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航空空港研究レポート

-学識者による研究レポート-

空港業務にかかる人材確保とその対応

手塚 広一郎 氏

日本大学経済学部  

はじめに

 2022年は、新型コロナウイルス感染症の法律的な位置づけが2類相当から5類に移行し、コロナ禍が実質的に沈静化した年であった。それ以降、アフターコロナの局面と円安によるインバウンドの増加などにともない、航空旅客に対する需要が急激に高まることになった。その一方で、こうした需要の高まりは、グランドハンドリングをはじめとした空港業務の人材不足が顕在化することとなった。ここで、グランドハンドリング(以下、グラハン)とは、「航空機が空港に到着してから出発するまでに行われる地上支援作業の総称」であり、その内容は航空機の誘導や客室の整備、旅客の案内、手荷物・貨物の搭降載、燃料の給油等多岐にわたるものである。ここでは、これらグラハンに加えて保安検査などを含めた業務を空港業務と呼ぶ。 空港業務の人材不足の問題は、コロナ禍のもとでの人員の整理や離職による人員の減少とアフターコロナの局面におけるインバウンドなどの移動の急激な増加により、需要が供給容量(キャパシティ)を上回ることに起因する。需要が容量を超えれば人材不足に伴う混雑が発生し、それによって生じる遅延や運航頻度の減少は、社会的に負の影響をもたらす。筆者は、こうした空港業務にかかる人材確保など課題とそれに対する政策的な取組の整理を試みたが1) 、ここでは最近(2024年4月時点)の状況についてコメントする。

1)手塚広一郎(2024)「「空港業務の持続的な発展」に関する若干の覚書」『ていくおふ』5月号No.174.

1.「持続的な空港業務のあり方検討会」とその特徴

 空港業務の人材不足をはじめとした諸課題に対して、2023年2月に慶應義塾大学の加藤一誠教授を座長とした「持続的な発展に向けた空港業務のあり方検討会(以下、検討会)」が設けられた。検討会は、2023年2月から6月までに6回開催され、その「中間とりまとめ」は「空港業務の持続的発展に向けたビジョン(以下、「ビジョン」)」として同年6月に公表されている2) 。また、さらに、一連の流れを受けて、同年8月には空港グランドハンドリング協会も設立された。
 この検討会の主たる特徴の1つは、「ビジョン」を公表した後も継続して、短期・中期長期などを視野に入れてそれぞれの時期にフォローアップが行われている、という点にある。2023年10月に第7回の検討会が開催され、短期的な成果に対するフォローアップを行っている。また、2024年4月には第8回の検討会が開かれた。ここでは、令和6年4月に開催された第8回検討会でアップデートされた資料3) (以下、第8回資料)の一部をピックアップする。

 

2)国土交通省航空局「空港業務の持続的発展に向けたビジョン ~誇りをもって、笑顔で働き続けられる業界へ!!~」

 https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk5_000137.html (2024年4月30日閲覧)

3)国土交通省航空局「第8回持続的な発展に向けた空港業務のあり方検討会,資料1:空港業務における現状と取組状況(事務局資料)」

https://www.mlit.go.jp/koku/content/001634020.pdf (2024年4月30日閲覧)

2.空港業務の人材不足の現状と対応策

 第8回資料によれば、人材不足という点に関して、コロナ前の2019年3月とアフターコロナの2023年4月の主要各社の比較では、旅客ハンドリングでは全体で約2割、ランプハンドリングでは全体で約1割の従業員数の減少があった。その一方で,保安検査員数についても同様に、2020年4月と2023年9月の比較において約2割弱の減少があった。こうした減少は、2024年4月時点では、旅客ハンドリングが2019年3月との比較において91%、ランプハンドリングが101%と回復を見せている。保安についても、2020年4月の比較において、88%に回復している。ただし、都市部だけを抽出すると81%と回復が鈍化している。 ところで、空港業務の中でも旅客ハンドリング、ランプハンドリング、そして保安でそれぞれ人材確保にかかる回復の傾向に違いがある。実際、空港業務に含まれる項目は極めて幅広く、そこでの人材不足という課題を1つ取り上げても、それぞれの主体、地域、空港の規模によって直面している課題や対応策が異なる。したがって、空港業務の持続的な発展を実現するための対応方法は一義的ではなく、それぞれの空港の実情に合わせた形で個々に対応する必要がある。

3.コロナ前後の各空港の需要と人員体制の比較

 空港の実情に合わせた対応ということに関連して、第8回資料には、「コロナ前後の各空港における国際旅客定期便便数及びグラハン人員体制について」という図が公表されている。この図は、コロナ前に国際定期便が就航していた29空港を対象として、2023年4月時点および2024年4月時点における国際定期便数の増加率(需要)とグラハン人員体制の増加率(人員体制)をそれぞれ比較し、コロナ前比で100%以上であれば+、100%未満であれば-とした上で、2行2列のマトリクスで表したものである。
 特に注目すべき点は、マトリクス上の位置づけによって、2023年4月時点と2024年4月時点において各空港の直面する課題がどう変化し、今後どのように対応すべきかを明示している点にある。第1に、需要が+であり、なおかつ人員体制も+である場合は、需要の増加に対して人員確保されている、と解釈できる。そのため,対応策も今後の需要増加に向けたものであれば良い。第2に、需要が-であり、なおかつ人員体制が+に属する空港は、こちらも人員が既に確保できており、需要に余裕がある状態である。そのため対応策としては、路線誘致を通して需要を喚起することが想起される。第3に、需要が+であるものの、人員体制が-の場合は、人材不足による混雑が生じている状態、と解される。そのため、人員の確保のための施策を推進する必要がある。最後に、需要が-であり、人員体制も-である場合、需要の増加のための対応策と人材確保の施策をセットで行う必要がある。



図 コロナ前後の各空港における国際旅客定期便便数およびグラハン人員体制について


出典:国土交通省航空局・国土交通省航空局「第8回持続的な発展に向けた空港業務のあり方検討会,資料1:空港業務における現状と取組状況(事務局資料)」7ページ
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001634020.pdf

4.むすびにかえて

 この図から示唆されることは、空港業務を取り巻く課題は一義的ではなく、それぞれの空港の文脈に合わせて対応する必要がある、ということである。「ビジョン」では、空港業務の持続的発展に向けた対応策について、6つの方針、時間軸、対応する主体によって整理した上で、対応策を示している。こうした整理は、個別の実情を全体の中に位置付け、その具体的な対応を明確化する上で大きな意義を有している、といえよう。

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