空港も機能しなくなりました。
それを受け、新千歳空港のコンセッション会社や航空局、そして運輸局などが皆様にお声がけをして対応を考えました。その結果、もしそのようなことが今後起こった場合は、各交通機関が協力して、そのときのための体制を組もうという話になりました。
資料左側に①~④の事例を示しています。
①まずJR北海道が仮に動かなくなってしまった場合、頼りはバスです。新千歳のバスは空港から札幌の各方面に向かっていきますが、もうあちこちに行くのをやめて、地下鉄の空港最寄駅1点をめがけバスでピストン運送します。地下鉄は雪に強いので、営業時間外も含めて動かすことによって、空港と札幌市内の輸送を確保します。確か既に何回か発動していると思いますが、このような作戦を立てて工夫がなされています。
②加えて、空港会社として貸切バスをしっかり用意します。③あるいはタクシーもそのときは営業区域外の運行を認めます。④情報発信もしっかり行います。
このような取り組みを実行することで、大雪の際でも二次交通の確保がかなりできるようになっているといいます。
資料には書いていませんが、空港が数日間稼働しない場合。新千歳空港で一番多いのは東京に帰るお客様です。新千歳空港から札幌市内方向に行こうとすると、北に向かうので雪が多いのですが、苫小牧方向は比較的雪が少なくて道路が生き残っていることが多いそうです。
そうすると、今度はフェリー会社と空港会社が連携して、多少なりとも東京に近づく方法としてフェリーに乗ることをおすすめできるよう、バス+フェリーという連携を発動できる仕組みも考えられています。皆様がそれぞれいろいろな工夫をされているわけです。地域地域でこのような取り組みも参考にして、対応を考えていただけるとありがたいと思っている次第です。
三つ目の話題としては、最近また特に増えてきた外国人観光客の方々の安全確保です。日本人の場合は家に帰ればいいかもしれませんが、海外の方は帰る場所がないので、訪日外国人の安全の確保も大事です。
参考までに、これは空港に限った話ではないのですが、観光庁から「訪日外国人のための危機管理計画をつくりましょう」という提案をしております。確か大阪府はもうつくられていると思うのですが、各空港が各府県でつくられる計画とうまく連携していくことを、航空局としてもお願いしています。
その中で、再び関空の例をご紹介します。地域で大規模な災害があると、当然いろいろな国の方々が困りますし、各国の大使館・領事館が「自分の国の人たちは大丈夫なのか」とやきもきされます。そうすると各国の大使館・領事館の皆様はまず空港に来て、自国の国民は安全か情報収集を行います。
そこで関空の場合は、地域の領事館等と連携して、何かあったときは領事館のブースを設置して連絡が取れるようにしているという話を聞いております。国際空港ではこのような機能が必要だと思うので、ぜひ必要な空港にはこうした情報を提供していきたいと思っています。
空港の中では、どうしても滞留者が発生してしまうことがあります。そのとき、滞留者の安全を確保するために滞留者の実態を把握する必要があります。今までは滞留者の情報を紙に書いてもらっていたのですが、また関空の例ですが、スマートフォンを使って館内にあるQRコードを読み込んで、そこに各種情報を登録すると、空港管理者の側で滞留者の状況を把握し、また必要な情報を滞留者のスマホに提供することができます。
「ここで水をお配りします」「乾パンがあります」などの情報を流したり、あるいはハンディキャップのある人が何人ぐらいいるかなどが、空港管理者側で早く把握できるといった工夫も行われており、この辺りの勉強も進めていきたいと思っています。
仙台で空港運用中に津波注意報が発令され、地上作業職員が空港に出られないため、お客様を乗せたままの飛行機が空港の中にとどまってしまうことがありました。
そのときの対応ですが、実は、震度4以上の地震があると、滑走路を点検しないと使えません。また、津波注意報が出ると、滑走路点検に行くはずの人が滑走路に出られないのです。
そこで、少し技術開発が必要ですが、我々航空局としてはドローンなどを活用して、早期に滑走路の状況を確認する仕組みをつくっていきたいと思っています。これによって、津波警報などが発令されたときでも、より安心な空港を目指していきたいと思っております。
次に滞留者について少しお話をさせていただきます。これまでは、災害が起こってターミナルビルの中に人がとどまることを「良くないこと」ととらえていた雰囲気があり、滞留者をいかになくすかということが命題であったような気がします。
ところが、今回の能登半島地震のときには地域住民の避難する場所がなく、不安な方はむしろ空港に来てくださいというぐらいでした。そうなると、「滞留者を一日も早くなくす」という考え方は必ずしも正しくないのではないかということになります。
資料の下半分に「滞留者の範囲」とありますが、自発的な滞留者と自発的ではない滞留者がいます。自発的ではない滞留者には早く目的地に行ってもらうよう努力します。ただ、次に飛行機が動くまでここにいたいという人、あるいは避難のために空港に来たという人たちには、まず安全を確保することが大事です。従って一言で滞留者と言っても、どちらにも対応する必要があるというふうに発想を変えねばならないと考えています。
その他、細かいことがいろいろあるのですが、このようなことを柱に新しいガイドラインをつくり、また全国の空港管理者の方々にさらに良い事業継続計画をつくっていただきたいと思っています。
続いて、せっかくの機会なので、今年1月に起こった能登半島地震および羽田空港の事故を踏まえた反省などについて少し触れます。
まず能登半島地震。自然災害で能登空港の滑走路が使えなくなってしまったことはこれまであまりなく、しかも1カ月近く空港が使えなくなったのは、我々の記憶の中では非常に珍しい事案でした。2,000mの滑走路にいくつか段差ができてしまったのです。今考えてみると切土と盛土の境目辺りで壊れることが多かったような気がするのですが、このようなことが起こりました。
ここは石川県管理なので、一般的には石川県が復旧することになるのですが、我々国土交通省の職員がテックフォースと称して応援に行き、復旧作業のお手伝いをさせていただきました。
その結果、10日後には自衛隊固定翼機が離着陸を開始してくれました。そして27日目には民間航空機(ANAの定期便)が運航を再開してくれました。いずれの飛行機も、車椅子に乗った方が飛行機に乗っていくのです。飛び立つ前にそんな光景を目にして、皆様やっぱり待ってらっしゃったのだなと思いました。我々は本当に被災者を待たせてしまったなと。このようなことが二度とないように、空港は一日も早く復旧しなければいけないと思っています。
これに対して我々がやろうと思っていることがいくつかあります。一つは滑走路の完全復旧です。応急復旧は終わったものの、まだ滑走路に起伏が残っています。もし羽田-能登の飛行機に乗られる方がいたら、着陸前の機内放送を注意して聞いてみてほしいのですが、「能登空港は能登半島地震の影響で、滑走路にまだ起伏があるので飛行機は揺れますが、安全ですから心配しないでください」のようなアナウンスが流れます。
「心配しないでください」と言わなくても心配無用なほうが良いので、早く直さねばと思っています。初めてのことですが、今回は石川県の工事を国が代行する形で本格復旧をさせていただいております。既に大規模災害復興法という法律があり、それに基づいて国が代行するのですが、若干足りない部分があります。
大規災害復興法は、本格復旧を国が行うことができるという規定にはなっているのですが、初動の応急復旧の部分については、空港の場合国が代行できる規定がありません。だからその辺りの不足については改善する必要があると思っているところです。
先述しましたが、特に切土・盛土の空港は日本中にあるので、果たして他の空港は将来的に能登空港のようなことにならないのか、といった辺りもしっかり研究し、必要な手当があればしていかねばならないでしょう。
一方で、能登空港は、被災直後から回転翼機による救難・救助活動の基地でした。1月1日が発生日で、翌日から医療関係者がヘリコプターに乗って来て、その後ずっと使っています。このグラフで47離発着の日がありますが、通常能登空港はANA便が一日2便往復あり、4離発着のところに47離発着しているわけで、大変な状況です。現地も大変だったと思います。
先ほど土木工事のために国の職員がテックフォースで応援に行ったと言いましたが、もう一つしていたことがあります。能登空港の場面管理(どのスポットにどの飛行機が入るかという指示を出す業務)は石川県庁の方々が行っているのですが、県庁の皆様も被災者です。加えて、自衛隊からは通常よりも時間を大幅に広げて長時間運用してくださいという要請がくるので、当然運用に携わる人員が足りなくなります。
そこで、航空局で運用に携わっている職員を現地に派遣してお手伝いさせていただきました。このようなことも今まで実施したことがなく、初めての試みでした。これも県の権限に対して国の職員がお手伝いしているだけなのです。
よって国の職員はあくまでも県の皆様に対して「こうしたらいいですよ」と言うだけで、それを県の皆様がマイクを通して伝えるというまどろっこしい手順を踏まねばならないため、そこは制度の改善が必要ではないかという議論をする必要があると思っています。
続いて羽田空港の事故です。事故の原因については事故調査委員会で究明が続いていますが、今日はBCPの話なので、特に事故の際に二次交通がどうだったのかについて話します。
先述の新千歳のときのように、運輸局も頑張って各交通機関の皆様にご協力をいただきました。
鉄道ではモノレールや京急が時間を延長して運用してくれ、バス会社も増便し、タクシーも地域外から集まって運行してくださいました。このようにして、混乱する羽田空港の二次交通を何とか持たせたわけです。こういった経験も、BCPをより良くしていくために非常に役立つ話だと思っています。
BCPの見直しを行うに当たり、家田委員長に空港のBCPの基本理念について書き下ろしていただいたメッセージがあります。前文と後文を省いた抜粋を掲載させていただきました。原稿をいただき、「田中さんの好きに直していいから」と言われたのですが、直せるわけもなくそのままの原文です。
第一:まず、BCPに「完全」はないということをおっしゃっています。よく想定外は許さない、みたいな話があるけれども、そんなことを言っても想定外はあるだろう、むしろ想定外があることを前提に物事を考えることが大事だということです。
第二:BCPはプランなので、備えで終わっているのですが、プランをつくって安心するのではなく、その後のマネジメントのほうが大事だとおっしゃっています。
第三:さらにBCPの本質は、関係者のコミュニケーションです。
第四&第五:BCPに「完全」がないのであれば、「完成」もありません。いろいろな災害を経験し、そこから学んでいくことが大事だとおっしゃいます。
非常に中身の濃い文章で、我々も日々読み返しているのですが、皆様がBCPをつくられるときにはぜひ参考にしていただければありがたいと思っております。
本日はBCPをテーマにお話をさせていただきました。新しいガイドラインは資料の最後に記載したホームページでご覧いただくことができますので、引き続きご協力をお願いします。
ご清聴ありがとうございました。