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航空空港研究レポート

-学識者による研究レポート-

関西3空港発東京2空港経由の乗継旅客に関する考察 -大阪国際空港を中心に-

松本 秀暢 氏

関西学院大学 総合政策学部

1 はじめに

 関西国際空港は、「西日本を中心とする国際拠点空港」、あるいは「アジアのゲートウェイ空港」を目指しているが、関西3空港(関西国際空港[関西]、大阪国際空港[伊丹]、神戸空港[神戸])を出発し東京2空港(東京国際空港[羽田]、成田国際空港[成田])を経由して、国際線に乗り継ぐ旅客も少なくはない。それは、現在、伊丹や神戸には国際線が就航していないことに加えて、関西の国際線に関しても、アジア路線は充実しているとはいえ、ヨーロッパ路線や北アメリカ路線は限られていることに起因している。大手航空2社も、このような乗継旅客に焦点を当てた路線ネットワークを展開しており、例えば、関西や伊丹の国際線乗継カウンターで乗継便のチェックイン(手荷物預入等)を行えば、最終到着空港で預入手荷物を受け取ることができ、羽田や成田では出国手続きをするだけであることから、旅客にとっての利便性も高いといえる。
 本研究レポートでは、OAGデータに基づき、特に、伊丹に着目しながら、関西3空港を出発し東京2空港を経由する乗継旅客の流動実態を明らかにする。

2 航空旅客流動の類型化

 本研究レポートNo.543(2024年2月発行)において、航空旅客流動の類型化について述べたが、以下では、本研究レポートの趣旨に沿いながら、再度、取り上げる。図1に示す通り、航空旅客流動は4タイプに類型化できる。

(1)ローカル(Local):B空港とC空港の間の乗り換えを伴わない旅客流動
(2)ビヨンド(Beyond):C空港での乗り換えを伴うB空港とD空港の間の旅客流動
(3)ビハインド(Behind):B空港での乗り換えを伴うA空港とC空港の間の旅客流動
(4)ブリッジ(Bridge):B空港およびC空港での乗り換えを伴うA空港とD空港の間の旅客流動
 本研究レポートでは、関西3空港をB空港、そして東京2空港をC空港と設定した上で、到着空港であるD空港に焦点を当てることになる。
 なお、以下ではOAGデータを利用するが、同データは、主にMIDT(Marketing Information Data Transfer)に基づいている。MIDTは、世界のGDS(Global Distribution System)ベンダーであるアマデウス、セーバー、トラベルポート、アマカス、インフィニ、アクセス、トッパス、トラベルスカイ等の予約データを取り込み生成したデータであり、OAGの需要データ(トラフィック・データ)には、同社が独自の方法で算出した推定値が含まれている。従って、OAGデータは、全ての旅客流動を正確に反映している訳ではない1)

3 関西3空港発東京2空港経由乗継旅客の実態

 表1は、2019年における関西3空港発東京2空港経由の乗継旅客について、乗継旅客数とその総乗継旅客数に占める割合を示したものである2)
 同表からは、まず、東京2空港で乗り継ぐ旅客数は、関西が21.5万人(羽田:18.9万人、成田:2.6万人)、伊丹が49.2万人(羽田:31.9万人、成田:17.3万人)、そして神戸が3.6万人(羽田:3.6万人)であり、関西および伊丹に関しては、羽田の割合の方が高いことが分かる(関西:87.9%、伊丹:64.8%)。なお、神戸には成田路線がないことから、成田経由の乗継旅客は存在しない。
 次に、羽田で乗り継ぐ関西の旅客(18.9万人)については、国内線が11.7万人(62.1%)、そして国際線が7.2万人(37.9%)である一方で、成田で乗り継ぐ関西の旅客(2.6万人)は、国内線が0.4万人(15.1%)、そして国際線が2.2万人(84.9%)となっている。総計(21.5万人)では、国内線が12.1万人(56.4%)、そして国際線が9.4万人(43.6%)であり、国内線の乗継比率の方が高い。さらに、国内線(12.1万人)に関しては、羽田が11.7万人(96.7%)、そして成田が0.4万人(3.3%)である一方で、国際線(9.4万人)は、羽田が7.2万人(76.4%)、そして成田が2.2万人(23.6%)となっている。総計(21.5万人)では、羽田が18.9万人(87.9%)、そして成田が2.6万人(12.1%)であり、羽田の乗継比率の方が高い。
 そして、羽田で乗り継ぐ伊丹の旅客(31.9万人)については、国内線が17.1万人(53.7%)、そして国際線が14.8万人(46.3%)である一方で、成田で乗り継ぐ伊丹の旅客(17.3万人)は、国内線が0.1万人(0.8%)、そして国際線が17.2万人(99.2%)となっている。総計(49.2万人)では、国内線が17.2万人(35.1%)、そして国際線が32.0万人(64.9%)であり、国際線の乗継比率の方が高い。さらに、国内線(17.2万人)に関しては、羽田が17.1万人(99.2%)、そして成田が0.1万人(0.8%)である一方で、国際線(32.0万人)は、羽田が14.8万人(46.3%)、そして成田が17.2万人(53.7%)となっている。総計(49.2万人)では、羽田が31.9万人(64.8%)、そして成田が17.3万人(35.2%)であり、羽田の乗継比率の方が高い。
 最後に、羽田で乗り継ぐ神戸の旅客(3.6万人)については、国内線が3.2万人(89.9%)、そして国際線が0.4万人(10.1%)であり、国内線の乗継比率の方が高い。

 以下では、特に、伊丹の国際線乗継旅客に着目しながら、関西3空港を出発し東京2空港を経由する乗継旅客の流動実態を把握する。表2は、2019年における関西3空港発東京2空港経由の乗継旅客数が多い上位10目的空港について、乗継旅客数とその総乗継旅客数に占める割合を示したものである。
 まず、関西発羽田経由の乗継旅客((1)①)については、これは、図1におけるB空港を関西、C空港を羽田と設定した場合のD空港が該当する。同表からは、関西を出発し羽田を経由する乗継旅客数の多い上位10目的空港は全て国内の空港となっており、那覇空港と富山空港を除いては、北海道や東北の空港であることが分かる。次に、関西発成田経由の乗継旅客((1)②)に関しては、これは、図1におけるB空港を関西、C空港を成田と設定した場合のD空港が該当する。同表からは、関西を出発する旅客は、成田を経由して、主に、国内2空港(新千歳空港、庄内空港)やオーストラリア3空港(メルボルン空港、ゴールドコースト空港、ブリスベン空港)を目的空港としていることが観察される。
 次に、伊丹発羽田経由の乗継旅客((2)①)については、これは、図1におけるB空港を伊丹、C空港を羽田と設定した場合のD空港が該当する。同表からは、伊丹を出発し羽田を経由する乗継旅客数の多い上位目的空港は、ジョン・F・ケネディ国際空港(ニューヨーク)とスカルノ・ハッタ国際空港(ジャカルタ)の2空港を除いては、全て国内の空港(北海道・東北:5空港、九州・沖縄:3空港)であることが分かる。次に、伊丹発成田経由の乗継旅客((2)②)に関しては、これは、図1におけるB空港を伊丹、C空港を成田と設定した場合のD空港が該当する。同表からは、伊丹を出発し成田を経由する乗継旅客数の多い上位10目的空港は、全て海外の空港(北アメリカ:5空港、アジア:3空港、ヨーロッパ:1空港、オセアニア:1空港)であることが観察される。
 そして、神戸発羽田経由の乗継旅客((3)①)については、これは、図1におけるB空港を神戸、C空港を羽田と設定した場合のD空港が該当する。同表からは、神戸を出発し羽田を経由する乗継旅客数の多い上位10目的空港のうち、国内が5空港、そして海外が5空港であることが分かる。特に、新千歳空港(1.9万人)、那覇空港(0.9万人)、および新石垣空港(0.3万人)への乗継旅客数が多いことが観察されるだろう。

4 おわりに

 本研究レポートでは、航空旅客流動を4タイプ(ローカル、ビヨンド、ビハインド、およびブリッジ)に類型化した上で、特に、伊丹の国際線乗継旅客に焦点を当てながら、関西3空港を出発し東京2空港を経由する乗継旅客の流動実態を把握した。
 OAGデータには推定値が含まれているものの、同データに基づく分析結果からは、少なくはない旅客が、関西3空港から東京2空港を経由して、国内外の目的空港に出発している実態が明らかとなった。特に、都心に近接した利便性の高い伊丹に関しては、大手航空2社の路線戦略もあり、32万人の旅客が東京2空港(羽田:14.8万人、成田:17.2万人)を経由して国際線に乗り継いでいることから、その影響は極めて大きいといえる。
 本来であれば、東京2空港経由の乗継旅客は関西3空港で対応すべき旅客であり、今後、関西3空港の適切な機能分担と最大活用を考える上で、この分析結果には大きな政策的含意があるといえるだろう。

脚注

* 本研究レポートにおける分析で利用したOAGデータは、公益財団法人中部圏社会経済研究所の調査研究プロジェクト「中部国際空港の将来像調査研究会(座長:加藤一誠(慶應義塾大学商学部教授)」から提供を受けた。ここに、記して感謝申し上げる。

1)OAGデータの正確性に関しては、松本(2024)[本研究レポートNo.543(2024年2月発行)]を参照のこと。

2)IATA(2024)によれば、2024年2月における世界の航空需要(RPK)は、2019年の水準を5.7%上回り、2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から完全回復(国内線完全回復:2023年4月、国際線完全回復:2024年2月)したことから、2019年を分析対象期間とした。

参考文献

1)松本 秀暢 [2024] 関西国際空港における旅客流動の実態-純流動と総流動からの考察-, KANSAI空港レビュー, 543, 28-34.

2)IATA [2024] Air Passenger Market Analysis: Global air traffic surpasses pre-pandemic levels in February.

3)OAG [2017] Asia’s Hubs: Dynamics of Connectivity. OAG Aviation Worldwide Limited, 16 pages.

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