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今月のセミナー

-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-

これからの航空・空港政策の方向性

加藤 一誠 氏

慶應義塾大学商学部 教授

●と き 2024年10月25日(金)

●ところ 大阪キャッスルホテル 7階 松・竹・梅の間(オンライン併用)

はじめに

 これからの航空と言うお題をいただいたのですが、現在の関西の航空や空港の制度は過去との連続もあり、どうしても過去を振り返らざるを得ません。したがって、今日は振り返りを入れつつ、そこにも原因を求め、最後に将来を考えるという形にさせていただきます。
 私は先日、ある短いエッセイを書く機会をいただきました。そのとき、「KIXの需要が早く大きく伸びるとは思わなかった。自らの不明を恥じたい。」と書きました。特に、1999年7月に着手された二期工事中は関空の状況が厳しく、それを近くで見ていた身からすれば、こんなに人が増えるとは本当に思っていませんでした。今日の政策の基礎にはそのような苦境があり、当時を振り返ることにも意味なしとは言えないと思います。

「関西流」空港政策の確立

1)2000年代

・関空の負のスパイラル(2011年頃まで)

 関空は元々民活で始まりました。成田は同じように整備したが、関空のような有利子負債がない。関空の30年の歴史を見ると有利子負債が出発点としか言えません。借金を返しながらということになるわけですから、着陸料も家賃も高くなる。これが航空会社のコスト負担になるので飛行機が飛びません。
 そうなると今度は便数が増えないから不便になって客離れが起こるという、これが2010年までの悪循環でした。
 一方で伊丹は、下代さんのお話にもあったように、1994年に国際線と中距離便がなくなって地元の経済が落ち込みました。これに対し、あまりに落ち込みが大きかったため、一時的に増便されました。これは、伊丹の存続協定の中でジェット枠の活用を言っており、それに基づいて若干伊丹の便数を増やしたわけです。
 中央(=霞が関)からすると、「関西だから、関空も大阪(国際空港)と同じだけ利用があるだろう。だから関空の国内線も伊丹と一緒に伸びていくだろう」と思われていた。ところが、伊丹の旅客が増えているのに、関空の国内旅客は減ることになるわけです。
 一時的に、関空の国内線は多いときの半分ぐらいになるのです。国際線は徐々に増えていたのですが、9.11テロやインフルエンザの流行で、今度は国際線まで落ち込むことになりました。関空の経営が厳しくなり、2001年の財務大臣と国土交通大臣の申し合わせで2期事業スキームを見直し、翌年には同じ枠組みで補給金を入れることになります。
 同時に、「伊丹はちょっと辛抱しろ」という形で国は環境規制を理由に、伊丹の長距離便を減らします。このような国の政策が関西の空をどんより曇らせていました。人為的な路線や便数の変更がうまくいかない、という例とも言えましょう。

 この一番苦しい2003、2004年辺り、本日ご講演いただく技術審議官の田中知足さんが関西国際空港・中部国際空港監理官室におられたと聞いております。一番しんどいときに国で頑張ってくださっていたという、そんな不思議なご縁を感じています。

・関空利用の減少と財務状況の悪化

 ここで、大変だったときのお話をいたしますが、この図を見ればそれは一目瞭然です。2000年以降になると、営業収入が落ちていますが、数字の上では経営が改善したように見えます。経営改善とはいっても、補給金を入れたため、損益が黒字になっているわけです。つまり、営業収入は落ちるが経常損益はプラスになるのは、関空の支援策だったわけです。
 先ほど下代さんの話にもありましたが、この後、2009年の政権交代で、当初は補給金が凍結されます。その後、補給金を減らして継続されることになります。そして、債務返済のために2空港が統合されました。この後では、こうした関西の流れに全国的な視点を入れ、今日のユニークな関西の政策の特徴を述べたいと思います。

・2000年代初頭の航空・空港政策

 関空が苦しかった2000年代初頭、関空2期事業、羽田と成田の容量拡張という3つが国家事業でした。
 国の一番大きな政策はオープンスカイで、そのときは成田・羽田を除いていました。それは羽田・成田の容量が不足していたからで、羽田にはD滑走路をつくるため、再拡張事業が進んでいました。成田は平行滑走路をつくりましたが、滑走路長は2,180mでして、この利用には制約がありました。
 つまり、成田・羽田が拡張されるまで、これらを除いたオープンスカイしかできないため、日本政府は基本的にオープンスカイには後ろ向きでした。仁川が日本の地方空港のハブと言われたのもこの頃でした。
 このような状況下、下代さんがおっしゃった3空港懇談会ができます。2003年というのは先述のように関空の一番しんどかったときで、だからこそ、この枠組みがつくられたといってよいでしょう。3空港懇談会は地元が航空政策を決め、国に物申すという関西の航空政策の特徴ですが、これは「苦しみから出たイノベーション」と思っています。
 結局、関経連という経済団体が事務局を務め、空港会社、地元自治体という産官連携の組織ができ、この後これが機能して今日につながっております。
 なお、2025年夏ダイヤからの容量拡張についても、この枠組みの中でできたものですし、地元自治体の方々も大変ご苦労されたと聞いています。もちろん、KAPの方も地元に一生懸命ご説明いただいたと聞いています。

2)2010年代

・2010年代の航空・空港政策

 以上のような経緯で2010年代に入っていきます。
 この時代を二つの見方で考えてみたいと思います。ひとつは「効率の側面」、いまひとつは「安全・公正の側面」です。経済の効率はコストカットの意味だけではなく、お客様を増やすという意味です。多くの人が満足することが社会的にも良いのですが、旅客を増やしていく策を考えることは重要です。
 そのための大きな“武器”が本邦LCCです。本日ご参加の方々の中にも、航空貨物のインテグレーターを誘致された方もおられますし、大変なご苦労をされて需要を増やしてこられました。
 先ほどの下代さんの話では、関空をハブ(拠点)にしている航空会社はないということでしたが、その通りです。ピーチもフルサービスキャリアのようなハブにせず、拠点として使ったわけです。これは、空港経営からみると、一社に依存しないという意味で強みになっています。また、成田のジェットスターも入れて、それまで落ち込んでいた国内線の旅客数が増加に転じたわけです。関空が日本の航空需要を増やすために貢献しているという意味で、効率に対する寄与と言えるでしょう。
 一方で国の方は、伊丹の当時の収益をあてに、統合という形を選びました。同時に民主党政権になった後、PFI法を使った空港民営化の法律が整えられていきます。関空だけは借金返済のためのコンセッションでして、他の空港コンセッションとは動機が違うのです。もっとも、枠組みは同じですから、PFI法をもとにした空港コンセッションが空港民営化の条件になっています。
 インフラ別に見た場合、コンセッションでなくとも民営化とされるインフラもあるのですが、現状において空港は、エアサイドとランドサイドを一体にしたコンセッションにする必要があります。リストを見ると、他のインフラは「コンセッション等」と書いてありますが、空港だけは「等」と書いていません。今、日本の空港の民営化が進まないのはそこに理由があると感じています。エアサイドの収支が非常に厳しいので、そこをビルの収益でカバーしようという枠組みなのですが、旅客数が一定以下の空港は収益力が小さいから、広島以降、国管理空港の民営化が止まっているのではないでしょうか。必ずしもすべての空港にコンセッションが適しているとは思いませんが、その理由は、エアサイドのコストや運営リスクが大きいのです。もっとも、ビルだけ、とかそこに駐車場も入れたランドサイドだけの民営化は一体化ではないわけですから、制度を変えない限り趣旨からは離れるかもしれません。
 国はその他にも、ビザ発行条件を緩和しました。これは定量分析でも、インバウンドを増やすためには有効だったとされています。一方で、運営の時代と言いながら、首都圏並びに拠点空港の整備は着々と進められており、容量は全国的に拡大しており、今後、インバウンドの増加に寄与するでしょう。
 そしてもう一つが、2010年代末に出てきた「安全・公正の側面」という、「効率」とは全く違う面です。例えばBCPにお金を使っても、お客様は増えません。当時、BCPの委員会で「民営化空港だから安全に目が届かないのでは?」といった話もあり、関空さんへの風当たりは厳しかったと思います。
 しかしながら、関空がモデルケースになり、経緯や知見を公開してくださったので、それを材料に全国の空港にBCPが展開できました。皮肉に聞こえたら申し訳ないのですが、非常にありがたい教訓をつくっていただいたことになります。

・空港別の入国外国人(%)と出国日本人・入国外国人比率(全国集計)

 さて、空港別の入国外国人比率をご覧ください。今、3空港で7割5分ぐらいのシェアをもっています。そのうち目立つのは関空のシェアの拡大で、日本に入国する外国人の約4分の1を受け入れています。コロナ後、福岡の戻りが早く、2023年は福岡が約10%を受け入れています。空港の立地を考えると、福岡も西ですし、西の空港は戻りが早いように見えます。
 次は、全国集計で見た日本人と外国人の比率です。先ほどの関空さんのお話では8対2あるいは7対3とのことでしたが、今、全国でも空港の景色が変わっており、外国人が多いことは皆様大体ご想像の通りだと思います。
 こちらは成田空港の日本人・外国人比率ですが、成田も同じで、7対3となっています。別のデータがあり、それは後述します。トランジットの話も後ほどいたします。
 コロナ後の日本の空港の景色は変わりました。おそらく皆様も、JALさん、ANAさんの国際線に乗られて、コロナ前にはほとんどが日本人だったのにずいぶん外国人が多いなと気付かれるでしょう。

・関西空港の出国率(日本人、居住地別、%)

 集計すると、外国人が増えて日本人が減ったわけですが、今度は日本人に着目してみました。こちらの府県別のデータをご覧ください。2018年(コロナ前)では例えば京都の7割以上の人は関西空港を使っていたが、2021年11月はその比率が30%ぐらいに落ちていることが分かります。
 関西の府県が全て赤から黄色・オレンジになっているということは、関空からの出国率が落ち、どこか別の所に行っていることになります。これは路線や便数の戻りが遅かったことが大きな理由なのでしょうが、今後が気になるところではあります。
 関空は国際線重視のシフトが鮮明ですから、日本の出国が減るのは一時的なものなのか、ずっと続くのか、とあわせてどこから出て行くのかを考えなければいけないでしょう。

・成田、羽田の出国率(日本人、居住地別、%、2018年)

 そこで、関東のシェアが興味深いのでご覧ください。成田の場合、千葉など東側の県ではやはり成田から出る比率が高かったのです。羽田はコロナ前はグリーンなので10%台でした。
 ところがコロナ禍を経て変わってきます。例えば群馬県が一番分かりやすいのですが、黄色からオレンジになっています。群馬をはじめ、北関東はオセロゲームのように羽田からの出国が増えたことになります。
 関西の人も羽田がグリーンになっているので、羽田が出国空港として使われていることが分かります。先ほど「どこか別の所に行った」と言いましたが、羽田の便の戻りが早いこともあり、羽田国際線が使われていたことになります。
 この動態調査は2022年11月が最新だったので、この辺りが今後どうなるのかは、新しい調査結果を見ていく必要があるでしょう。日本人が減ったのが、円安を理由とするならば構造的になってしまうかもしれません。

関空・神戸の容量拡張の位置づけ

・3空港の概要(ポイントのみ)

 容量拡張の位置づけについても、下代さんの資料にありましたので、少し違う視点でお話をします。
 まず、3空港の概要について。関空では、25年の夏ダイヤでは1時間の時間値を増やそうとしています。ご存知のように、空港の容量は毎時間一定ではありません。また、羽田は全部満杯だから一定なのですが、普通は山があります。関空は山の45回/時を超えるので、それを60回まで増やすことになっています。
 一方で神戸も容量を増やしています。表に7時から23時(2020年夏~)とありますが、今回の容量拡大の前に増やしています。私が気になっているところなのですが、運用時間が14時間か16時間かというのは、意味が違います。例えば14時間だと管制が2交代で運用できますが、16時間になると、3交代を考えなければならないので、24時間化への切り替えを見据えているのかな、と感じました。あくまで私の想像ですが、少なくとも16時間への拡大は、神戸の将来のポテンシャルを増やしたと考えています。
 神戸の容量拡大のためには時間値を増やすわけですが、神戸を見るとき、明石海峡がポイントです。飛行機は必ずあの狭い明石海峡を往来しなければならないことがボトルネックになっていました。それを今度、淡路の上を少しだけ飛ばさせてもらうことになっています。なお、2030年頃からは国際線もできることになっています。
 下代さんがおっしゃいましたが、関西全部で大体50万回弱を目指します。時期には幅があるものの、首都圏が100万回なので、インバウンドの増加を含め、その2分の1を関西で負担してくださいねということ、と感じています。
 2023年時点で、日本全体でおよそ2,500万人の訪日外国人がいます。関西が650万人、成田が800万人、羽田が500万人弱なので、訪日客数でみても首都圏の規模は関西の倍ぐらいということになります。今後の訪日客6,000万人も視野に入れ、羽田にはほとんど拡張余地がないものの、成田は滑走路を3本にして空港を整備し、かなり先ですが、国内際あわせると現在の2倍にあたる7,500万の乗降客数を想定しています。

・全国の基幹(拠点)空港の容量拡大

 日本の空港は「運用の時代」と言われていますが、拠点空港に関してはそうではなくなっています。まず2020年3月、ちょうどコロナ禍に突入したときですが、那覇には第2滑走路ができました。福岡は来年3月に2本目ができますが、1時間当たりの離発着回数は38回から40回程度であまり増えません。45回という話もあるのですが、今回は40回と聞いています。関西もその流れからいくと、都市圏空港の容量拡大の一つにあるといってよいわけです。
 そして2027年度は中部の滑走路ができます。これはクロースパラレルで、代替滑走路と呼んでいますが、形の上では2本目となります。将来的には中部では完全な滑走路1本を外へつくる予定です。北九州も3,000mに滑走路が延伸されます。
 主要な空港でここに載っていないのが伊丹と新千歳です。伊丹は正直なところを申しますと、エアラインにとって魅力が落ちています。“儲かる空港”ではなくなりつつあるのでは、と感じます。そもそも、伊丹の場合はご承知の通り、長距離の規制があるため、長距離を自由に飛ばせません。増えてはいるのですが、長距離便はジェット機枠と低騒音機枠のぞれぞれに上限が設定されているため、エアラインにとって自由に飛べないという制約があります。
 これに加え、国内線は東京から行く人はいるのですが、地方からの戻りが少し落ちています。ビジネスはオンライン普及で減っており、エアラインはそれを観光で埋めてはいますが、ご存知の通り単価が全然違います。円安でコスト高の折、新幹線と競合する伊丹から九州西部との路線は運賃も上げられず、特に厳しいようです。
 また、アウトバウンドが厳しい例として、搭乗率保証で有名な羽田-能登路線を見ましょう。昔は東京発7、能登発3でした。ところが今はそれが9対1ぐらいです。広い意味でのアウトバウンド、地域発が減っているわけです。
 そこで、私は関西と羽田発の両方ともチェックしたのですが、関西発と羽田発を比較するとあまり旅客数が変わらないので関西はまだ元気です。しかし将来人口が減っていくと、東京へ行く人あるいは大阪に来る人が減るのでは、という不安があります。
 今、国も地方も観光政策は外国人誘客に重点がありますが、日本発、地元発はあまり気にしていません。果たしてそれで大丈夫なのか、という危惧があるのです。地域力という言葉が下代さんの話にもありましたが、外出しない、よそへ行かないということなので、地域の活力のようなものが落ちていると言えないでしょうか。インバウンド旅客にお金を落してもらうと言うのですが、観光業に落ちるお金は国内宿泊旅行の3分の1ぐらいです。インバウンドは増えていても、金額としてはまだ少ないのです。
 人口が減ってアウトが増えないのは仕方がないとはいえ、増やす努力をする必要があるでしょう。関西はまだ元気なので、元気なうちに需要を掘り起こすなど地域発のケアもしておく必要があるのではないかと私は思っています。

・首都圏空港の機能強化

 こちらの図は、先ほどの「100万回/年」の内訳です。これは2010年代から取り組まれていました。空港の容量拡大は簡単に早くできません。じわじわと匍匐前進のように容量を増やしてこられて、最終的に100万回までもっていくのですが、羽田はもう増えない状況です。先ほども述べましたが、首都圏は成田で受け入れ、あとは関空、この二つで受け入れていくしかないのです。

・航空会社の分担

 そこでどう考えるか、ということなのですが、こちらをご覧ください。インバウンド旅客の4分の3は外国エアラインが運んでいます。これは直行便だけを示しています。首都圏では確かにJALさん、ANAさんが頑張っているのですが、JALさんは収益の少ない関西をあまり好みません。ここに関係者の方がいらしたら申し訳ありません。はっきり言いまして、本社のない大阪からビジネス客、ファースト客が少ないんだろうと思います。
 乗られるお客様の数は多いのですが、単価が低いと。だからお客様が乗っていても、「あれっ、便がなくなったな」というのはそういうことなのです。
 関空は外航向けの戦略を取っているわけです。そうすると、首都圏はJAL、ANAをどう儲けさせるかということになります。同じインバウンド旅客でも質が違うのです。
 外航は、儲からなければすぐにいなくなってしまいます。これをつなぎとめるのに関空さんは苦労をされていると聞いております。エアラインは外国の空港と使用料などを比較し、短期的な利益が重視されているのではないでしょうか。

・【参考】成田はトランジット旅客の取り込み

 参考として、トランジットの比較です。令和3年度と大きな差はないものの、一番新しい令和4年度で見ると、大体成田は日本人3分の1、外国人3分の1、トランジット3分の1となっています。
 これは、際際乗継ぎが増えているということなので、トランジットの取り込みが成田の戦略の一つといえるのです。貨物でも同じことが起こっています。
 羽田は、少なかったトランジットが増えてきています。その点、関西は依然、少ないです。LCCが多いということもあり、乗り継ぎが難しいためです。ここからも戦略の違いが見えてきます。つまり、成田はトランジット旅客をどう取り込むか、関空は目的地戦略なのです。先ほど下代さんが言われたように、目的地をどう広げるかが重要で、大阪や京都だけではなく、関空を使ってどこか別の目的地へ行くような戦略をつくっていかねばならないでしょう。そのためには関西の自治体にどんどん送客するのも必要でしょう。
 そこが将来の首都圏と関西の質的違いだと私は思いますが、あくまで直感ですから、間違っていましたらご容赦ください。

・関西3空港懇談会のプラットフォーム、調整機能

 私が、「これだけは絶対言っておくべき」だと思っているのが次のお話です。政策のレビューをしてみると、非常に面白いことが分かります。
 2019年の関西3空港懇談会で「中期では将来需要に応じたKIXの発着容量の拡張可能性を検討してくださいよ」と言っています。それで地元の方は、2020年1月に需要調査の委員会をつくりました(関西国際空港の将来航空需要に関する調査委員会)。これはKAPさんとNKIACさんでつくった委員会です。自治体の方々と共に一生懸命地元でやりました。
 しかし、コロナ禍となりました。ちょうどこの委員会の開催日に、関空の武漢線が休止になった、そんな思い出があります。そして、コロナ禍がこんな長くなるとは思っておらず、放置もできないので3空港懇談会も開かれました。当時は将来の見通しがまだ分からず、需要予測が出しづらかったです。
 そして2022年1月、これも実は厳しいときでした。次回に報告すると予告して、次回2022年9月の第12回懇談会が開かれるまでの間に、委員会で需要予測の中間取りまとめを行いました。すなわち地元で考えたことを、3空港懇という場で自治体や経済界が、責任をもって国に「やってくださいよ」と書くわけです。つまり、万博を含め将来的に需要が増えるから、国に飛行経路の見直しの検討を要請するということになります。そうすると国は応じて、委員会を設置し、考えるわけです(関西空域における飛行経路技術検討委員会)。
 私はここにも参加させてもらったのですが、国は「これは地元の要請に応じて行う委員会だ」として、自分たちがやっているのではなく、地元に頼まれてやっているというスタンスなのです。「地元の要請で」動いている委員会ですから、委員が内部ヒアリングなども実施して地元理解に努力しつつ、考えるわけです。
 こうして国は提案し、地元で検証してください、ということになり、それを3空港懇談会でまとめることになるわけです。このとき国は「提案」をしています。先ほど下代さんが遠慮して「国がやってくれた」とおっしゃいましたが、国はあくまで「提案」しそれを地元が検証して受け入れ、汗をかいて頂いてできたのが今回の結論です。
 これは国としても地域としても空港政策のモデルケースになるのではないかと思います。地元が責任を負ってくれるのですから。国の関係の方々には申し訳ないのですが、空港問題には地域が正負の影響を受けますから、地元の考え方をまとめる場が重要なのだろうと思います。後でもお話しますが、空港を使った地域活性化のモデルケースになると思っています。


課題と展望

・航空・空港全体として、費用増加の負担方法は?

 最後に展望と課題です。課題と展望でまず一つ言っておきたいのは、費用負担の問題です。CO2やZEB(Net Zero Energy Building)問題、保安料の問題(手荷物やテロ対策に対するコスト)などです。今年3月から、国管理空港の保安料が一人当たり105円から250円に上がっています。旅客負担が増えたことになるのですが、これが2分の1補助ですから、エアラインの持ち出しも増えています。厳密には検証できませんが、これが運賃上昇の一部になっているかもしれません。
 保安料を考えると、もし、空港ごとの独立採算であれば、小さい空港ほど単価が上がるものの、そのすべてを運賃に転嫁できないでしょうから、誰が負担するか、という問題をこれから考えていかねばならないでしょう。
 空港の維持運営も、人件費が上がっていきます。たとえば、グランドハンドリングのコストも上がりました。また、空港の建設コストは去年からだけでも土木工事が1.6倍だと聞いています。
 このようにコストはどんどん上がっていくのですが、それを誰がどう負担するのかを考えていかなければなりません。私は、運賃弾力性の小さいところは少し上げてもいいのではないかと思います。そのような旅客負担も一つの方策だと考えています。CO2の問題はもっと大きい視点で考えていく必要があるという気はしています。

・入国外国人の増加は日本全体の傾向だが…

 第二は、入国外国人の増加は日本全体の傾向ですが、アウトバウンドはこれでいいのか?ということです。いつかは伸びが鈍化するかもしれず、インバウンド旅客がもし減ったらどうするのでしょうか。路便は維持できるのでしょうか。
 国際定期便は片荷になったら全く成立しません。それで裏付け資料としてデータをご用意しています。先ほど申しましたように、観光業は国内の旅行でもっています。グラフの黄色がインバウンドなので、国内宿泊旅行ではその3倍のお金が使われていることが分かります。だから額としては圧倒的に観光業を支えているのは国内なのです。「お出かけ」がないと、実は観光業がもたないという構造があるわけです。
 確かにインバウンドの増加は多いですし、これから人口が減ってくるも分かっているのですが、関係者がお出かけを増やす方策を考えていく必要があるということです。

・A2-BCPは常に進化する

 そして第三がBCPです。
 問題は、長期になると経験者がいなくなることです。これは重大なことで、“語り部”がいなくなると伝えられなくなります。関空さんは違うと思いますが、民間会社では昔は国のローテーションで人員が入れ替わっていました。しかし今は親会社の株主のローテーションになっており、5年で帰ってしまいます。そうすると属人的なところは引き継げず、これをどうするかという問題です。
 そして、災害の激甚化によって、空港が人を長期滞在させなければならないので、仕事が増えてしまった、それをどうするのかという話もあります。
 次に、公正(安全)要因が効率(経営)に影響を与えたという話。どういうことかと言うと、ムーディーズという格付け会社が、なんと空港の自然災害を赤やグリーンなどでランク付けしたのです。するとアメリカの空港で海岸付近にあるものの多くには、「Flood」や「海水面上昇」のリスクがあるとして赤が付きました。すなわち経済面にまで悪影響を与えつつあるということです。
 最後、これだけは、ということです。3空港懇は、経済団体(関経連)が頑張ってプラットフォームをつくり、自治体のいろいろなしんどい部分を負担してくださっているということ。地域問題を抱えているところは多いと思いますが、そういうところでイノベーションが生きるのではないか、と私は思っています。
 関空2期工事を推進したい関西が苦労して、“自分ごと”として考えたのがおそらくこのモデルができた直接的な理由だと思います。各地域が航空や空港を使って活性化を考えているのですが、1つの県、1人のプレイヤーだけではなく、広域で、関係者皆が知恵を出し合うこのような組織が日本全国に広がってくれればいいなと考えている次第でございます。

 雑駁な話になりましたが、以上で発表を終わらせていただきます。
 ご清聴ありがとうございました。

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