-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-
小島 優 氏
国土交通省近畿地方整備局 企画部長(講演当時の役職)
●と き 2024年6月11日(火)
●ところ オンライン会場
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私は平成4年に当時の建設省に入り、主に河川や防災を担当していました。令和3年に近畿地方整備局の河川部長に着任したのですが、その時が初めて近畿圏で仕事や生活を始めました。元々は愛知県名古屋市の出身です。
本日は「第三次国土形成計画を踏まえた新たな関西広域地方計画について」と題し、約50分お時間を頂戴して話をさせていただきます。
話の構成としましては、冒頭約15分で、この地方計画のベースとなっている現在の関西のインフラの状況や課題について話し、その後、関西広域地方計画について話をさせていただければと思います。
皆様には釈迦に説法かもしれませんが、インフラ(社会基盤)とは我々の経済・生活・社会の下部構造(基盤)のことであり、社会・経済の活動が変化すれば当然、インフラも変化していかなければいけないと思います。そういう状況を踏まえて、関西はとりわけインフラ整備が遅れていることをはじめにご紹介します。
こちらはよく見る図ですが、いわゆるG7の国を中心としたGDPの推移を表したものです。
1996年の各国の名目GDPを100とし、2020年までの伸び率を示しています。日本が減っている状況の中で、他の諸国は増えています。カナダや米国は3倍ぐらい。ヨーロッパでも約1.5倍の伸びを示しています。
このデータから、我が国だけが30年前と同じ水準で取り残されているということを示しています。
そうした中でインフラを考えていくことになるのですが、こちらは各国のインフラ整備の国際比較したものを示した図です。
左側は、各主要都市間をどのぐらいの速度で移動できるかを示したデータです。日本は、黄色い所が多く、一部赤い所も残っており、平均すると各都市間を時速60kmぐらいで移動できるということになります。
他方で韓国は、ほぼ全国で水色や青色となっており、大体時速77km。ドイツはほぼ真っ青で、時速84kmで移動できます。時速60km、70km、80kmで何が違うのかというと、日本で1時間かかって移動できる距離を、韓国では45分、ドイツなら約40分で移動できてしまうことになります。例えばトラック運転手の立場で見れば、日本では1日8時間かけて走らなければいけない距離を、韓国では6時間、ドイツでは5時間30分で着いてしまうということです。
韓国やドイツと比較して日本が、「生産性が低い」という状況です。この差は非常に大きく、我々が8時間仕事をしているところを韓国の人たちは、6時間で終えているということなので、残りの時間を他のことに使えることができることになります。
さらに右上の図は、各国の高速道路の車線数を比較したものです。日本では、ピンクの「3車線以下」が4割ぐらいです。高速道路とはいっても、実際に走れば分かりますが、対面で2車線という所が非常に多く残っています。
何が起こるかというと、対向車が来るので非常に危なく、自分で運転していても怖いと感じます。さらに、前に遅い車がいても追い抜きができませんし、雪が降ったり災害が起これば、2車線しかないので道路全体が通れなくなる可能性があり、防災面でも安全面でも危険という状況です。他国だと、3車線以下の高速道路はほぼありません。
右下は港のコンテナターミナルで水深が16mより深いバースがどのぐらいあるかを示したデータです。日本は韓国、シンガポール、中国と比べて非常に少ないです。大きなコンテナ船が入港できる状況になっておらず、取り残されてしまっているといえます。
首都圏と関西圏でインフラの整備状況を比較したのが次の資料です。
左上の図をご覧ください。東京-横浜間をみてみると、その間の高速道路の車線数が10車線あります。東京-千葉間も同様で、10車線あります。関西を見ると、大阪-神戸間で4車線しかなく、結果として渋滞が起こっています。
日本の都市高速道路の渋滞のワースト5位のうち、1位、2位、4位が関西で、1位と2位が大阪-神戸間となっており、非常に渋滞が激しいことが分かります。実際に大阪と神戸の間を車で移動しようとすると、ほぼ時間が読めません。
次に、左下は国が管理する河川の堤防整備状況を示しています。地方整備局ごとに見てみると、近畿が一番遅れていることが分かります。
次はインフラのストック効果のデータです。
左側は第二京阪道路のストック効果について示しています。この道路ができた効果として沿線の市・町の、法人税収が府全体の伸びよりも20%以上高くなりました。
これは何を意味しているかというと、物流拠点や大規模な商業施設が沿線にできたので、それによって税収がアップするということです。公共投資をまず行って、それに民間の投資がついてきて、結果として税金という形で自治体などに入っていく。それによって財政が潤い、インフラ整備が進み、さらに新しい投資が進むという流れです。
右側は新名神高速道路のストック効果を示しています。現在、工事をNEXCO西日本で進めているところで、既に部分的に開通しています。新名神ができたことによって、沿線の物流施設の計画数が約40件増加しています。この辺りは、高槻、茨木、箕面などの北摂地域で、大阪の中で人気のエリアで、こうしたインフラが着々と進んでいることが背景にあると考えられます。
こちらは関空のデータで、若干古いので詳しい説明はしませんが、着々と利用者が増えています。
防災の関係ですが、こちらの大阪の標高を示した図をご覧ください。
大阪の市街地は、ご存知の通りほぼ海抜ゼロメートル地帯になっています。これは過去の地下水汲み上げなどによって地盤沈下が進んだこともありますが、元々低地で非常に湿地が多い土地でした。大阪城はちょうど台地と低地の狭間に立っています。
こうした非常に低いところにまちが広がっています。水都と呼ばれているように、水路が網の目のように張り巡らされているということは、一方で水に対して非常に脆弱な地域であると言えます。
そうした中で、記憶に新しいと思いますが平成30年、台風21号が襲来しました。関空の連絡橋に船が衝突したあの台風です。そのとき大阪湾では強風の中、高潮が発生していました。左上は大阪湾の河口にある木津川水門の写真です。水門よりも右が海側、左が陸側となっており、水門を挟んで約3mの水位差がついています。普段の海面よりも約3m潮位が高くなる高潮が発生していたということです。
あとわずかのところで高潮が水門を乗り越えずに済んだので、結果として大阪の市街地では大きな被害は発生していません。しかし、神戸港では大変な被害が生じました。高級スポーツカーが多数浸水したり、埠頭の中にコンテナが転がるなど、大きな被害を受けました。
昭和36年の第2室戸台風では大阪に大きな被害をもたらし、そのときには大阪の市街地の中で約13万戸が浸水しました。台風21号では潮位がそれよりも高くなったのですが、こうした治水設備を整備したことにより被害を免れました。仮にこの水門がなく浸水していたら、約17兆円の被害が出たと試算されています。
この水門の整備や維持管理にかかった費用を積算すると、整備が大体1,300億円、維持管理費が200億円となり、計約1,500億円です。それで17兆円の被害を防いだことになります。こうした事前防災がいざというとき頼りになり、被害軽減につながります。
またインフラは1回つくれば終わりではありません。「もう既に日本のインフラは高度成長期にいっぱい作ってきていて完成しているんじゃないか」「もういいんじゃないの」といった話も一部にはありますが、そうではなく、結局経済活動が変わってくる、あるいはそのインフラが置かれている前提が変わってくると、作ったものもバージョンアップしていかないと意味を成さないと私は思います。
こちらはコンテナ船の大型化の状況を示した図です。
2000年以降、急激にコンテナ船が大型化していきます。船が大型化すると何が起こるかというと、水深が深い港でなければ大型化した船が着岸できません。
こういった流れの中でコンテナ埠頭は水深を確保していかなければならず、現在世界的には水深18mの岸壁を整備しないとなかなか太刀打ちできません。日本はご覧の通り水深16mの岸壁ですらなかなか進んでいない状況であり、これが経済的な競争力を阻害していると言えます。
次に防災面に関してですが、近年、気候変動によって雨の降り方が変わり、集中豪雨が増えてきています。また線状降水帯が、従前なら発生しなかった場所や時期にも発生しており、非常にリスクが高まっていることは気象庁の資料からも明らかになっています。
さらに台風は局所的に大型化すると言われており、従前であれば東北や北海道に大型の台風が上陸することは考えられなかったのですが、今では当たり前のように東日本にも台風が上陸する状況になっています。このように外力が変化してきているので、それに対応したインフラを整備していかないと、本当に危険な状況に陥ってしまうと思います。
御堂筋も時代の要請とともに変化してきており、これからも変わっていきます。
一番左が大正10年頃の御堂筋の写真であり、当時は道幅が約6mでした。それが昭和12年頃、自動車の増加を見越して道幅を44mに拡幅し、先行的にこうした道幅の道路を作っていきました。
その後自動車が普及し、昭和40年頃には交通渋滞が深刻化してきました。そういった社会情勢の変化を受け、御堂筋の交通形態が今の南向きの一方通行に切り替えられて、実質的に車線数を増やしました。さらに高度経済成長をへて現在は御堂筋の交通量は減ってきています。
そうした中で大阪市は御堂筋を段階的に歩行者空間化をすすめ、将来的には全面歩行者空間化が計画されています。
このように、時代の要請に応じてインフラも変化させていくことが不可欠であり、そうすることによってインフラが時代に応じた役割を果たしていくことになります。
現在国交省では、次のようなことにも取り組んでいます。
左側の、スマートモビリティなど新技術を活用した質の高いサービスを提供できるインフラの整備や、まち全体をデジタル化してスマートシティを実現していこうというものです。
またインフラを「経営をする」という感覚で管理することで効果を最大化していこうという取り組みも進めています。右側のように、治水施設である遊水地を多面的・複合的に活用し、インフラの新たな価値を発現させる取組や、普段は公園やあるいは医療施設などの機能を併せ持った設備を整備をすることにより、既存のダムの運用を高度化することや、発電と治水ダムの両方の機能を高めるハイブリッドダムを建設するなどの取り組みをしています。
こういった、1つのインフラをつくるのではなく複合的なインフラをつくっていく、あるいはインフラそのものにデジタルの要素を加味してさらに新しい価値を提供していく取り組みを進めています。
以上がインフラ関係の話です。次は広域地方計画の話をさせていただきます。
こちらは人口推移のグラフです。
江戸時代まではだいたい3,000万人前後で推移していました。それが明治維新を境に急激に増えていき、ピーク時は1億2,800万人までになりました。その後は人口が減少し、今後も減少すると推計されています。
人口は減っていく局面に立っており、それが今回の国土形成計画の問題意識の一番大きいところであり、人口が減っていく中で国土をどのようにつくっていくかというのが今回のテーマになっています。非常に大きな危機感があるかと思います。
さらに国土全体としては毎年約55万人減っていくのですが、人間は一つの所にとどまっているわけではなく移動するので、転入と転出が発生します。
これがそのグラフで、一番上の赤い実線が東京圏です。ゼロのラインから上は転入が超過していることを示し、他の地域から人を吸い寄せていることになります。
黒い点線が大阪圏で、過去は大阪圏も地方から吸い寄せていましたが、1975年ぐらいから転出が超過になっています。最近では大阪圏全体で見るとトントンというところです。中部圏(名古屋)も同様の傾向になっています。
将来的に人口がどのようになるかを示した図がこちらです。
2050年には人の住む地域が約2割減ります。日本全国を1kmメッシュに切ったときに、現在の有人メッシュの内、約2割が無人化するということです。こうした人の流れはおそらく止められませんが、それをうまく緩和していく方向や、あるいは「最低限ここだけは残っていただく」といった政策が求められています。今回の国土形成計画、国土づくりもそのような問題意識の中で取り組んできました。
さらに、先ほど言ったように災害リスクが増えており、水害(高潮や洪水)の危険性も増してきています。今年元旦の能登半島ではありませんが、南海トラフ巨大地震もいつ来ても大丈夫なように備えを急いでおくべきでしょう。
人口が減っていき、災害リスクが非常に高まっている中で、どう国土づくりを行っていくかというのも今回のテーマになっています。
これまでの国土計画を振り返ってみたいと思います。国土形成計画はその昔、「全総」(全国総合開発計画)という言い方をしていました。総合開発なので、元々は人口が増えている右肩上がりの局面での計画であったわけです。それをいかに計画的に開発していくかが元々のテーマでしたが、その後人口が減っていく局面になると、「開発」ではなくどうつくり直していくか、どう「形成」していくかに軸足が移されました。
国土形成計画(全国計画)が初めてできたのが平成20年7月、第二次国土形成計画が平成27年、そして今回新しく第三次の国土形成計画が令和5年7月28日に閣議決定されました。
国土形成計画や国土開発計画ではキャッチフレーズがつくられていました。例えば平成10年の最後の全総計画では「21世紀の国土のグランドデザイン」というキャッチフレーズの中で、「多軸型国土構造」「参加と連携」といったキーワードが出されています。
そして今回の第三次国土形成計画では、「新時代に地域力をつなぐ国土」という基本目標を打ち出しています。その中で「シームレスな拠点連結型国土」を国土構造の基本構想として掲げています。
昨年の7月に閣議決定された国土形成計画の全体概要です。先述通り「地域力をつなぐ国土」を目指す国土の姿とし、「活力がある国土」「安全・安心な国土」「個性豊かな国土」という三つの柱を立てています。全体としては「シームレスな拠点連結型国土」を国土構造の基本構想としています。
今回の「シームレス」というのは、継ぎ目なく結んでいこうという意味で、まず結ぶ対象は何かということなのですが、地域と地域を結んでいくというものです。
従って、まずは地域が自立的に元気にならなくてはいけないとして、「地域力」が一つのキーワードになっています。「攻めの力」と「守りの力」という言い方をしています。地域に対する誇りと愛着を原動力に地域を力強く作っていく。そしてそれらをシームレスに結んでいくということです。
今回何がポイントかというと、リアルにきちんと国土をつないでいくことが大事なポイントです。コロナが発生して、かなりのことがデジタルやオンラインでできることが明らかになりました。
しかしその一方で、リアルでなければできないということも明らかになりました。例えばAmazonで物を簡単に注文はできますが、実際にはトラックの運転手さんがリアルに道を通って物を届けてくれるわけです。
従って、リアルにきちんと結んでいくことをデジタルと共に進めなくてはいけません。実際に物が動くからこそ経済が動くのです。
イメージ的には、こちらの図のように日本海側と太平洋側の両方できちんと日本列島をつなぐような軸が必要です。
そしてそれをしっかりと結んでいくことで、実際に人・物が動きイノベーションが進むことになりますし、災害時のリダンダンシー確保という観点でも非常に大事です。
能登半島の地震の際に明らかになったのですが、能登半島の先端の方に行く道路は幹線道路1本しかありませんでした。この地震でそれが寸断されたため、最初の被害状況を把握するのに時間がかかりました。復旧・復興を行おうとしても、そこに進入する道路がなければ進みません。
複数ルートが確保されていることによって、一方のルートがつぶれてももう一方のルートを使えばいいという状態に日本全国でしておくことが大事です。特に地方に住んでいる方にとっては切実な問題になります。1時間あれば都市に出て行ける、あるいは1時間30分あれば大阪に出て来られるとなれば、非常に計画的に行動ができるようになりますし、いざというときの安心感にもつながります。
治療で病院に行くときに何時間かかるか分からない状況では、安心して地方に住むこともできません。地方に人の流れを再び持っていく、あるいは地方から都会への流出を極力抑えるという面でも、実際にきちんとつないでいくことが極めて大事だと思います。
それはおそらく皆様方や我々が、実際に生活していく中でも実感としてあります。例えば東京と大阪の間は新幹線がほぼ5分おきぐらいに出ており、東京出張も安心してできるわけですが、この定時性がなくなって時間が読めない状況になってしまうと、安心して東京にも行けないということになります。そのようなきちんとした交通体系が存在することは、地方にとっても大事だと考えています。
特徴をきちんと押さえて関西の良さを生かしていく方向で、今後の国土づくりを考えていくことが大事な視点かと思います。こちらの関西の図で、我々が普段生活したり仕事したりしているのは赤のDID(人口集中)地区です。
大阪平野を中心としたこれらのエリアに人口全体の約8割が集中しています。
日本全国で見れば東京に一極集中しているのですが、関西で見れば大阪に一極集中していると言えます。
一方で関西は、都市と自然とそれ以外の郊外が近いという特徴があります。大阪から約100km圏の中に、山々が近くにそびえています。また北は日本海に、南は太平洋、西は瀬戸内海に面していますし、さらに琵琶湖があるので四つの水域に面している非常に特徴的なエリアです。
この四つの水域を通じて古来から人や物の移動が活発に行われてきました。さらにそこには山が迫り、北では雪が降ります。また南は昔から台風銀座と言われるほど多くの台風がやって来ます。こうしてもたらされた雪や雨は一方で飲料水となったり、あるいは発電エネルギーとなったりして関西の経済を支えてきました。
大阪が安心して生活できるのは何といっても琵琶湖があり、みんながこの水を飲むことができるからです。この巨大な水がめの恩恵を受けて我々が生活をしているわけです。要するに、このエリア内における地方と都市の役割分担のバランスの中で今の関西があるのだと思います。
これはおそらく関東にはない非常に大きな特徴です。ここだけ切り取っても一つの生活圏、一つの国として成立しそうなバランスの中で関西ができ上がっています。
言うまでもありませんが、非常に歴史豊かなエリアで、日本の国宝の5割以上、重要文化財の4割以上が集中しています。何と言っても歴史文化の重みは関西が一番だと思いますし、それが現在は観光として訪日外国を引きつける非常に有利なポイントになっていると思います。
また自然も非常に豊かで多様です。日本海側には、ジオパークやコウノトリが飛ぶ湿地、また都市近郊には六甲山、南に行けばサンゴ礁や古座川の一枚岩など、魅力的な自然が約100km圏内に存在しています。都市に住んでいる我々もこうした都市近郊の豊かな自然を享受しながら、生活をさせてもらっているのです。このような強みが関西にはあります。
この資料は関西の経済的な特徴を示しています。関西の対全国シェアをみると面積は約7%しかないが、人口は約16%、域内総生産は15%を占めています。 産業構造としては、東京に比べるとサービス産業の比率が低く、一方で名古屋ほど製造業に依存しておらず、全国的な平均値という構成になっています。
次は訪日外国人に関する資料です。
左側のグラフはコロナ前の2019年のデータですが、日本を訪れている方はアジアからが非常に多いことがわかります。入国者の約80%がアジアからですし、そのアジアの方々の3割は関空を使って来日しています。 非常にボリュームがあるこのゾーン、これだけ引きつけているというのは、関西エリアにそれだけ魅力があるということです。外国人にとって価値があるエリアとして見られているということなので、最大限に生かしながら地域づくりをしていくことが大事でしょう。
そしてもう一つの特徴として、大学など高等教育機関、研究機関が非常に充実していることです。
大学生55万人がエリアの中に住んでおり、自然科学系研究者および技術者は約39万人います。
こうした大学の蓄積は関西の強みであり、大学の存在感が強いことが関西の特徴だと思います。私は名古屋で育ち、現在の生活拠点は東京なのですが、やはり首都圏や名古屋と比べても、大学の存在感は圧倒的に関西が強いと感じます。それが大きな強みになっています。
特に医療や医療関係の機械、薬品などのライフサイエンス分野の研究が集積しているのも強みであると言われており、人を引き寄せるストロングポイントになってくるのだろうと思います。
そうした中で現在、広域地方計画を様々な形で検討しています。関西空港調査会の理事長でもいらっしゃる小林先生に座長になっていただき、「近畿圏広域地方計画有識者会議」を軸に様々な形でご意見をいただきながら検討を進めています。
また、若い方々のご意見を聞くために「関西ダイアローグ2024」を令和6年3月に開催いたしました。一般公募で選ばれた30歳以下の若者27人に近畿地方整備局にお集まりいただき、グループ討議やワークショップのような形で議論していただきました。
面白い意見が出ています。「関西の好きなところ、改善してほしいところ、他の圏域と比べて関西が優れているところは何か」というテーマに対して、「アンチ○○ということで特に東京に負けないようにという気持ちが強い」という意見がありました。
また、「関西の中でも、大阪だけではなく神戸、神戸ではなく京都と、都市それぞれが誇りを持って『あそこには負けてないぞ、こっちの方が良い、自分のところのほうが良い』などと都市間の競争、気持ちの面での競争も含めて激しいのが関西の特徴」といった意見。これも本当におっしゃる通りだと思います。東京、関東に行くとなかなかこうはいかないと思います。
他にも、「新しいブランドを海外から初出店する場合、首都圏なら東京の銀座や渋谷に1号店をつくるが、関西では大阪ではなく例えば京都に出してみようか、あるいは神戸を選んでみようか、と様々な都市の特徴を踏まえて、そのブランドイメージと合うような形で都市の選択ができて、それぞれのまちが特徴を持って誇りを持って並列しているというのが我々の強みだろう」という意見もあり、非常に参考になりました。またこうした機会をつくっていきたいと考えています。
このような形で近畿での広域地方計画の検討が進んでいます(スライド34)。2022年11月に小林先生に先述の近畿圏広域地方計画有識者会議を立ち上げていただき、そこから議論がスタートしました。実は2023年7月5日に「新たな関西広域地方計画 基本的な考え方」という一つのまとめをしていただきました。
それを受け、先ほどご紹介した「関西ダイアローグ2024」や有識者会議を重ねているところです。今後はシンポジウムなど様々な形で皆様方から広く意見を聞くような形のイベントも織り交ぜていきながら、広域地方計画の関西版の検討を進めている状況です。
こちらが関西の将来像と目標・戦略として、3つの柱をつくっています。
最初の「活力ある圏域づくり」では、きちんと経済として成長するような関西で、京阪神だけではなくどこへ行っても豊かに誇り高く暮らせるような生活圏を実現していこうという目標になっています。
2番目の「安全・安心な圏域づくり」では、巨大災害に負けない、カーボンニュートラルやSDGsを実現していくということが柱になっています。
3番目の「個性豊かな圏域づくり」では、歴史や伝統や文化が多く集積しており、世界から人を引っ張ってくることができる魅力がある。そうしたものを生かしながら、関西をより豊かな、魅力いっぱいのエリアにしていくことを目指します。この3本柱の将来像を基本的な考え方として整理をさせていただきました。
最終的にはどんな形になっていくかというイメージがこちらです。
「日本中央回廊」という言い方をしていますが、リニア中央新幹線が将来的には大阪までつながります。北陸新幹線は2024年の春に福井・敦賀まで開業しましたが、これが大阪までつながることで、北陸との連携も強化されます。
西日本の国土軸としては、関西より西の九州、四国、中国地方との連携を進めます。現在の山陽新幹線が通っている西日本国土軸、日本海側の日本海国土軸、昔の海の道ですが瀬戸内を中心とした軸、さらにもう一つ南に、四国と紀伊半島を結ぶ太平洋新国土軸ということで、こうした軸の中で関西をとらえていきます。それらの軸の結節点としての関西があると思いますし、それを中心に世界にアプローチし、世界から人が出てくるような連携の姿を目指しています。
そうした中で例えばうめきた2期という基盤整備事業がありますが、これらの魅力を高めていく、あるいは経済力を高めていくという意味で、拠点の整備を進めていす。このようなストーリーで計画を作っていこうと、事務局の中でいろいろと議論を行っているところです。
時間の関係上、事前にお配りしている資料を集約し、順番を入れ替えてご説明させていただきましたが、現在はこうした形で広域地方計画が進んでいるというご紹介でした。前半でインフラの全体の話をした上で、後半に広域地方計画の話をしたわけですが、本日お聞きの皆様はインフラの関連のお仕事に携わっておられ、そのような関心が高い方々だと思いますので、様々な形でご意見もお寄せいただければ非常にありがたく思います。
私からの説明は以上です。御清聴ありがとうございました。