KANSAI空港レビューは、航空・空港に関する知識の普及のため、
(一財)関西空港調査会が発信する情報サイトです。

今月のセミナー

-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-

広島空港概況~コンセッション空港の課題~

中村 康浩 氏

広島国際空港株式会社 代表取締役社長

●と き 2024年5月24日(金)

●ところ たかつガーデン 地下1階 オリーブの間

はじめに

 私は、代表企業である三井不動産からの出向という形で現職を務めております。今日は「広島空港概況」というテーマで、サブタイトルは「コンセッション空港の課題」と題しました。コンセッション空港といっても、規模や民営化された時期によって直面する課題が異なっています。そこで、広島空港の概況を説明しながら、そのような課題に触れていきたいと思っています。
 我々の主要株主の1社である東急は、最初の国管理空港のコンセッションである仙台空港の代表企業でもあります。三井不動産は熊本空港の代表企業でもあります。広島空港は利用客が約300万人で、地方中核都市の中規模空港では、大体みな同じような課題を持っています。本日の話はその規模の空港が直面している課題と言ってもよいでしょう。

空港概要

<広島空港の概要>

 まず空港と会社の概要をお話しした後、コンセッションの概要、そして足元の状況についてお話しします。
 広島空港は3,000mの滑走路で運用しており、運用時間は15時間(7時30分~22時30分)です。去年(2023年)、ちょうど開港30周年を迎えています。その前の旧広島空港は広島市内の非常に便利な場所に約30年間あり、30年前に移転してきました。広島市内の方々からは、「遠くて不便になった」と30年たった今でも言われます。
 空港まで広島市内からバスで50分というのはよくある立地だと思っているのですが、移転前があまりにも中心地に近いことと、必ずベンチマークとして意識される福岡空港が大変便利なので、その点と比べると不便な立地になります。
 また、福岡空港に関して言いますと、広島駅から新幹線に1時間乗れば博多に着き、博多から空港には15分で行けます。広島市内から広島空港までに行く間に博多に着けてしまいますので、近距離の韓国便などでは競合はあり得ると思っています。

<位置および主なアクセス>

 広島空港は広島駅と福山駅の真ん中にあります。広島は安芸国と備後国という二つの国が一緒になった県ですが、両方の真ん中にできたということになります。

 地方空港はほとんど東京とのアクセスが中心ですが、広島空港もコロナ前の300万人のうち国内線が270万人で、そのうち200万人が東京便の旅客でした。今でも東京便がメインなので、東京へ行くのに不便だと言われます。新幹線なら4時間で着くのに、それに比べて……というのは必ず枕詞のように言われています。
 私どもが成長ドライバーと考えているのは、国際線です。国際線運航の外国エアラインを誘致して、県あるいはエリアの観光・成長に資するような空港になりたいと考えています。
 海外からいらっしゃる方は、最初に広島市内に行かなくてもよいのです。広島の素晴らしいところの一つは、瀬戸内海の「多島美」です。ここを見るにはまず最初に三原市へ行きます。三原港という港がありますので、そこから観光し、最後に広島市内に行って戻ってくる、というように考えれば、広島市内との空港アクセスをそれほど大きく気にすることはないだろうと思っています。
 後述しますが、例えばバイパスができるなどして、アクセスしやすくなっています。今広島駅北側にトンネルを作っているところで(広島高速5号線)、これが完成すれば広島駅までダイレクトに、ほぼ自動車専用道路だけを走って38分で行くことができるようになります。

会社概要

<資本金等>

 当社は2020年11月に設立、資本金は、以前は92億円で、さらに以前は77億円でしたが、現在は1億円に減資しています。これはある意味コンセッション空港の課題で、北海道も仙台も減資しています。運営権を取得するために最初からかなり大きな資本を、しかもその半分はSPC(広島国際空港株式会社)に資本金として入れなければならないということで、会社の大きさの割には資本金の額が大きいのです。
 ちなみに77億円から92億円に増やしたのは、コロナ禍中でした。会社を設立して半年後に運営権対価を払わなければならないというときに、完全にコロナ禍の波にのまれてどうなるか分からない状況だったので、株主に負担して頂くことになりました。
 元々社債も買って頂いており、その社債の一部を資本金に振り替えて財務体質を強化しました。会社が大きくなって増えているわけではなく、苦しくなって増えているだけなのです。本当にこの3年間厳しい状況で、まだまだキャッシュアウトが続いています。
 株主は16社ですが、大きくは三井不動産と東急グループ、それから広島銀行を中心とした地元企業という三つで構成されており、「3本の矢」や「サンフレッチェ」などと自分たちでは呼んでおります。特に地元有力企業にはほとんど入って頂いており、非常に強力なコンソーシアムが組成できたのではないかと思っています。
 従業員数は130名です。関連会社の広島エアポートホテルは、過去の様々な経緯があり、広島県がエアポートホテルをターミナルビル会社の子会社にした流れでついてきているもので、私はエアポートホテルの社長も務めております。

<沿革と役員一覧>

 2021年に、広島空港ビルディングの株を取得して空港ビル事業を始めて2カ月で合併しました。コンセッションの大きな課題の一つに、ターミナルビル会社がどんな経営状態であるかということがあります。広島の場合は、県知事が最初から広島空港を民営化する目的で、それまで県の方が社長だったのを変えました。
 引退されていたマツダの元常務の方に白羽の矢が立ち、招聘されました。副社長時代を含めると10年ぐらいかけて経営改革を行いました。取締役が約20人いた状態から8名にするなど、経営改革によって普通の経営体にしたということもあって社員の意識もかなり違いました。コーポレート部門は結構大変だったと思いますが、2カ月で合併して、2021年7月の運営事業の開始を1社体制で始めました。振り返ってみると非常に良かったと思っています。

<組織体制>

 広島空港の組織の特徴は、地域連携本部が入っていることです。地域の企業が入っているので、地域の連携や地域と共に成長することを前面に置いて本部をつくり、特に地元企業からの出向者にはここの部長に着任いただいています。

 コンソーシアムを組成、特に提案する時にはいろいろな会社がノウハウを持ち寄ってやっているということが非常に分かりやすいです。例えばバス会社(広島電鉄)が入っていますが、バス会社の知見は2次交通網を整備する中でとても役に立ちますし、商社が入っていれば、海外のあちこちに持っている拠点の情報を使えるという強みがあります。本当に物心共にありがたいと思います。
 空港ビル会社にいた若い優秀な人材もいれば、国からの移籍もあります。各部の部長を少しずつプロパーに置き換えていくというような長期的な視野を持っております。
 社員は、最初出向者だけの会社でした。ターミナルビル会社と合併してもプロパー比率は5割程度だったのですが、今は7割近くになってきました。長期的には出向者が減っていき、プロパーがもっと増えていくと思います。
 人員構成が寄せ集めなので、ある意味ではオープンイノベーションで大変面白い会社だと思います。いろいろな出自の人間がやってきて、侃侃諤諤とやっています。今はかなり意識が統一されてきましたが、会社運営を行うのはなかなか難度が高いと思っています。
 難易度の高さでいうと、空港運用部です。国から業務を引き継いでいるのですが、なかなかこれぐらいの規模の空港では難しい。我々の場合、ようやく日勤が3名、飛行場情報担当が3人×3シフト、保安防災担当が2人×3シフトですが、今は伴走頂いている国からの出向者と業務委託先の人員を含めて26名いますが、このメンバーで30年ずっと運用していきます。これ以上の人数は必要ないし、これ以下だと厳しいのですが、ベテランが若手に教えながら組織を維持していくという形になかなかならないのです。国職員の方は最初12人いらっしゃって、今ようやく5人に減ってうまく引き継ぎができています。外部委託での手伝いも、もう来年・再来年でなくなり、完全にプロパーだけで運用できるようになります。

<hiapのビジョン等>

 広島空港ビルディングと合併する前後で、当時のターミナルビル会社の社員と出向者がいます。出向者も提案書から関わっている人間ばかりではなく、全く初めてこの提案書の内容を知った人間もいるので、みんなで議論してどんな空港にしようかと、約2カ月かけて検討・作成しました。

 「HIAP」は本来なら「ヒアップ」と読むのでしょうが、我々は語呂が良いので「ハイアップ」と称しています。ロゴは瀬戸内海に浮かぶ多島美をイメージしたデザインです。 ひとつの施設を運営する会社では施設のビジョンと会社のビジョンがごちゃまぜになりがちですので、はっきりと、どんな空港にしたいか、その空港を目指す運営者としてHIAPにどんなミッションがあるのか、HIAPの社員一人ひとりにどんな行動価値観やバリューがあるのか、そういうことを分けて議論してもらい、それぞれ作りました。

 「地域のチカラを、世界とツナグ。」「空港のCOREを守り、MOREを広げる。」「世界に目を向け、世界の期待に応える。」というように、なかなか良い議論もできたし、良いものができたと自負しています。

広島空港コンセッション

<空港経営の一体化>

 コンセッションの内容は、今さらですが意外と三井不動産も地元の人も、民営化とは言うけれど何が民営化なのかを理解されてない方も多いので、必ず次のように説明しています。
 言うまでもなく、空港の民営化とは、国から滑走路の運営を引き継ぎ、併せて駐車場や空港ビル会社も一緒に一つの会社で行うことにより効率的な運営が可能となり、お客様にワンストップでいろいろなサービスを提供しながら収益を上げるようにすることです。例えば着陸料を安くして外航を誘致して収益を上げていく等ですが、それを正確に理解している人は少ないかもしれません。
 空港のコンセッションは仙台から始まり、広島が6例目です。先ほど申し上げたように仙台が東急、高松は三菱地所が代表企業で、福岡と北海道は地元中心ですが、熊本が三井不動産です。そして広島は、地元も含めてですが、代表企業は三井不動産です。

<広島空港コンセッションスケジュール>

 振り返ると、1次公募を開始したのが2019年で、2次提出が2020年4月の予定になっていました。
 私は2019年3月に辞令を受けました。会社がまだできておらず出向でもないので、辞令を受けてすぐに世界中の空港を見て回ろうと思っていました。しかしその4月から、コロナ禍で世界中どころか家から一歩も出られなくなり、4月と5月は完全にリモートだけで、知らない人たちと知らない仕事の打ち合わせをずっとやっているような状況が続きました。
 結局4月の2次提出が7月へと3カ月延びたので、今までつくった提案書を少し変えることになりました。丸々変えるわけにはいかないので、コロナ対応をどうするかという部分のみ訂正しました。4月、5月はリモートではありますが、7月の提出に向けて夜中までずっと打ち合わせをしていました。夜中まで打ち合わせなんて30代のとき以来でした。6月からはリアルの打ち合わせを夜中までやっていました。
 本当にハードな時期でしたけれども、6月にようやく初めて広島に行くことができました。7月に提出、8月にプレゼン、9月に運営権者に選んでいただき、11月に会社を設立して、12月に着任しました。この頃はちょうど「GO TO」政策で人が動き出した感じがあり、良い状況になったかと思って着任しましたが、再度コロナに巻き込まれ、不透明な時期が続きました。
 これも後述しますが、2021年7月に民間運営を開始するわけですが、運営開始の記念式典も約1,000万円をかけて綿密に準備していました。ところがその1週間前、東京で第5波が拡大してきました。在京の役員、国交省の方々、国会議員の先生方も東京からお呼びする予定でしたが、結局式典は中止になりました。国との約束でもあるので、いつか何らかの形でやらなければと思ってはいるのですが。

<マスタープラン>

 マスタープランは、「中四国の持続的成長をけん引し続ける圧倒的NO.1のゲートウェイ」を目指すものです。我々のキャッチメントエリアは中四国です。先ほど、広島空港は市内から遠くて不便だという話をしましたが、実は高速道路網が非常に発達しており、広島空港からは出雲大社も道後温泉も車で2時間ちょっとです。3時間程度をキャッチメントエリアとすると、中四国のほぼ全域が入ります。中国・四国全体に人を流動させるゲートウェイになるのが我々の目標です。
 2050年度目標値は旅客数586万人。コロナ前が300万人でしたから、ほぼ倍です。しかも国際線は30万人を7、8倍にしようというような、意欲的な目標です。 観光立国日本が目指す姿、これが3,000万人になったのもすごいと思いますが、4,000万、5,000万、6,000万ということになれば、島国なので当然地方空港で一定の需要の受け皿にならなければならず、300万人の倍を目指すというのは、可能というよりやらねばならない数字だと思っています。

<中四国で唯一無二の航空ネットワークの構築>

 広島空港は特にLCCでアジアを拡充します。ヨーロッパやアメリカからダイレクトには難しいと思うので、アジアからダイレクトで引っ張ってくることによって路線を増やして利用客を増やしていきます。
 提案書を作った時は、旅客数が落ち込んでいました。他にもグラフ上で落ち込んでいる箇所がありますが、リニアの影響を見込んだものです。

 広島は、先ほど申し上げたように、東京行きの新幹線との競合があります。1975年に山陽新幹線が開通したとき、航空旅客の4割は新幹線に持って行かれ、一気に需要が蒸発したそうです。その後、新幹線がどんどん速くなったり、品川や新横浜に停まり始めたりして、どんどん取られました。今は4割が飛行機、6割が新幹線です。しかしこれ以上は、新幹線が好きか飛行機が好きか、といった感じで分かれると思います。
 このグラフを作った際は、リニアが開通したら新幹線開通のときと同様のインパクトがあるだろうと考えていたからのようです。
 しかしリニアが通っても、まだ名古屋か大阪ですよね。そこで一度に1,500人ぐらいが乗り換えると、どこに駅ができるか分かりませんが、大深度地下だったら上に上がるのが大変だと思います。また、JRはリニアに誘導するので、のぞみの停車駅が増えると思います。今のぞみは直通で4時間ですが、リニア開通後はのぞみは4時間では来られなくなるのではないでしょうか。 それを考えると飛行機でいいのでは?となるだろうと私は思っています。だからリニアを見込んだグラフの落ち込みは不要だと私は言っています。

<全旅程において旅客の期待を上回る感動体験の提供>

 2次交通網を作っていくには、まずは海外からもお客様をたくさん連れて来て需要を我々が作り、、その方々が使う交通網を作っていかないとなかなかバスなどは維持できないので、地道に一つひとつ取り組んでいる状況です。

 ターミナルビルの改修はこれからなので、今まさに計画を具体化して来年には着工したいと考えている状況です。今の非常用発電が2時間しかもたないのですが、これだけでも早くしたいと考え、非常用電源工事に着手しており、年内には72時間になります。
 天井も特定天井ではなかったのですが、東京にいた頃は「明日にも地震が起こる」と思って施設運用をしていたので、特定天井工事にいち早く着手しました。コロナの真っ最中で、本当にやるのかと心配する声もありましたが、今振り返ると、当時は国際線が全然飛んでいなかったので、国際線の出発ロビーを資材置き場にするなど工事も非常にやりやすく、まだ工事費も上がる前だったので、うまくいったと思っています。

<観光・ビジネス双方によるインバウンド・アウトバウンド需要の創造と獲得>

 観光需要の創造については、地元といろいろな協定を結んで一緒に盛り上げようとしていいます。地元の自治体である広島県の観光政策は、広島県観光連盟が行っていますが、彼らは大阪万博を目標にして、大阪からなるべく多くの人を広島に引っ張ってこようというプロモーション活動に力を入れていました。
 これはあまり空港と関係がないのです。陸路の新幹線は便利なので、今の流動もほとんどが「大阪に入り新幹線で広島に来て1泊して帰る」というもの。もっと極端な人は、日帰りで世界遺産を二つ見て帰ります。あまり地元にお金が落ちていないのです。協定を結ぶことで我々から、ダイレクトに広島を目的に来る人を増やした方がいいのではないか、それも一緒に進めましょうよ、とお願いしました。地元自治体の観光政策と交通政策(外航誘致政策)が一致していればいいのですが。例えば四国は、海外からだと飛行機に乗ってくるしかないので、地元自治体が外航誘致に積極的でお金も出しますが、広島はなかなかそこまではいきません。ただ、広島は非常に魅力のある観光資源が豊富です。広島の人は、広島は名前が売れているとおっしゃるのですが、それは国際平和都市としてで、観光地としてはあまり認識されていないのです。
 台湾などに営業に行ったときに、厳島神社の海に浮かぶ赤い大鳥居の写真を見せたら「京都?」と言われてしまいました。観光地としての広島の認知度はまだまだ低いので、そこを必死でセールスプロモーションすることによって、広島へダイレクトに行きたいと思って頂く。そして広島を中心に、多島美の素晴らしい瀬戸内海や山陰にも行って頂く。そのような営業を今しているところです。

<30年後の施設配置図および各施設の概要>

 これはマスタープランでつくった30年後の施設配置です。提案書を書いて以降、コロナもあり、エネルギーコストも上昇していますし、特に建築費は1.5倍から2倍近く高騰しています。

 このようにビジネス環境が変わっている中でも、いろいろなプロセスをたどりながら提案書の実現を目指して行きたいと思っています。

空港運営状況

<年度別旅客数>

 現在までの年度別旅客数です。2021年に運営を開始してからコロナ禍で本当に翻弄されました。2022年から国内線は少しずつ動き出して、2023年にようやく国際線も動き出しました。

 広島空港は検疫の体制が整備されておらず、外航を誘致しようがなかったのですが、2023年6月、岸田首相が当時開いている空港以外に仙台、高松、広島を1カ月後の2023年7月までに体制を整えるとおっしゃいました。それからは動きが早く、7月には体制が取られました。しかしまだ1日何万人という旅客数の上限がありました。そうするとやはりどうしてもエアラインは怖くて飛ばすことができず、同年10月に上限がなくなって準備を始め、広島の場合はその翌年の1月に台北便が2年9カ月ぶりに就航しました。

<航空ネットワーク>

 現在の状況です。国内線は仙台、沖縄、札幌はコロナ前より増えており、人も動いています。ただボリューム的には圧倒的に東京です。

 顧客属性を正確につかんでいるわけではないですがよく言われる「広島はビジネス客が多い」というのは、実際にそうだと思います。
 しかしコロナが明けてもビジネス客は戻りません。私も在京の会社と打ち合わせを行うとき、ほとんどリモートで済ましています。東京から来る人は来ますが、例えば支店長が東京に行かなければならない場面はほぼ無くなったのではないでしょうか。
 コロナ禍前の時代には戻らないので、そこは観光需要を喚起したいのですが、先ほど申し上げたように、国内でも広島は観光地としてあまり認識されていません。私もそうでしたが、関東にいるとどうしても、北海道、九州、沖縄に行きましょうと、近いところでは、東北へ行こうとなります。
 広島に行こう、中国地方に行こう、四国や瀬戸内海へ行こうとはなかなか思い浮かばないので、ここの観光需要を東京や関東圏から引っ張ってくることは可能なのではないかと考え、一生懸命やっています。
 私の会社の三井不動産の人間に「広島に来てほしい」と言っても、「広島は修学旅行で行きました」と言われるんです。でも、世界遺産の2カ所しか行ってないだろう、もっといい所があるんだと言っています。
 観光連盟がひろしま観光大使100万人を目指しており、誰でもなれます。今2万人ぐらいになりました。私は結構早め、2285番目の大使となり、広島のことを熱く語っています。私自身は福岡の出身なのですが、よく考えると福岡のことをあまり知らないんですよ。広島の人も広島のことを知らないんです。日本人だからといって日本のことを知っているわけではないのと同じです。
 県外から来ると本当にあれもこれもいいなと思います。美味しいものは牡蠣とお好み焼きだと言われますが、実は魚が美味しいのです。瀬戸内海は2m近く干満の差があって、静かな波の下は満ち引きでものすごい激流なのです。明石のタイと同じタイが泳いで来ているわけです。アコウという高級魚もあるし、安芸津のジャガイモも美味しいです。
 お酒も美味しくて、広島のお酒は関東であまり飲みませんが、広島は酒どころです。私の住んでいる西条は、灘・伏見と並ぶ三大酒どころのまちです。
 私は、「広島の人は、美味しいものは自分たちだけで食べていて、外に出そうとしていない。」と冗談交じりに話しています。広島県に一定の経済力があるため、中で経済が回るからです。だからわざわざ外に出す必要もなく中でずっと、少し高くても地元のものを飲んだり食べたりしてくれます。
 二つの世界遺産があるので黙っていても人が来てくれます。特に欧米豪の人が多いと地元の方もおっしゃるのですが、裏を返せばアジアの人が来ていないということなのです。だからむしろ我々が戦略的にアジアから引っ張って来ようとしています。観光立県と名乗って広島の観光をしっかりやるのであれば、ここを増やしていかねばなりません。それも、宮島はもう既にオーバーツーリズムになっているので、宮島以外で増やしていく、そのような戦略を観光連盟と少しずつ足並みを揃えて進めています。
 国際線は台北から始まってソウル、大連、北京、上海と、2023年度に相次いで復便しました。特にソウルは最初7月に週4便で飛び始め、10月にはデイリー、なんと今年1月からはダブルデイリーにして頂きました。 我々はデイリー運航になったときにお礼に行ったのですが、その時にこんなことを聞きました。中国の大陸に当時は行けなかったので機材が余っており、飛んでいる所に飛ばすんだと。セールスのトップの人は頭を抱えて「急に倍にしろと言っても困る」という感じでしたが、飛び始めると、使いやすい時間帯が増え、更に利用が増え、ダブルデイリーになってもほぼ9割埋まって飛んでいます。特に広島の場合、アウトバウンドつまり日本人が多いのです。広島にはものづくりのメーカーが多いということもあるのでしょうが、広島から海外に行くボリュームが元々大きいので、その点も非常に期待されています。
 実際に今、韓国には結構日本人が行っていると思います。それを横で見ている台北などの海外エアラインにもあおり効果があって、「あんなに人が動くんだったら早く増便を」と今、週4便を5便にして頂きました。年内にデイリーにして頂けるよう頑張っています。
 新規路線としてはハノイ、運航はベトジェットです。今は週2便で飛んでいます。実は広島の在留外国人約5万人のうち、約1万4,000人はベトナム人です。ものづくりのまちなので、技能実習生もいるのでしょう。彼らの往来も期待できます。ハノイに飛んでいるので、観光面での利用促進もしていきたい。ハノイの近くにハロン湾という多島美が美しい世界遺産があります。ハロン湾の多島美と瀬戸内海の多島美を見比べるようなツアーなど、いろいろなことで利用促進していきたいと思っております。
 グラハンの問題は何とか対応できています。保安検査については、1社体制を2社体制にし、国際線を受け入れることができています。
 航空燃料不足問題が出てきました。要因はまだよく分かっていないのですが、燃料問題で復便や増便ができなかったものがいくつかあります。

2024年度事業計画

<2024年度方針>

 2024年度の計画を作りました。旅客数目標は国内線・国際線合わせて317万人、これでコロナ前の水準です。コロナ前の水準に戻れば、会社がようやくキャッシュアウトしなくなります。

 私の出身である三井不動産の社長が「達成できる目標は目標とは言わない」といつも言っていました。今私も社員に「達成できる目標は目標じゃない、高い目標を掲げて頑張るんだ」と同じことを言っています。
 コロナ前の水準に戻してなおかつ成長するには、もう一段の成長はもちろん必要なのですが、とりあえず早く流血を抑えたいと考え、この水準を今期の目標としました。流血を抑えないと、レンダーや株主に対しての責任もあります。

<具体的施策>

 その必達のためにいろいろな施策を行います。今の喫緊はレンタカーステーションの開設で、今年7月から運用開始します。元々の駐車場の一部を400台置けるレンタカーステーションにします。今は空港ターミナルビルの中で契約して、手続きをして、各レンタカー会社の拠点までバスで移動しています。

 それを、ターミナルビルから歩いて、連絡橋でレンタカーステーションに行けるようにしました。ステーションの建物の中に6社が入居しており、そこで手続きをしてすぐにレンタカーで出発できるのです。最近、韓国の方や台湾の方の個人旅行が増えてきたので、その需要も期待できます。日本人もコロナの時にレンタカーに多少シフトしましたので、これも期待できるかなと思います。

最近のトピックス

<航空ネットワーク>

 最近私が個人的に一番力を入れているのはバスケットボールです。漫画『スラムダンク』で湘北高校が行った全国インターハイは、広島です。全31巻のうち24巻以降は全て広島が舞台です。ほとんど体育館の中ではありますが、駅も出てくるし、グリーンアリーナ(広島県立総合体育館)や広島経済大学の石田記念体育館など、それなりに聖地があります。
 そこで広島を鎌倉高校前駅の次の『スラムダンク』の聖地にしたいと考えています。チームメイトに「流川(るかわ)楓」という人物がいるのですが、これは流川(ながれかわ)なんですよね。楓はもみじ饅頭ですから、これは広島ですよ絶対に。流川通りは多分そのままフォトスポットになると期待しています。
 バスケットボールチーム「広島ドラゴンフライズ」の浦社長はもっと本気で、将来つくるアリーナ事業につなぎたいと考えているようです。
 上海に「上海シャークス」というチームがあり、中国東方航空が属している企業集団に入っています。中国はバスケットボールが強く、前回日本の男子チームが中国に勝てたのが88年ぶりだったというぐらい、中国ではバスケットボールが盛んです。その上海シャークスのファンクラブの会員21名に東方航空で上海から来て頂き、聖地を巡って頂きました。
 このようなFAMトリップを繰り返すことによって、来年の今頃はもっと人が来ているのではないでしょうか。鎌倉高校前は、江ノ電も乗れないし、地元にお住まいの方々にとっても大変で、オーバーツーリズムになっていますが、流川は昼間誰もいないので全く問題なく、そこを聖地にしようと。少し熱く語り過ぎましたが、そんなことを考えています。

<交通アクセス>

 立体駐車場(2023年4月~)をつくったのですが、料金をどうしようかと考えていました。
 400台のうち300台を予約制にして、他空港も参考にしながら、予約料金は平日600円、多客期(土日、盆、正月、GW)1200円に設定。予約料金は駐車料金とは別に必要です。今、多客期はほぼ満車、平日は大体4割から5割入っています。やはりターミナルビルに一番近い所で、雨に濡れずに荷物の出し入れができる場所を確保できることに600円の価値を見いだして頂いており、我々のプライシングの正しさが実証されたということです。
 私は社員によく言いますが、ターミナルビルに来る人に何らかのサービスをしてお金を落として頂く。300万人が来ているので、1人100円落として頂ければそれだけで年間3億円、500円だったら15億円です。とにかく何かサービスを提供してお金を落として頂くということです。何でもただでサービスを提供するのではなく、お金を払ってでも利用したくなる価値を提供し、お金を払って頂くのがいいのではないか、と言っています。社員が今、いろいろなアイデアを考えてくれています。

<地域連携・地域共生>

 様々な関係先とパートナーシップ協定を締結しています仁川空港とも締結しました。海外には仁川経由で広島空港から行って頂くということです。羽田経由でも成田経由でももちろん行けますが、例えばオーストラリアへ行くには広島空港から台北経由が一番便利です。
 仁川経由ならLCCなので安く行けます。選択肢としてこういうものもありますよということを、地元の皆さんに話しています。仁川空港と協定を結んだので、スポット調整も広島便を優先してくれています。こういうことをさらにやっていきたいと思います。
 環境省との協定では、国立公園をもっと宣伝してほしいと言われたので、各就航地での宣伝も実施しています。台湾のPRに湯崎知事も行ってくれることになったので、一緒に台湾に行って広島県のプロモーションをしてきました。
 広島空港サポーターズクラブは、元々は株主を中心に組織していました。広島の会社では古い内規があり、「東京への出張は新幹線のみ」と書いてある会社がまだあります。便によっては飛行機の方が安い場合もあるのではないかと思うのですが、内規を無くして頂く地元の会社を増やして協力して頂くというような体制をとっています。

<安心・安全>

 各種訓練、保安検査員コンテスト、先述の天井改修工事、広島空港オペレーションセンター(HOP)の開設などがあります。HOPはエアサイドとランドサイド両方を1カ所で見られるようになっています。

<人材採用>

 お仕事ミュージアムの他いろいろなことをやっています。人材確保のために空港会社が窓口になり、空港で働きたい人に説明会を行いました。提案書に書いてあったことを実際にやっています。
 やってみて分かったのですが、空港で働きたいのだけれども、いきなり警備会社、グラハン会社に行くと、そのまま採用の路線に乗ってしまうのですが、まずどんな仕事をしているのかを聞きたいそうです。
 説明会に来ると、実際に現場で働いている人たちがトークしながら、自分たちの経験を説明してくれるのです。それでハードルが低くなり、まずは説明会に行ってみて、そこから各社の採用ラインに乗ることになって、結構実績も出ています。
 2年ほど前、国交省の補正予算で、国も人材不足に対しての施策として予算を組んで頂きました。毎回半分の補助金を受けて実施しています。
 合同オリエンテーションも開催しました。空港で働く人たちは、有事の時に備えて顔が見える関係を作っておくことが大事です。各テナント、グランドハンドリング、警備会社など、今年入った空港事業者の社員皆さんに来て頂き、広島空港が目指す姿を説明して、ランチをとってワークショップを実施しました。
 これはもう2年開催していて、先月は参加者80人で、2回に分けて行いました。やっていると結構顔見知りになって、ターミナルビルの中で「こんにちは」などと会話しているんですよ。このような関係は有事の際に役立つのではないかと考え、続けています。

<G7広島サミット>

 2023年5月のG7は、もう二度とやりたくないほど大変でした。ただ、今はしばらく“G7ロス”で楽しいことしか思い出せないです。いろいろな機体が来て、我々にとっては良い経験になりました。 これを成功させることができたので、当時の関係者から「広島空港は誇りに思っていい」と言われました。大抵のことはできると証明されました。副知事からも「これから県もMICE(国際会議)をどんどん開催するよう頑張るから、空港での対応をお願いしたい」と言われました。確かにこれ以上大変なものはないので、社員も自信を持ったと思います。


 時間になりましたので、私からの話は以上とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

ページの先頭へ