-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-
萬谷 和歌子 氏
近畿大学国際学部国際学科 准教授
●と き 2024年9月4日(水)
●ところ 大阪キャッスルホテル 6階 鳳凰の間(オンライン併用)
※会員限定のためご覧いただくには認証コードが必要となります。
近畿大学国際学部准教授の萬谷和歌子と申します。近畿大学では航空に関する文理融合型の授業と観光に関する科目を担当しており、また外資系航空会社にて主に英語で勤務をしておりましたので、実践的な旅行ビジネス英語などの語学科目も担当しております。
大学卒業後に外資系航空会社3社で客室乗務員・機内通訳として、主に国際線の長距離路線に乗務したのち、大学院に入学し、兵庫県立大学大学院研究員を経て、2020年4月から近畿大学国際学部に勤務しています。2015年に京都大学で工学博士号を取得し、専門は航空政策、空港政策、国際観光政策です。
私は大阪出身で親善大使としてアメリカのミネソタ州に派遣されたことがあり、ノースウエスト航空(現デルタ航空)はアメリカのミネソタ州ミネアポリス市に拠点を置く航空会社だったため、そのご縁で航空の世界に入った次第です。博士後期課程では、理事長の小林潔司先生の研究室に所属しておりました。
外資系の航空会社は日本の航空会社と勤務形態や規則が異なる点がございますので、まずその話題を取り上げ、その後本題に入ります。
米国ノースウエスト航空は、現在はデルタ航空となっていますが、以前はアメリカのミネアポリスを拠点としておりました。同社で勤務していた際に日本の航空会社や日本の職場環境と異なると感じた点は、従業員の人種が多様であるため、ブリーフィングなどの際には必ず「人種差別などをしないように」という注意喚起があったことです。また緊急事態発生後に空港へ着陸した際、必ずマネージャーが機内まで来て、乗務員一人ひとりの身体とメンタルの状況を確認していたことが挙げられます。
他の航空会社にはない制度として、乗務員はそのような緊急事態があった際に“Stay”か“Walk”のどちらかを選ぶことができました。緊急事態が発生するとメンタル面に影響を及ぼすため、その後のフライトを継続して乗務するか乗務しないかを自分で選択できる制度です。
“Stay”は緊急事態発生後、フライトを継続する場合でも、本人の意思で乗務せず、待機要員が代わりに乗務をするという選択肢です。“Walk”はそのままフライトを継続して乗務してもよい選択肢で、そのような確認は他の航空会社にはなかったので、アメリカの航空会社は乗務員のメンタル面に配慮している点が異なると認識した次第です。
しかしその後米国同時多発テロの影響で会社の経営が悪化したため、アメリカ特有のセニョリティシステムと呼ばれる勤務経験が浅い乗務員から解雇となる制度により、レイオフ(一時解雇)対象となりました。そのためブラジルの航空会社に転職しました。
ブラジルの航空会社の特徴は、客室乗務員が国家資格であることです。日本の客室乗務員には国家資格制度がありませんので、訓練や安全基準などは航空各社に一任されていますが、ブラジルの場合はどの航空会社であっても共通の国家資格が必要となり、外国人客室乗務員も対象となっています。
右の写真はジャングルでのトレーニングです。ブラジルはアマゾンのジャングル上空を飛行するため、客室乗務員は必ず座学と実地訓練を受ける必要があり、ジャングルサバイバルトレーニングという、万が一不時着した際に生き残るための訓練がありました。
上の写真は、ジャングルで教官と一緒に怪我をしたお客様の救命救急対応をしている訓練風景です。右上は機内の備品を使用して「シェルター」と呼ばれる避難小屋を作る研修で、左下はジャングルでのお手洗いの作り方を学んだ際の写真です。
その他、火災訓練の際、客室乗務員は通常「モックアップ」と呼ばれる訓練所内の機内を模した施設で火災発生を想定して訓練が実施されますが、同社では実際に教官が座席に火をつけ、一人ずつ消火器で消火を行う訓練もありました。モックアップでのドア操作の訓練に加えて、実際に空港へ行き実機でドアの開閉をするという訓練もございました。
海外の航空会社の客室乗務員訓練は、頭で覚えるというよりは「筋肉で覚える」ことが求められます。緊急時に身体が即時に動かなければ客室乗務員の仕事は成立しないので、実際にジャングルでの訓練を行ったり、空港の実機でドア操作をしたりと、他の航空会社とは違った実地訓練がありました。
ジャングルサバイバルトレーニングの短い動画がありますのでご覧ください。このように緊急事態の際にもすぐ対応できるように客室乗務員は訓練を受けています。その後ブラジルの航空会社も破綻したため、再度転職しました。
中東の航空会社では乗務員もお客様もほとんどがイスラム教徒で一日5回の礼拝をするため、お客様から一番多く受けた質問は「メッカの方角はどちらですか」という質問でした。飛行中の航空機は常時メッカの方角が変わるため、座席のモニターを指し「こちらでございます」と確認しながら方角をお伝えしていました。
一度機内で異臭騒ぎがあり、外国人乗務員が「何か異臭がするのでハイジャックかテロではないか」と騒いでいたので、私が確認に行ったところ、何のことはない日本人にはおなじみの「正露丸」のにおいでした。外国人乗務員は正露丸を知らないので大変な騒ぎになり、もし私がいなければ緊急事態になっていたと思います。お客様の手荷物から正露丸が出てきたので、これは「正露丸」という旅行の必需品である下痢に利く薬です、と日本の文化を説明して事なきを得たのですが、外国人乗務員はこのような文化の違いの橋渡し役もするということを肌で実感しながら乗務をしておりました。
また私は現役時代“Queen of Emergencies”(エマージェンシーの女王)と呼ばれていました。それは多くの緊急事態を体験したからで、海外の航空会社はいつも新機材を揃えているわけではなく、中には中古の航空機をさまざまな所から買い集める会社もあります。従ってただ単に機材が古かったのだと思うのですが、さまざまな緊急事態を体験しました。お客様が機内で暴れる、エンジンが停止する、機体に穴が開いた場合などに発生する「急減圧」になる、そういった出来事も経験しました。
そのような経験を重ね、やはり客室乗務員はお客様の命をお預かりする仕事だということを常に実感していました。先述のジャングルでの訓練同様に、日常の訓練や医療対応などで準備をしておくことの重要性を認識しました。
普通の大学生だった私をここまで育てていただいた航空業界には大変感謝しておりますし、今も毎日接する学生に対しては、「お客様の命をお預かりする」機内の業務と同様に、長い人生をお預かりする気持ちで接しています。また大学教員として航空業界にどのように恩返しをすればよいかと常日頃考えながら業務を遂行しております。
3社目で業務中の怪我によって業務継続が困難になり、契約解除となったため、大学院での研究を始めました。大学教員になってからは、学生と社会を繋ぐ役目として社会貢献活動をしたいと考え、2015年から学生と一緒に乳がんの啓発活動であるピンクリボン活動を実施しています。具体的にはANAグループのPeach Aviation株式会社のご協力のもと、募金活動や講演会を実施し、また学生と一緒に抗がん剤治療で髪の毛が抜けてしまった方に対するタオル帽子を作成して寄贈する活動や、関西空港近隣のりんくうタウンの公園で清掃のボランティアなどを行っています。
ここからは本題の航空分野における産学官連携の話に入ります。産学官連携とは、近年わが国が推進している取り組みで、「産」:企業、「学」:大学などの教育研究機関、「官」:政府・地方公共団体が共同で取り組むことによってイノベーションや地域課題の解決を目指すものです。
文部科学省では「産学官連携モデル」があり、特に地方大学、地方自治体、産業界による地域共創の場を創設することによって地域を活性化する取り組みを推進しています。
本日私が取り上げる航空分野では、主に産:航空会社または空港会社、学:大学、官:国土交通省などに焦点を当てています。
次に、航空における職種と関連事業についてお話しします。
皆様が航空機を利用した際に、主に目にするのはおそらく図の中央の「カスタマー業務」のグランドスタッフ、客室乗務員というお客様対応の職種、またはその上の運航乗務員だと思います。しかし実際には、航空業界ではより多くの職種の人たちが運航に携わっています。
図左側の緑で示した「官」をご覧ください。例えば航空管制を担当する航空管制官は国土交通省の国家公務員です。その他CIQと呼ばれる出入国に関する職業があります。右側は「産」の航空会社、グループ会社、関連会社と主に民間会社が担当している職種です。
中央の「オペレーション業務」は主に運航に携わる業種で、パイロット、航空整備士、運航管理者、グランドハンドリングといった、お客様には見えない職務などが挙げられます。赤字で示した「航空整備士」のみ、大学の理系学部もしくは航空の専門学校航空卒業者であるという応募条件がありますが、それ以外の業種は全て出身学部や専攻を問いません。実は航空にはこれだけの業種があるのですが、乗客として接することがない業種も多いため、航空関連の職業については外部の方々にあまり知られることがないという実情があります。
右側の航空関連事業(非航空系)は、運航に携わる部署ではなく、例えば機内で提供する機内食関連や不動産、商社などの事業もあります。他にも、空港で見かけることもあるかもしれませんが警備会社、航空機運航の際に運ぶ貨物を取り扱う物流、航空気象の情報を提供する会社もあるのですが、学生は知る機会がありません。よって、このような幅広い職種が存在することを伝える機会があれば、より多くの優秀な人材が航空に携わってくれるのではないかと考えております。
近年の航空需要予測について説明します。こちらはIATA(国際航空運送協会)による、2019年を基準とした北米の航空需要予測です。
特にこの黄色の線にご注目いただきたいのですが、こちらは日本を含むアジア太平洋地域の需要予測です。2020年に需要は下降していますが、徐々に回復中であり、2024年以降は2019年のコロナ禍前の状況よりも上回ると予測されています。
次に二つのグラフがありますが、左側をご覧ください。
これから13年後の2037年の航空需要予測です。航空旅客の総移動距離の予測では、アジア太平洋地域は2017年の約3倍、そして右側のジェット旅客機の運航機数に関しては、アジア太平洋地域は2017年よりも2.4倍の航空需要が予測されています。
ここから明らかなことは、航空機の需要が高まるということはそれに対応する人材も必要であるということです。国土交通省が発表している国土交通白書によると、航空人材が不足しているために、人材の確保は急務であるというのが近年の状況です。
政府は2030年までに訪日客を6,000万人に増やす目標を掲げていますが、一方でコロナ禍に多数の人材が航空業界を去ったため、現在多くの職種において人材不足が課題となっています。また今後の課題として、航空機の目的地である地域との共生が掲げられています。
人材に関しては以前とは異なり、専門性よりも「多様性」が求められる時代となりました。
特にコロナ禍で大手航空会社は、雇用確保のために社員を一定期間、他企業や自治体へ出向する取り組みを実施していました。
一例として日本航空では2020年11月に「地域事業本部」を創設し、客室乗務員に地域に移住してもらうことで、業務を継続しながら地域のイベント支援などを行うという業務を新たに開設しました。
このように人材でも多様性が求められる時代になってきたことが昨今の特色で、特に「地域貢献」が強化されています。
基本的に航空の人材育成は、各航空会社または企業・団体に一任されていますが、航空管制に携わる航空管制官は国土交通省の試験の合格者のみがなることのできる職業で、航空保安大学校で学ぶことにより、航空管制官の資格を得ることができます。
航空分野の産学官連携ビジョンでは、日本の目標とすべき将来像として、産学官連携による研究開発と人材育成が掲げられています。
人材育成では、幼い頃から航空に触れる機会を設けること、また政府官庁の役割としては、安全に関する取り組みを国際基準に適合させるという目標が掲げられており、併せて大学の役割も明示されていますのでご紹介します。
大学の役割としては産業界と密接に連携することで実学に根ざし、また海外で活躍するグローバルな人材を育成することと記されているので、私たち大学教員としてはこれらの役割を意識しながら教育を行う必要があると感じています。
このような状況の中、2023年には普段あまり学生の目に触れることがない航空機・装備品メーカー、航空整備に関する事業者、研究機関、官公庁が共同で、国内初の学生向け航空技術産業セミナーを実施しました。
先ほど航空整備士になるには大学の理系学部もしくは航空専門の専門学校を卒業する必要があると説明致しましたが、大学や専門学校に進学するのにも、学費や生活費などの費用が必要です。そこで、航空整備士になりたい学生のために航空整備士育成支援プログラムが創設されました。
ここで特筆すべきは、本来競合関係にあるANAホールディングスとJALエンジニアリングが共同で奨学金制度を設立したことです。このように共同で取り組むことによって、個々の会社というよりはむしろ航空業界全体で人材育成に注力している状況となっています。
次に研究分野における産学官連携の状況を説明いたします。
日本においてこの研究分野で民間の投資が多い大学は、赤線で囲んだ東京大学、京都大学、大阪大学、慶應義塾大学の理系学部のみとなっています。このような理系学部のある大規模な大学は資金を民間から投資を得ることが可能ですが、地方の私立大学はなかなかそのような機会が得られないことが多いため、別の方法で人材育成、あるいは研究に取り組む必要があります。
次に産学官連携事業として、大手航空会社と大学の取り組みを紹介します。
日本航空は鹿児島大学と提携してパイロットの人材育成を実施しています。他にもさまざまな大学と連携教育協定を締結していますが、特筆すべきはカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)というアメリカの大学との連携を締結している点です。
ANAも多くの大学と連携教育協定を締結しており、特筆すべきは横浜国立大学との産学官連携プロジェクトで、研究の分野でも提携をしている点です。
ここからは首都圏の私立大学の産学官連携の取り組みについて二つの事例をご紹介します。一つ目は上智大学・ANA・香港中文大学・日本経済団体連合会(経団連)との共同のプログラムです。
こちらは訪日インバウンド客の日本誘致策の提案で、上智大学の学生が香港と東京でそれぞれ1週間、英語と日本語でのフィールドワークや講義を通して、グローバル企業の経営課題に取り組むというものです。
東京ではANAの機体工場見学や上智大学の教員による講義があり、香港ではANA香港支店の担当者、香港中文大学の教員、カンタス航空のアジア責任者、マカオ観光局担当者などの幅広い講師から事業戦略などを学ぶことができます。
二つ目の事例は、青山学院大学大学経営学部とシンガポール航空の産学連携共同学習プログラムです。
青山学院大学経営学部の3年生および4年生がシンガポールにあるシンガポール航空本社を訪問して、セールス・マーケティング戦略やプロダクトの特徴について英語で学ぶというプログラムです。主に機内食をテーマに学生がメニューを提案するという共同の取り組みです。
以上ご紹介した事例は首都圏にある私立大学で、さまざまな機会が提供されており恵まれた環境があるものの、地方の大学は資源が限られていることもあり、制約があります。その中で次に私が担当している近畿大学の産学官連携協定の話題に移りたいと思います。
一般的に学問における航空分野の領域は文理融合型で、例えば航空法などは文系分野に属している一方、航空整備などは理系の分野となり、幅広く文系理系の両方にまたがっており学際的であることが特徴です。
ここからは私の勤務する近畿大学の紹介をいたします。近畿大学は大阪府東大阪市にある私立大学で、「実学教育と人格の陶冶」を建学の精神として掲げており、来年に創立100周年を迎えます。創設者は和歌山県出身の世耕弘一で、経済的な理由で一度進学を断念したものの、丁稚奉公として働いたのちに自力で大学に進学しました。経済的な理由で進学を断念せざるを得ない人たちにも教育の機会を提供したいという思いで創設された大学です。
私の所属する国際学部は2016年に設立されました。このタイミングで英語名称を「KINDAI UNIVERSITY」に変更した経緯がございます。
近畿大学は総合大学であり、医学部があることが特徴です。関西国際空港には関西空港クリニックがあり、近畿大学医学部の医師が常駐しています。
スクールアイデンティティー(SI)として「近大マグロ」があり、コロナ禍では「近大マスク」を開発しました。口元が透明であることから当時多くのテレビ番組で近大マスクが採用されていました。
また近畿大学は「一般入試の志願者が多い大学」ランキングにて、10年連続で首位を獲得しております。キャリアセンターという就職をサポートする専門の部署があり、キャリセンター主催によるJALエアラインスクールとANAエアラインスクールを実施しています。
教養特殊講義は文系理系関係なく、総合大学として幅広い教養を身に付けるために開講されている科目です。
私が立ち上げから関わりました講義「航空・空港へのいざない」は、現在経営・経済・国際・法・総合社会・建築・理工の7学部の学生が対象で、文系学部5学部に加え、建築・理工の2学部は理系学部で、1年生から4年生の約120名が受講できる講義となっています。
航空に関する知識を深め、早期キャリアの意識を高めることを目的としており、特色は「パイロット」、「弁護士」、「医師」が参画する講義であることです。
この講義は国土交通省・JALグループの皆様・近畿大学の産学官連携型となっています。
現在文部科学省では、学生が主体的に学ぶスタイル(アクティブラーニング)を推奨しており、この講義においてもグループワークなどを活用したアクティブラーニング形式を採用しています。
前期に全15回開講しており、私が所属する国際学部がホストとなって、主に経営学部・建築学部の3学部の教員で運営しています。
加えて、同じ近畿大学の医学部の医師が航空医学、近畿大学職員の弁護士が航空法の授業を担当しています。
外部講師は、国土交通省から現役の航空管制官を招聘し、また日本航空グループから運航乗務員・航空整備士・客室乗務員を派遣していただいています。赤く囲んだ部分が理系の資格が必要な、あるいは理系学部の目印です。
開講までは約1年を要しました。主に知り合いの先生方にお声掛けをしたのですが、医学部の医師の派遣に苦戦いたしまして、個人的に依頼をしても承諾していただけませんでした。しかし航空会社での勤務経験から、医学は航空において大変重要だと常々認識しておりましたので、医師による航空医療の講義の必要性を感じていました。
そこで近畿大学経営戦略本部の世耕石弘本部長に、「この講義を世界一の講義にしたいので、近畿大学として医学部から講師を派遣していただけませんでしょうか」と依頼をしました。その結果、さまざまな方のご協力とご理解のお陰で開講2年目に医学部の医師に講義を担当してもらえることになりました。
加えて航空会社で勤務していた際、航空法を常時意識して業務を遂行しておりましたので、法律の専門家にも講義を担当してもらえないかと常日頃考えておりましたところ、学内に職員として弁護士が在籍していたため、2024年度から弁護士による航空法の授業も行っています。
講義の周知方法としては大変アナログではありますが、このようなチラシを作成して学内に配架し、教員や学生に配布しています。
今年度初めて、航空整備士の回でバーチャルツアーを実施しました。受講生120名を実際に空港見学に連れて行くとなると大変な労力がかかります。そこで株式会社JALエンジニアリングのご協力のもと、準備に時間は要したものの、事前リハーサルなどさまざまなご尽力をいただき、120名の受講生が教室にいながらオンラインの実況中継で伊丹空港の格納庫にある航空機を見学できるツアーを実施することができました。とても臨場感があり、皆様にも見ていただきたく、動画を用意いたしましたのでどうぞご覧ください。
バーチャルツアーは学生にも大変好評で、特に理系学部の学生で、将来航空整備士を目指したいという学生が増えましたので、一定の効果があったのではないかと感じています。
またJALグループのJ-AIRからは運航乗務員を派遣していただきました。写真中央の齋藤機長は元NHKアナウンサーで、パイロットに転職された経緯をお聞かせいただき、また元アナウンサーならではの大変お上手な機内アナウンスを披露いただくなど、こちらの講義も大変好評でした。
J-AIRからは客室乗務員もお迎えして講義を行いました。講義後には客室乗務員を目指す学生たちが列をなして講師に質問に行くぐらいの人気でした。このように企業様から現役の講師を派遣していただけるのは大変ありがたいことです。
この講義には1年生から4年生までの学生が受講しており、難解な話は学生には理解が困難ですので、講義の工夫として最初にクイズを導入して身近な話題から入るようにしています。また3回に1回は座席を指定して、他学部、他学年の学生とコミュニケーションをとる機会を設けています。
航空の知識がない学生にも少しでも関心を持ってもらうように工夫しており、特に文系の学生は理系の授業、理系の学生は文系の授業を受ける機会がほぼないので、文理融合型の視野を広げる機会となっています。
各講師がどのように講義の導入をしているかを、一部ご紹介します。1番目は私が担当した「航空の歴史」の回で、「世界初の旅客機の客室乗務員はどんな人? 年代(年齢)、性別なども考えてみてください」という問題です。正解は14歳のジャック・サンダーソンというイギリス人の少年で、Daimler Airway という航空会社に採用されました。当時はまだ航空機が現在ほど安全な乗り物ではなかったため、採用の翌年に航空機事故で亡くなってしまいます。当時の客室乗務員はお客様の乗り降りや荷物の運搬の手伝いが主な業務だったので、なるべく力があり、かつ体重が軽ければよいという理由で14歳の少年が採用された次第です。
次に経営学部の教員のクイズをご紹介します。「関西国際空港を拠点とするピーチの自動チェックイン機はユニークな素材で作られています。さて、何でしょう?」というもので、正解は「ダンボール」です。そして「なぜ、ダンボールで作っているの?」に対する正解は、「話題づくりのため」です。LCCはテレビや新聞など広告宣伝費をかけないため、ニュースなどで取り上げてもらって話題づくりをする必要があります。そのためにダンボールで作られています。
次のスライドは建築学部教員の担当回で、左側がレクチャータイムという、一般的な講義です。右側がドローイングタイムというユニークな取り組みで、学生に色鉛筆を持参させ、実際に手を動かして建築や図面を見て色を塗る授業です。クイズは、「ニューヨークにあるTWAフライトセンターは、何の目的で改装されたのでしょうか?」という問題です。正解は「ホテル」です。実際にこのTWAフライトセンターの平面図と立体図が学生に配布され、屋根に色を塗るという設問もあります。模範解答がこちらになります。
航空法の授業では、例えば犯罪行為として「ロンドンから日本へ向かうJAL機内において、第三国を飛行中に盗撮事件が発生した場合、どこの国の法律が適用されるか?」などの話題や解説がありました。
医学部教員は循環器を専門とする医師で、航空機内で起こりうる疾病、エコノミークラス症候群、機内での医療行為、「善きサマリア人法」などについて触れました。「善きサマリア人法」とは、アメリカ、カナダなどで導入されている法律で、無償かつ善意で医師が医療行為を施した場合、その後、後遺症が残る、あるいは死亡したとしてもその医療行為を受けた側から訴えることができないという、医療従事者が賠償責任を問われないというものです。その他、日本航空の「JAL DOCTOR登録制度」、全日本空輸の「ANA Doctor on board」について、また「臓器移植のためには臓器をどのように航空機で輸送するか」という話題を提供してもらいました。
グループワークの1回目のテーマは「LCCの機内食提案」で、日本のLCC各社の機内食に関して金額、メニュー、理由や根拠を考えなさいというテーマに学生が取り組みました。
2回目のグループワークは経営学部教員担当で、テーマは「空港経営」です。「皆さんはとある空港の経営企画部門で働いており、非航空系収入の増大に向けてプロジェクトに取り組んでいます。どのような工夫をしたらよいか、商業エリアのレイアウトや店舗配置を考えてください」という課題に取り組みました。
この講義の過去2年間の実績として、受講生は、国土交通省の航空管制官、国内エアラインのさまざまな業種、外資系エアラインの客室乗務員として就職し、理系学部の学生は電鉄会社の総合職や車掌職の内定を取るなど、国内外のさまざまな業種に羽ばたいております。
近畿大学の学生の中には、「近畿大学からパイロットになるなどは無理だろう」と思っている学生が多くいるのですが、実際には近畿大学からも自社養成パイロットや航空管制官を輩出しております。そのような先輩の実例を聞くことで「自分も頑張ればなれるかもしれない」と希望を持ってもらうことができました。
また、さまざまな学部の先生の話を聞けたのがよかった、ゲスト講師の回が大変有意義であった、というフィードバックがありました。
今後の課題として、現在は日本語のみで講義を行っていますが、留学生が苦労しており、適宜私が英語で通訳を務めている状況なので、もう少し留学生に配慮できればと考えております。将来のキャリアとどうつなげるかというところも課題です。またこの講義は入門編で、この授業以外に応用編などの航空の講義はないので、さらなる学びを深める機会の提供が必要であると考えております。
現在、国土交通省から航空管制官の講師を派遣していただいていますが、その他にもCIQ(入国審査、税関、検疫)と呼ばれる「官」の方々との連携や保安関連業務との連携ができればと思っております。また近畿大学は、東大阪キャンパス以外にも多数のキャンパスがあるので、他のキャンパスの学生や通信教育部の学生の受講ができればと考えております。
2026年4月に看護学部が新たに設置されるので、看護学部の学生が例えばフライトナースを目指すといった進路もあるのではないかと思っています。また高校との連携、近畿大学卒業生のネットワーク構築、「航空の安全」に関する内容の拡充などを行っていきたいと考えています。
次に、近畿大学の範囲を越えた大学・航空業界全体で今後私が取り組みたいと考えている課題と目標についてお話します。
航空業界はイメージが先行し、航空業界に入るとバラ色の人生が待っていると思っている学生が大変多くおります。間違ってはいないのですが、やはり仕事ですので就労後の苦労もあり、そういったギャップに耐えられずに入っても辞めてしまう人材が一定数いる職種もあります。このようなギャップをなくし、入ったからにはぜひ長く勤めていただきたいと考えております。
また、入社後に必要な「航空業界に関する知識」や「航空英語」に関する学習機会はあまり提供されていません。エアラインスクール(塾)や専門学校は「内定」が最終目標である一方、大学は教養教育・専門教育を提供する役割を果たしているため、それらも含めてグローバルリーダーを育成していきたいと考えています。
目標としては、拙著の図書館への寄贈などにより、大学や専門学校に経済的な事情などで進学できない学生や若者たちにもこのような航空業界を知ってもらう取り組みができないかとも考えています。
「航空の安全」に関しては、運航上の安全というハード面だけではなく、例えば人身取引の輸送に航空機が使用されているというソフト面での現状もあり、そのような犯罪防止啓発に努めるほか、お客様のカスタマーハラスメント防止対策などにも取り組んでいけたらと思っています。
先ほどアメリカの航空会社では緊急事態発生時に乗務員に対するメンタルサポートがあったという話をしましたが、日本の航空会社ではその点においてまだ課題があるように思いますので、そのようなシステムの構築や、入社後に心身の悩みを抱えた際に相談できるような企業の枠組みを超えた窓口の設置、労働環境の改善、安全性の確保、航空業界出身の実務家教員の育成なども目指したいと考えております。たとえば3万8,000人の学生が学ぶ近畿大学の中で、航空業界出身の教員は私一人だけなので、このような道に進む実務家の方が出てきてくださればと思っています。
最後に、私が執筆した3冊の本をご紹介します。エアラインの現場で使用する英語の参考書で、Amazonで購入可能です。図書館・教育機関に寄贈したいと考えておりますので、ご希望の方はご連絡いただければと思います。
ここからは近畿大学関係者と、講師を派遣してくださっている日本航空グループの方にコメントをいただきます。
本日萬谷先生から説明いただいたように、私も一緒に講義を担当しております。この講義は7学部から120名の学生が参加していますが、毎年定員を上回る学生の希望があり、受講者数の制限で学生数を絞らなければならないほど人気の講義になっているのが一つの特色です。
二つ目の特色は、多くのプロの講師をお招きしていることです。ご説明のように、日本航空グループ様のご協力を得て機長や客室乗務員、整備士の方々に登壇いただいており、学内から医師、弁護士も登壇して、とにかく最先端の生の声を聞くことができる講義として大変好評を博しています。
三つ目の特色は講義の進め方で、アクティブラーニングを非常に重視していること。萬谷先生の講義でも、機内食のメニューをグループごとに提案することで、問題点を発見し、それを解決するためにディスカッションを行うという、非常に有意義な内容になっています。7学部の学生が参加しているので、自分の学部以外の学生ともディスカッションする機会を設けることができるわけです。
最後に、この講義が実現したのは萬谷先生の発想と行動力のたまものです。私は本日、萬谷先生が講師を招くまでの裏話を初めて聞きました。萬谷先生はさりげなく話されますが、陰で大変な努力をされていたことを知り、改めて感謝の気持ちが込み上げて参りました。萬谷先生、ありがとうございました。
本日はセミナーにお招きいただき、誠にありがとうございます。萬谷先生には日頃から本学の国際学部の学生支援や、航空業界志望の学生たちの支援において非常にご尽力いただいております。この講義は学部横断型で開講されていますが、航空業界の多岐にわたる職種を目指す学生たちが増えているので、そういった学生たちにとって非常に有用な機会になっています。私も実際に講義を見学してそれを実感しています。
動画も一部発表されていましたが、その回にも参加させていただきました。リアルタイムで航空機の整備場と大学をつないで、活躍されておられる航空整備士の方々がご説明くださり、学生も非常に熱心に質問していた記憶がございます。この機会は担当の先生方が熱烈にアプローチなさって2年越しで実現したと聞いており、これも先生方の教育への熱意のたまものだと職員ながらに思っておりました。
就職においては、コロナがあったので非常に厳しい環境下にはあったのですが、我々のスタンスは変わらず、一人でも多くの学生を満足いく就職に導こうと努めています。昨今は低学年からの早期キャリア形成が鍵を握っていると言われているので、そういったところへのアプローチも強化しています。私が担当する学内のエアラインスクールもまさにその取り組みの一つだと考えています。
志望者がどんどん戻ってきており、今後も航空業界を志望する学生の一助となるように、機会提供のサポートを教職員一丸となって強化していきたいと考えているので、皆様今後ともご尽力のほどよろしくお願いいたします。
この講義は航空について多角的に見ることのできる点が魅力です。国際、建築、経営学部の先生方と、また実際に航空業界に携わっている航空管制官、航空整備士、パイロット、客室乗務員の方々からお話をうかがい、エアラインの歴史、ビジネスモデル、空港の建築などを幅広く学ぶことができました。
私は航空業界を中心に就職活動を行っていたのですが、受験に挑む上で、航空について理解を深めておくことは非常に重要であると実感しました。また、客室乗務員としての経験をお持ちの後藤様から、日本のおもてなしは細やかな気遣いで体現することを大切にしているというお話をうかがうことができ、講義のあと実際にお話をした際に、自身の目指したい姿を明確にできた講義だったと感じています。
おかげさまで航空会社から客室乗務員として内定をいただくことができました。今後も講義で学んだ内容を深め、細やかな気遣いを体現できる客室乗務員を目指したいと考えております。ありがとうございました。
本日はご講演誠にありがとうございました。いつも萬谷先生には講義実施に当たって細やかなご配慮をいただいております。この場をお借りして改めて感謝申し上げます。
JAL航空みらいラボについて、ご存知ない方も多いと思いますので、簡単にご紹介いたします。当社は今年7月に、日本航空の新しいグループ会社として設立された、調査・研究を主な目的とした会社です。
近畿大学様の講義で、今回私は客室乗務員の仕事内容について、私の経験を踏まえながらお話させていただきました。昨年度からこの講義を担当しておりますが、学生の皆様が非常に熱心に耳を傾けてくださいますし、ご質問も多くいただいております。学生の皆様の姿勢には、こちらが毎回刺激をいただいております。
コロナ禍もあって、航空業界にまだまだ不安を抱いている方も多いかと思うのですが、そんな中でも航空業界への学生のニーズは引き続き高いことを実感しております。今後もぜひ継続してこのような取り組みを一緒に、進めさせていただければと思っていますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
皆様、貴重なコメントをありがとうございました。 私からの発表は以上となります。皆様本日はお忙しい中ご清聴ありがとうございました。