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航空空港研究レポート

-学識者による研究レポート-

わが国の航空・空港におけるバリアフリー化の現状と課題

辻本 勝久 氏

和歌山大学 経済学部

1.「人生100年時代」を迎える日本と航空・空港のバリアフリー化

 内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、令和5年10月1日現在のわが国の65歳以上人口は3,623万人で、高齢化率は29.1%である。 令和4年現在の平均寿命は男性が81.05年、女性が87.09年で、令和52年には男性85.89年、女性は91.94年にまで伸びるとの予測がなされている。 また同白書は、世界では先進地域、開発途上地域の双方において、今後40年間で高齢化が急速に進展するとも指摘している。このような中で航空・空港をはじめとする交通のバリアフリー化は、高齢者をはじめ、あらゆる人が安心して移動できる社会の実現のために、その重要性を増している。

 2.進展するわが国の航空・空港のバリアフリー化

 わが国では、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」1) (以下、基本方針)にバリアフリー化2)の整備目標が掲げられており、その達成に向けて旅客施設や車両等々を対象とした各種の取り組みや、移動等円滑化促進方針・基本構想3)の作成などが進められてきた。
 現行の整備目標では、1日当たりの平均的な利用者数が2,000人以上の航空旅客ターミナルについて、令和7年度末までに原則としてすべての施設で段差の解消、視覚障害者誘導用ブロックの整備、案内設備4) の設置、トイレがある場合は障害者対応型トイレの設置等のバリアフリー化を完了することとされている。また、1日当たりの平均的な利用者数が2,000人未満の航空旅客ターミナルについても、高齢者、障害者等の利用の実態や地域の実情等を踏まえた可能な限りのバリアフリー化が求められている。航空機については、令和7年度までに原則として全てをバリアフリー化することとされている。
 表1は、令和5年度末現在の旅客施設のバリアフリー化の状況を整理したものである。平均利用者数が2,000人/日以上の航空旅客ターミナルは全国に42施設ある。これらのうち、段差の解消において移動等円滑化基準に適合している施設の割合は100%、視覚障害者誘導用ブロックの設置に関する移動等円滑化基準に適合している施設の割合は97.7%、案内設備の設置に関する移動等円滑化基準に適合している施設の割合は95.3%、障害者用トイレの設置に関する移動等円滑化基準に適合している施設の割合は100%となっている。
 これに対し鉄軌道駅5)は順に93.9%、45.3%、77.1%、92.4%、バスターミナルは順に93.0%、86.0%、79.1%、72.2%、旅客船ターミナルは順に94.1%、82.4%、64.7%、94.1%である。このことから段差解消や視覚障害者誘導用ブロック、案内設備、障害者用トイレの設置に関して、航空旅客ターミナルでは他の交通機関の施設と比較して、移動等円滑化基準への適合がより進んでいることが分かる。

 表2は、令和5年度末現在の車両等のバリアフリー化の状況を整理したものである。航空機については、全607機のすべてが移動等円滑化基準に適合している。これに対し、移動等円滑化基準への鉄軌道車両の適合率は59.9%、旅客船の適合率は57.8%である。またバス車両(移動等円滑化基準の適用除外認定車両を除く)のうちノンステップバスの割合は70.5%、タクシー車両のうちユニバーサルデザインタクシーの割合は23.5%である。既に移動等円滑化基準への適合率100%を達成している航空機は、各種車両等の中でも特にバリアフリー化が進んでいると言える。

1) 「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(「バリアフリー法」)に基づき策定された基本的な指針である。

2) 通路の幅、傾斜路の勾配、トイレの設備といったバリフリー化の基準は「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備並びに旅客施設及び車両等を使用した役務の提供の方法に関する基準を定める省令」(「公共交通移動等円滑化基準」)に示されている。

3) 移動等円滑化促進方針は、市町村が旅客施設や高齢者・障害者等が利用する施設が集積する地区におけるバリアフリー化の方針を示すものである。移動等円滑化基本構想は、同様の地区で公共交通や道路、建築物などのバリアフリー化を重点的・一体的に推進するための具体的な事業計画である。

4) 案内設備とは、文字等により表示するための設備及び音声により提供するための設備、標識、案内板等のことである。

5) 鉄軌道駅とバスターミナルは、1日当たりの平均的な利用者数が3,000人以上の施設と、移動等円滑化基本構想の生活関連施設に位置付けられた同2,000人以上の施設が対象となっている。旅客船ターミナルは1日当たりの平均的な利用者数が2,000人以上の施設が対象である。


3.わが国の航空・空港のバリアフリー化に対する評価

 内閣府の「バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する意識調査報告書」によると、 航空旅客ターミナルを利用する際に、バリアフリー・ユニバーサルデザインが「十分進んだ」「まあまあ進んだ」と思う回答者の割合は、平成30年度の45.9%から令和5年度には62.1%と大幅に増加した(表3)。高齢者に相当する60代・70代では評価がさらに高く、「十分進んだ」「まあまあ進んだ」との回答が令和5年度では66.5%に達し、平成30年度の46.3%から約20ポイント増加している。
 航空機に関しても、利用する際のバリアフリー・ユニバーサルデザインが「十分進んだ」「まあまあ進んだ」と思う回答者の割合が、平成30年度の31.7%から令和5年度には49.1%へと大きく上昇した。60代・70代においても、同様の傾向となっている。

4.わが国の航空・空港のバリアフリー化における課題

4.1 移動等円滑化基準を超えた整備内容の実現

 以上のように、わが国の航空・空港のバリアフリー化は、移動等円滑化基準への適合の面ではかなりの進展を見せ、利用時における評価も高まってきた。
 しかしながら表3にあるように、令和5年度においても、利用する際のバリアフリー・ユニバーサルデザインが「あまり進んでいない」「ほとんど進んでいない」との回答が、航空旅客ターミナルについては28.3%(60代・70代では26.1%)、航空機については40.1%(60代・70代では41.9%)となっている。このことは、移動等円滑化基準を守るだけでは、利用者が求める水準のバリアフリー化には必ずしも十分でないことを示している。
 国の「公共交通機関の旅客施設・車両等・役務の提供に関する移動等円滑化整備ガイドライン(バリアフリー整備ガイドライン)」には、「移動等円滑化基準に基づく整備内容」のほか、「標準的な整備内容」や「望ましい整備内容」が示されている。たとえば空港ターミナルなどの旅客施設のトイレについては、「高齢者、障害者等が円滑に利用することができる構造の便所であること」等が「移動等円滑化基準に基づく整備内容」、「異性介助に配慮し、男女共用車椅子使用者用便房を1以上設置する」等が「標準的な整備内容」、「車椅子使用者便房を 2 か所以上設置する場合は、右まひ、左まひの車椅子使用者等の便器への移乗を考慮したものとすることが望ましい」等が「望ましい整備内容」とされている。航空・空港においても、義務である「移動等円滑化基準に基づく整備内容」を満たすことは当然のこととして、それを超えた標準的または望ましいバリアフリー整備の実現への積極的な取り組みに期待したい。

4.2 利用者に対する情報提供の改善

 表4は、交通機関の利用者に対する情報提供等に関するバリアフリー・ユニバーサルデザインの進捗評価を整理したものである。表4の数値は、表3に示した利用する際の進捗評価の数値よりも、全般的に低くなっている。また、平成30年度からの改善の度合いも表4に比べて全体的に小幅である。このことから、航空旅客ターミナルや航空機のバリアフリー化においては、施設・設備面の改善に比べて、情報提供面の改善が遅れていることが分かる。
 情報提供面の遅れは、高齢者や障害者を含むすべての利用者が安心して航空・空港を利用する上で、大きな障壁となり得る。サインシステム等の誘導案内設備の改善や、情報をわかりやすく伝える工夫、ウェブアクセシビリティの向上といった取り組みの強化が必要と考えられる。

4.3 空港アクセスのバリアフリー化

 空港旅客ターミナルや航空機のバリアフリー化が進んだとしても、アクセスを担う鉄軌道や駅、バスやバスターミナル、タクシーやタクシー乗り場のバリアフリー化が進んでいなければ、旅行全体のバリアフリー化が進んだことにはならない。
 タクシー車両については、表2のとおり、全国におけるユニバーサルデザインタクシー化率が23.5%となっている。しかしながら関西においては、滋賀県が7.6%、京都府が13.0%、大阪府が15.3%、兵庫県が13.3%、奈良県が7.8%、和歌山県が8.8%と、全国を大きく下回る状況となっている。オリンピック・パラリンピックで普及が進んだ東京都は65.2%、平成27年から積極的に導入を図った鳥取県6)は33.5%に達している。関西においても、まずは「各都道府県で令和7年度末に約25%」という整備目標のクリアを目指して取り組む必要がある。
 空港アクセスバス7)については、表2のとおり、バリアフリー化された車両を含む運行系統数の割合が41.2%にとどまっている。まずはこの数字を引き上げるとともに、将来的にはバリアフリー化された車両の割合を数値目標化するなど、一歩進んだ目標設定とその実現に向けた取り組みが必要と考えられる。

6) 鳥取県「ユニバーサルデザインタクシーの導入」 https://www.pref.tottori.lg.jp/274318.htm (令和6年12月24日最終閲覧)

7)  1日当たりの平均的な利用者数が2,000人以上の航空旅客ターミナルのうち鉄軌道アクセスがない施設(27空港)へのバス路線

4.4 当事者参画による航空・空港のバリアフリー化

 関西エアポート株式会社は、関西国際空港第1旅客ターミナルビルのリノベーションにあたり、各種障害当事者や移動等円滑化評価会議近畿分科会委員等で構成される「バリアフリー検討会」を組織して、検討会やフォローアップ会を頻繁に開催し、障害当事者等の意見をリノベーション工事に反映してきた8)。その結果がトイレサインの改良や、カームダウン・クールダウンスペースの設置など、さまざまな形で姿を現しつつある。関西国際空港第1旅客ターミナルビルのリノベーションは、当事者参画によるバリアフリー化の好事例であると考えられる。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)を契機に、素晴らしい関西国際空港第1旅客ターミナルを多くの人々に体験していただくことで、国内外での同様の取り組みの広がりにつながることが期待される。

8) たとえば第6回移動等円滑化評価会議近畿分科会資料「最近の主な取組について(事務局)」 https://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/content/000330882.pdf (令和6年12月24日最終閲覧)

5.おわりに

 本稿では、わが国における航空・空港のバリアフリー化の進展状況と課題について述べた。高齢化の進展に伴い、航空・空港関連においても移動等円滑化基準の達成に加え、基準を超えた整備や、情報提供の改善、アクセス環境の整備、当事者参画による改善など、バリアフリー化のさらなる努力が必要と考えられる。誰ひとり取り残すことのない、すべての人が安心して利用できる航空・空港の実現を目指した取り組みの進展に期待したい。

参考文献・資料

  • 国土交通省(2024)「公共交通事業者等からの移動等円滑化取組報告書又は移動等円滑化実績等報告書の集計結果概要(令和6年3月31日現在)」
  • 内閣府(2019)「平成30年度バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する意識調査報告書」
  • 内閣府(2024a)「令和5年度バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する意識調査報告書」
  • 内閣府(2024b)「令和6年版高齢社会白書」
  • 「移動等円滑化の促進に関する基本方針(令和二年国家公安委員会、総務省、文部科学省、国土交通省告示第一号) https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/content/001379349.pdf(令和6年12月24日最終閲覧)
  • 国土交通省「公共交通機関の旅客施設・車両等・役務の提供に関する移動等円滑化整備ガイドライン(バリアフリー整備ガイドライン)」 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_mn_000001.html (令和6年12月24日最終閲覧)
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