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今月のセミナー

-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-

令和6年能登半島地震による災害廃棄物処理の実態

奥田 孝史 氏

環境省近畿地方環境事務所 資源循環課 廃棄物対策等調査官

●と き 2024年7月11日(木)

●ところ オンライン会場

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はじめに

 本日お話しする内容は1~5章で構成しています。まず一つ目は.令和6年能登半島地震による被害の状況について。二つ目は、初期に非常に問題になったし尿・生活ごみ処理の状況について。三つ目が災害廃棄物処理と仮置場の状況です。私ども近畿地方環境事務所は、今回、石川県の珠洲市にカウンターパートとして入っていますので、珠洲市の事例について話します。そして四つ目が公費解体と廃棄物処理の推進、最後に環境省の支援体制と活動拠点について話をいたします。

1.令和6年能登半島地震による被害状況等

・令和6年能登半島地震

 まず被害の状況ですが、この写真は皆様も見られたことがあるかと思います。

 これは珠洲市の南にある観光名所・見附島です。地震前の姿が今こうなっているという写真で、度重なる地震で崩れた状態になっています。これを見れば、「あそこにあったなあ」と思い出される方もいらっしゃるかと思いますが、能登半島の先端の方の島です。
 忘れもしない今年の1月1日、16時10分にM7.6という阪神・淡路大震災や熊本地震よりも大きな地震が起こり、輪島市や志賀町を中心に最大震度7が記録されています。能登半島のほとんどで6強~6弱の震度が観測されています。



 右側はライフラインの被害状況で、3月26日時点です。メインの道路が、金沢から「のと里山海道」を通って半島の奥に入っていくのですが、この辺りのほとんどの部分が被害を受けて通行止めになっています。
 その他の地域、日本海側も至るところで道路が寸断されました。四角囲みで3月末時点での断水状態が書かれていますが、この時点でもまだ輪島で約3,310戸、珠洲市では約4,400戸も断水が続いており、インフラが大きなダメージを受けたのが今回の地震の特徴です。

・石川県の建物被害状況

 こちらは、3月29日に石川県が作成した災害廃棄物処理実行計画の資料から抜粋した建物の被害状況の表です。



 珠洲市では全壊・半壊が約5,600棟、輪島市でも約6,500棟あり、ほとんどの被害が奥能登4市町と呼ばれる珠洲、輪島、能登、穴水に集中しています。その他、七尾市、志賀町についても一部損壊を含め大きな被害を受けています。

・避難所の開設状況

 

 避難所の開設状況をご覧ください。上にあるとおり、1次避難者の数が1月2日に最大の4万6,888人に達しています。4月9日時点では3,351人になっていますが、非常に多くの方が避難所に避難されました。
 避難所の数については、1月2日に石川県全体で423カ所の避難所が設置され、それが約3カ月後の4月2日には148カ所まで減っています。
 参考に、今回私どもが主に入った奥能登の人口ピラミッドを全国と比較しました。
 左下が珠洲市の2020年度の人口ピラミッドで、男性・女性共に、いわゆる高齢者と言われる65歳以上が52%と半分以上を占めています。同じく輪島でも46%です。
 それに対して全国では29%なので、奥能登は非常に高齢化が進んだ地域であることが分かります。これが災害廃棄物処理の面でもいろいろな影響を与えています。

・壊滅的な家屋被害

 次に、我々環境省の職員あるいは私自身が撮った写真を中心に、被害の状況を説明いたします。高齢化という面もありますが、家屋自体に非常に木造が多く、石川県全体で木造の比率が96%にも達しています。そして瓦が能登瓦という、非常に重たく黒光りした瓦です。全体に番線と釘で屋根に打ち付けてあるため、瓦がバラバラになって落ちることなく、1階部分が瓦の重みなどでガサッと崩れるケースが非常に多く見られます。
 今回の地震では津波の被害もありました。もちろん東日本大震災のように大きな津波ではなかったのですが、能登半島の東側を中心に津波が発生しました。一旦地震で壊れたところに、1~2mぐらいの高さの波が入ってきて引き戻され、このようにいろいろなゴミが散乱している状況になっています。

・家屋等の被害状況(珠洲市・穴水町)

 私は第1陣として1月4日に大阪を車で出発し、4日は金沢に泊まったのですが、5日から珠洲市に入りました。ただ「入った」と言っても、金沢から珠洲まで行くのに、通常2時間半から3時間ぐらいのところを8時間ぐらいかかり、結局着いたのは夕方でした。これは1月7日に珠洲市の飯田町という所で撮った写真で、津波の被害を受けた様子です。
 一旦壊れたものが津波に流され、このようにごみが散乱した状況になります。こちらの写真もそうなのですが、少し中に入ったところでも津波で泥が溜まった状態になっています。飯田港という港があるのですが、写真のようにたくさんの小型船舶、漁船が転覆している様子が見られました。
 その後1月9日、我々は穴水という少し金沢寄りのまちに行ったのですが、同じような状態で、1階がつぶれている家屋が多数ありました。先述の通り、今回金沢から奥能登に入るのに、崩壊が激しくて一方通行あるいは相当な迂回をしないと現地に入れませんでした。これが今後の廃棄物処理にも、あるいは復旧にも非常に大きな影響を与えています。

・自動車専用道路寸断状況、浄化槽・下水道の被害状況

 こちらは2月中旬に撮影した、金沢から奥能登に入る「のと里山海道」です。



 一車線は開通しましたが、反対側は完全に崩れています。ここは今でも一方通行の片側1車線の状態です。
 今回、トイレに関しても大きな問題になったのですが、この辺りの地域は下水道もあるとはいえ、ほとんどの所で合併浄化槽や単独浄化槽を使っておられ、それが縦揺れによって地面の上に突き出している様子が見られました。


 珠洲市で撮った写真ですが、見附島が描かれた下水道マンホールも1~2m近く地上に浮き上がっています。

2.し尿・生活ごみ処理の状況

・避難所におけるし尿処理の状況(衛生環境の悪化)

 次にし尿と生活ごみの処理の状況についてお話しします。トイレは非常に喫緊の問題です。
 避難所ではダンボールトイレというトイレが使われます。ダンボールに黒いビニールをかぶせてそこで直接用を足してから凝固剤で固めるものです。
 あるいは簡易トイレがない場合などに、館内の洋式トイレに新聞紙を敷いてそこに直接排便する。このように非常に劣悪な環境になりました。仮設トイレが来るまではこうしてしのぐわけです。
 仮設トイレが入ってからも、和式の仮設トイレが多かったため、高齢化が進んだ地域では非常に使いにくいという声がありました。また仮設トイレの場合は水も必要で、流すための水がないと非常に不衛生になります。そして、戸外に設置することになるため、高齢者の方にとって外に出てトイレまで行くことが非常に困難な状態になっています。

・珠洲市の状況

 私どもが第1陣で珠洲市へ行ったときに、能登半島の先端の三崎町まで行きました。そこで中学校に避難されている方々の状況をお聞きしました。100人ぐらいの方が避難されており、1日2日でこの写真の量のごみが出てきます。
 レトルト食品などを中心に食べられるので、プラスチックや缶などのごみが多くなります。
 この黒い袋には簡易トイレ(携帯トイレ)のごみが入っています。携帯トイレと汚物を少し離れた所に分けて置いている状況です。下側は仮設トイレで、流れない場合に使うバケツの水が置いてあります。こちらは「高齢者優先」と書いてあります。
 外で川の水を汲んできたり、雪を溶かしたりと、とにかく断水しているので、皆様が協力されてやっておられる状況でした。

・避難所におけるトイレ環境づくりのチェックリスト

 こちらは環境省が作成したチェックリストです。
 このような[ア]~[ソ]の内容をチェックするため、かなりのトイレを見て回りました。
 トイレの種類、水洗か非水洗か、男女別になっているか、高齢者・障害者に配慮しているか、といったチェック項目があり、これらを直接聞き取りしたり、電話で聞いたりしました。そのようなところから、トイレ問題が非常に大きな問題であることが分かってきました。

・し尿処理の状況と課題(珠洲市)

 し尿の処理に関して、珠洲市の例をお話しします。 
 まず市の浄化センターが、今回の被災で完全に動かなくなりました。実は未だに動いていません。 珠洲市の浄化センターは、下水、し尿、浄化槽汚泥の処理を全て行い、それでバイオ発酵させるという、結構複雑な施設になっています。それが災いしてなかなか復旧しない状況になっています。
 また、仮設トイレが避難所や事業所単位でどんどん設置されていくのですが、一旦仮設トイレがつくられると誰かが回収しなければなりません。地元の回収事業者も被災して動けなかったので、全国から事業者の応援を受けてし尿を回収していただいたということです。
 被災した市浄化センターに、一旦回収したし尿を貯留できないかと考えました。我々が第1陣で行ったときに、どれぐらい容量があるか、実際に可能なのかを事業者の方々と話し合いました。結果的には貯留層に一時貯留して、貯まれば遠距離運搬することになりました。
 浄化センターはメタン発酵を併設した複合施設であり、なかなか復旧できないため、とりあえず右下の写真にあるように仮の配管を付け、し尿のみの処理は4月下旬から行っています。
 問題は、仮設トイレがいろいろな場所に設置された結果、回収に時間がかかるということでした。近隣の衛生センターが一部回復しても、処理量が不足して、そこでは処理できないので、結局珠洲から95kmとか140km離れた金沢や福井まで広域に輸送しなければならず、大変な時間と費用がかかりました。

・浄化槽の復旧に向けた対応状況

 この辺りの地域はかなりが浄化槽で処理されているので、市町村が設置した所については修繕意向を尋ねるアンケートを取ったり、個人で浄化槽を付けている所はコールセンターを設置してニーズを聞いたりしました。
 また浄化槽は、修理する際に中の汚泥を一度抜かないといけませんので、それをどこにためるのか、さらにどのように広域輸送するのかといった調整を行いました。

・生活ごみ(避難所・家庭)処理の状況と課題(珠洲市)

 次はごみ処理の状況です。し尿と合わせてごみもすぐ出てきます。これも珠洲市と能登町の一部事務組合が奥能登クリーンセンターを運用しているのですが、ご覧のように基礎からつぶれてしまい、3月下旬まで停止しました。
 よって通常ごみも避難所のごみも処理ができず、ここでもできるだけごみピットにためようとしたのですが限界があるので、金沢や福井へ広域輸送することになりました。
 そして先ほどの浄化センター内に、写真のよう避難所のごみをそのままを置くことにしました。実はこのごみ袋の中には汚物が入っており、パッカー車でつぶすと大変なことになるからです。そのため、パッカーではなくてダンプカーや平ボディ車で運ぶという対応をしました。「課題」のところにも書いています。
 このように、全国の自治体から応援車両を要請しましたが、パッカー車だけでなく、ごみ袋のまま運べるような車も要請しています。

・初動段階におけるし尿・生活ごみ処理の対応


 今までの話を整理しております。バキュームカー派遣は、最近では市町村がし尿処理を直営で行っている所が少なくなっており、バキュームカー自体も少ないことからそうした派遣が必要になりました。焼却施設も停止したので、すぐに広域な処理が必要になったということです。三つ目に書いているように、交通網が寸断されたため、配車計画を綿密に調整する必要がありました。

3.災害廃棄物処理・仮置場の状況(珠洲市の事例)

・令和6年能登半島地震に係る石川県災害廃棄物処理実行計画の概要

 ここからは珠洲市を事例にして、災害廃棄物の処理、仮置場の状況についてお示しします。先日、NHKの「クローズアップ現代」で出ていたのですが、能登半島の真浦という地区では海底が2m以上隆起してこのように白い部分が露出しており、漁港は完全に浮き上がった状態になっています。
 こちらの資料は、先述した石川県が2月29日に発表した廃棄物処理の実行計画です。



 災害が起これば、県や市が作成するものです。左側に小さく書いてありますが、災害時には県全体で約244万トンの廃棄物が出ると推計されています。これは県の7年分に相当するのですが、各市ではどれぐらい出るのかも推計されています。
 例えば珠洲市は57万6,000トンですが、これは珠洲市の130年分に該当します。輪島でも30年分、穴水でも96年分といった、非常に膨大な量の廃棄物が一度に出てくることになります。ちなみに熊本地震でも約311万トン出ています。それに相当するぐらいのものが今回の能登半島地震で出てきたということです。
 この下に出ていますが、想定される解体戸数がだいたい2万2,000棟で、来年の10月を目途に解体を終える計画になっています。

・珠洲市における仮置場・集積所の設置状況(R6.4.21時点)



 珠洲市の仮置場などの設置状況です。2月1日、最初の仮置場を鉢ヶ崎海水浴場の駐車場につくり、その後狼煙(のろし)漁港につくり、最後に飯田港。この三つは当初から市が考えていた仮置場です。また、ジャンボリー跡地(ボーイスカウトの大会の跡地)が広い土地なので、ここで主に公費解体分を受け入れることになっています。
 それ以外に、珠洲市の北部沿岸辺りの道路が寸断されているので、当地区の方が災害廃棄物の片付けごみを出せるよう集積所を何カ所かつくりました。
 3月14日に飯田港に仮置場をつくった際に珠洲市でつくりました周知のチラシです。外部からのいろいろな自治体が応援に来ていますので、各種チラシをつくるなどもお手伝いしています。チラシの裏面には仮置場のレイアウトを掲載しています。 

 仮置場は大抵、大きいものから降ろして一方通行で出ていく動線になっています。11分類ぐらいを片付けごみとして決めています。

・仮置場の状況 鉢ヶ崎仮置場

 

 鉢ヶ崎仮置場の状況です。どのように進入するかも示しながら搬入ルートを示し、分類しています。ボランティアや住民の方々が軽トラなどで持ってきたものを係員が協力しながら降ろしていきます。

・狼煙仮置場


 次に狼煙の仮置場の様子です。ここは割と人口が少ないので、それほど大量に出たわけではありませんが、入ってきたものをすぐ出せるよう、コンテナに入れることで出し入れを早くして、仮置場に廃棄物がたまらないように工夫されています。

・飯田港仮置場


 最後の3月14日に設置された飯田港の様子です。ボランティアや住民の方々がどんどん軽トラで持ってきます。この辺りの方々はだいたい軽トラをお持ちなので、自分で持ってこられる方も非常に多いです。割れた瓦などは仮置場でトン袋(フレキシブルコンテナバッグ)に入れてもらいます。壁材やコンクリートなども分別して入れます。こうして搬出しやすいように工夫して仮置き場に入れていただいています。
 飯田港については、先ほどの石川県の実行計画に書かれているのですが、広域処理をしないと県内だけでは災害廃棄物の処理ができないので、県外に海上輸送で28万トン、陸上輸送で10万トンという計画が立てられています。

 そこで、珠洲市は飯田港、能登町は宇出津港と、2カ所から主に新潟と富山に運搬することになっています。
 水深が浅く、重い物を船に乗せられないので、木くずと可燃物を中心に運搬することになりました。つい最近能登町からの運搬が始まり、飯田港も7月下旬ぐらいから海上輸送が開始されます。写真は、鉄板を敷いた様子と、接岸テストを実施している様子です。
 先ほどの飯田港で転覆していた漁船などは一旦護岸の上に上げられ、水産庁の補助で解体します。廃棄物については環境省の補助で処分するという取り決めもなされています。

・地区集積所の状況(大谷地区 馬緤町・長橋町)

 これらの孤立した集落地区では集積所を設置し、そこの住民が片付けごみを出せるよう、コンテナやトン袋を置くといった工夫をしています。

・仮置場の状況 ジャンボリー跡地仮置場

 ここは非常に広く、約7.6haあり、北側隣接地まで入れると10ha以上あります。このジャンボリーの仮置場は7月1日から主に稼働しています。
 それ以前から受け入れはしていますが、本格稼動としては7月からです。木くず、ガラ、不燃、可燃、片付けごみと、各エリアをレイアウトして受け入れを行っています。
 後述しますが3月以降は緊急解体も実施しており、そういうものを一旦この辺り(図中「詰め所」の文字の辺り)に置いていました。5月以降は公費解体が始まったので、現在は「受付」から「片付けごみエリア」の辺りに置いて、徐々に「可燃エリア」「木くずエリア」「ガラエリア」、「不燃エリア」に持ってきて、破砕機などを設置して破砕がなされています。

 解体後の瓦礫です。私が行ったときはまだ試験導入でしたが、木くず用破砕機がありました。30cm程度まで細かく破砕されています。受け入れ先の条件によって15cm以下にもできるよう、2種類の破砕機を置いて、受け入れ先の条件に合わせて中間的な処理をしています。
 右上の写真は石川県共通の解体時の持ち込み搬入票で、先ほどのジャンボリーの仮置場と同様に、可燃物、金属くず、木くず、不燃物、コンクリートがら、こういったものをどれぐらい入れたか、1台1台のダンプについて、この搬入票に基づいて管理しています。その下の写真は、基礎を壊した後に発生したコンクリートがらです。

・珠洲市における災害廃棄物処理・仮置場の状況


 仮置場の状況について情報を整理しました。
 通常の水害の場合、水が引いたらすぐに片付けが始まり、すぐに災害ごみが出てきます。被害が大きいときは街なかの道路際などにごみが出されるのですが、今回はほとんどの方が避難所生活であり、さらには赤レッテルが貼られた危険な損壊家屋が多くて中に入れなかったため、片付けがほとんど進みませんでした。従って珠洲市でも、2月1日に鉢ヶ崎の仮置場ができたのですが、それまで勝手にごみが置かれるなどはほとんどありませんでした。
 問題の二つ目は、宿泊場所自体が断水してほとんどオープンしないため、ボランティアの方々が泊まれなかったことです。ボランティアはバスで金沢から来て、また金沢に帰るため、作業できる時間が少なかったこともあり、最初は片付けごみはほとんど出ていません。
 そういういきさつもあり、今後解体が本格化してくるわけですが、大量の解体瓦礫に加えて、屋内に残った冷蔵庫やたんすなどいろいろな残置物が同時に出てくることになります。解体現場で今やっていただいているのは、まず解体業者の方々が残置物を搬出してジャンボリーの仮置場の片付けごみエリアに持って行き、その後、解体物をできるだけ現場で分別して仮置場に持っていくという作業です。

4.公費解体(災害廃棄物処理)の推進

・公費解体の基本的な手順

 公費解体については、我々自身も実はあまりやったことがなく、熊本地震や熱海の土砂災害で実行された自治体の力を借りて進めている部分が大きいです。

 基本的な手順を示しています。まず罹災証明書が出ますが、今回は非常特定災害に認定されているので、全壊だけではなく半壊家屋にも公費解体の補助金が出ます。そのようなことを認定する罹災証明がまず交付されたら、市に申請し解体となります。
 解体業者については、石川県の構造物解体協会と石川県で調整し、同協会の傘下の業者が各市に割り当てられて解体を進めることになります。
 今回、「解体が遅れている」とマスコミなどで問題になっているという話がありますが、それはやはり「所有者の同意取得」の部分です。奥能登では昭和の初期ぐらいの古い建物が非常に多く、相続しても登記が整理されていない、あるいは共同名義になっていてもその方々がいろいろな所にいてなかなか全員の同意が取れないということがあるため、申請自体が出せない・受け付けられない状況が生じました。
 空家も非常に多く、そもそも誰の建物かも分からず、倒壊しても解体が進まないという事態も生じています。

・公費解体に係る手続きの円滑化と進捗状況

  
 これは一般的な手続きです。まず所有者に申請をしていただいて、解体するまでに、かかる費用や立会について話し合います。この辺りは、補償コンサルタントという、通常から土地家屋の調査を行っている専門業者に入ってもらって、石川県がつくっている標準平米単価をもとに、その建物の延べ床面積などを調査して費用を算定します。
 それから現地立会を行いますが、これが非常に大事です。所有者に同席いただいて、思い出の品や貴重品をまず搬出し、やっと解体ができます。そのようなことを踏まえて進めており、石川県全体での申請は順調に増えて、解体も6月末で3,000棟を超えている状況です。
 石川県の解体実施棟数の進捗ですが、4月から6月末まで順調に伸びてきていることが分かります。

・公費解体制度について

 珠洲市では、5月に公費解体制度について告知を出しています。住民に対して「公費解体とは何か?」という説明会も開催しています。

①制度について:公費解体制度は、所有者の申請に基づき、市が所有者に代わって被災家屋を災害廃棄物として解体撤去するもので、所有者の費用はかかりません。また中小企業も対象になります。所管は環境省です。

②対象について:公費解体の対象は、今回の場合「全壊」と「半壊」です。通常の災害時は「全壊」のみを対象としており、熊本地震のときもそうでしたが、今回は全壊も半壊も対象となっています。解体するときの条件もあります。家屋に付属しているものを一体的に解体する場合、浄化槽、便槽あるいはブロック塀など、解体に支障がある場合は公費の対象になります。

③流れについて:事前立会をしてもらい、決定になればこのようなプロセスを踏んで解体が始まり、完了するという流れになります。

④必要書類について1:公費解体に必要な書類は、基本的には申請書と罹災証明書、本人が確認できる免許証や保険証、そして建物の配置図です。配置図は手書きで書く方が多いのですが、だいたいどのような配置で何平米ぐらいかというのを書いていただきます。

⑤必要書類について2:ややこしいのがやはり共有名義、相続権があった場合や、複数の方が共有名義の場合は全員分の実印を押した書類が必要という部分です。これは後で揉めないようにするためですが、どうしてもこの部分は市も慎重になってそのような書類を求めるので、なかなか必要書類が集まらないことがありました。
 また、隣の家にもたれかかっている場合、その隣家の同意が必要な場合もあります。母屋と離れがあった場合は、別々の登記なら一体的に解体せず一方を残してもよい、ということも書いています。

・環境省・法務省からの公費解体・撤去に関する通知

 このように、同意がなかなか取れずに解体が進まない状況から、5月28日に環境省・総務省が事務連絡通知を出しています。
 要は、倒壊して「建物性が認められない」場合、法務局が職権で滅失登記を行います。そうした場合は市町村が判断して公費解体を行うということです。また、滅失登記をしなくても、市町村が「これはもう建物性がない」と判断した場合は、市町村の判断で公費解体してもよいとするものです。
 私もこのとき現地に行っており、市の方とこの対応について話をしていました。環境省・法務省通知で「相続者等の同意書が不要」になると書いてあるのですが、珠洲市では、どんなものが該当するかについて、建物全体が倒れた全壊、自立できていない、1階がつぶれている、柱だけになっている──こういったものは申告があれば市が確認して公費解体の対象とすることとなりました。



 この辺りは珠洲市のホームページに掲載されている流れです。これによって解体が一部促進されています。


・創造的復興に向けた住宅等の公費解体戦略(イメージ)

 珠洲や輪島のように非常に多くの解体物件があり、解体業者も北陸を中心に全国から来られている中で、解体がバラバラと行われるのではなく、できるだけ各市に地区を決めて、どういったところをどういう考え方で優先的に解体していくのかを考えてくださいと提案しています。これは3月に出したイメージですが、例えばこのような市役所のある所などを優先するなどです。


・珠洲市の公費解体戦略検討における各地区の概況

 そして我々の方で、珠洲市の場合ならどうなるだろうかと考え、9地区に分けました。



 人口、経済、産業はどうなっているか、事業所がどれだけあるか、水道の復旧状態はどうか、優先的にある程度まとまってやっていかないと効率が悪いので、そういったことを進めている状況です。


 実際に今どのようなことを行っているかをご説明します。珠洲市に蛸島地区という所があり、ここも水道がまだ来ていない状態なのですが、まず水道復旧を早く行わなければなりません。そして、公費解体を先に実施しないと水道復旧ができないということがあります。地図上の黄色い部分は申請が出てきた所、緑の部分は未申請の所なのですが、未申請の所をなくしていき、まとめて解体して復旧を進めようと考えています。
 輪島の方は皆様もご存知だと思いますが、朝市がある市場の地区が火事で焼けました。ここは先述の、法務局による滅失登記を行って解体を進め、今はほぼ終わっています。

・珠洲市における公費解体申請等の状況

 珠洲市の状況ですが、2月頃は緊急解体が行われていました。隣家に寄りかかって隣家も倒れてしまう、あるいは道路にはみ出していて非常に危険な状態になっている、こういったものを緊急解体対象として申請を受け付ける前に、どの程度のものを緊急解体すべきかを選定して優先順位を決めていました。



 そのようなことを受けて、2月13日から公費解体の仮受付を始めました。この仮受付の意図は、本申請にどんな書類が必要なのか、住民の方々は経験がなく知らないので、周知するためでもあり、どれぐらいの数の申請が出てくるかの概算を把握するためでもありました。また、段階的に申請を実施しないと殺到することになり、受付ブースをどれぐらい用意すべきかといったことも検討しました。
 珠洲市の場合、去年も5月のゴールデンウィークに地震があって、その方々が申請をされている状態でしたので、まずそこから申請を始めて、次に仮受付された方の申請を開始し、それから5月1日から一般の方の申請受け付けを開始しました。4月末からは、17カ所+金沢で説明会を実施しました。

・珠洲市における公費解体の状況と課題

 課題を整理しています。非常に書類が多いので、登記事項証明書等は市役所の方でも分かるので省略して、本人確認はマイナンバーカードでもよいとしています。



 やはり問題は、空家の所有者が不明で同意が難航したことです。所有者不明建物管理制度という制度があり、管理する所有者がいない場合、地方裁判所で指定してその方で進めていくというものですが、これも時間がかかるのでほとんど採用されていないと思います。
 先述のように建物性が認められない場合は市町村が判断できるようにしました。そして解体前の事前調査や立会が必要なのですが、コンサルタントと契約した上で実施しています。
 解体業者の確保にも非常に苦労しました。特に苦労するのが、泊まる場所がないこと。鉢ヶ崎の近くのキャンプ場にコンテナハウスを200個ぐらいつくっています。産廃処理を行うジャンボリーには、仮置場の管理をされる方々の宿舎もつくっています。こういうところから始めないといけないわけです。

・今回の災害廃棄物対応の特徴

 今までの話を整理しました。今回の場合は非常に深刻なインフラ被害が起こっています。特にし尿・ごみ処理施設、下水道や浄化槽など地下施設の復旧がかなり遅れており、そのために広域的な処理が必要で、しかも長期化しているという問題があります。
 そしてやはりアクセス道路の寸断。金沢から奥能登に入るメインの道路は1本しかないので、ここが寸断されたために陸の孤島になっています。宿泊施設もなく、ごみもし尿も、集めて金沢まで1往復しかできません。こうした非常に効率が悪い状況を強いられました。
 また、超高齢化と空家問題。高齢者の方々はなかなか申請ができません。さらには金沢に二次避難されているため奥能登まで来るのが困難です。それから立会にも高齢者の方々はなかなか来られません。

・石川県創造的復興プラン

 解体は、解体すれば終わりというわけではなくて、今後どうしていくかを考える必要があります。そこで石川県が6月に出したプランを一部だけ簡単にご紹介します。
 

 取り組みの一つが「復興プロセスを生かした関係人口の拡大」。これはテレビなどでも報じていたのでご存知の方もいらっしゃるかと思います。要は地域の活性化、活力の維持向上です。
 関係人口の拡大というのは、特にそこにずっと住むというわけではなく、金沢と奥能登に家があって二地域で居住する、あるいは「連携復興センター」をつくり、NPO、大学、企業などここに関わる人々がいろいろな支援をするというような形、こうしたものを県ではプロジェクトとして考えています。 過疎地での災害の場合は、今後このような関係人口という考え方が出てくるのではないかと思います。

5.環境省の支援体制と活動拠点

・環境省の支援体制

 最後に、環境省の支援体制と活動拠点についてご紹介して終わりたいと思います。環境省は1月2日から動いており、本省に災害廃棄物対策チームが設置されています。



 関わっているのは、災害廃棄物関係の部署と浄化槽に関わる部署です。現地では現地支援チームを立ち上げています。対策本部が県の方にできるので、そこにリエゾン(災害対策現地情報連絡員)が入り、県庁にも常駐しています。当初から多くの人間が入っているのですが、7階の一室を借りて進めていました。1月2日から中部ブロックの方々が中心に入っています。
 現地リエゾンは6市町に常駐するため、先述のように1月5日から、珠洲、輪島、能登など奥能登に入りました。
 それ以外にもサポートや制度があります。「D.Waste-Net」は環境省が運営するもので、災害時にコンサルタントや日本環境衛生センター、全国都市清掃会議などの自治体あるいは事業者を活用して、支援を工面するサポートです。「環境省人材バンク」は、これまで災害時の廃棄物処理を経験された人を専門家として登録して派遣するものです。契約手続きや公費解体の事務手続きが分からない人を対象に、専門的にフォローする方々に入っていただいています。
 今回は特に、自治体職員の短期派遣を行っています。当初2月までは、中部ブロックの自治体の方々を中心に、例えば公費解体の受け付けや浄化槽の意識調査などいろいろなことをしていただいていましたが、それでは回らなくなりました。そこで3月以降の全国展開で、北海道から九州までの自治体に1週間~2週間ぐらいの単位で各市町に応援に入っていただいております。本当にありがとうございます。

・環境省災害廃棄物処理二次拠点施設(概要)



 環境省の拠点を示しています。輪島はルートイン輪島やホテルこうしゅうえんなど、お風呂はないもののホテルに泊まれたのですが、我々が担当になった珠洲市は全く泊まるところがなく、公民館で寝泊まりしました。最初に行ったときは寝袋持参で市施設の給湯室で寝ていました。
 その後、自衛隊が使っていた公民館を環境省が借りて公民館で寝泊まりし、自治体の方々にもここで泊まっていただきました。女性は文化施設に泊まっていただきました。あるいはグループホームや、焼却場のあるクリーンセンターも宿泊に使いました。他にも能登空港の会議室などに寝袋持参で泊まっていただきました。
 我々が滞在していた蛸島公民館は、非常に被害が大きかった地域にあります。約30畳の和室があり、ここでいろいろな自治体の方が雑魚寝状態でした。少し広い部屋に段ボールベッドを設置し、ここで食事をとったり会議をしたりという状況です。こちらは会議室です。



 これらは蛸島公民館の写真です。一部浄化槽の点検業者の方もここに泊まられていました。トイレも当然仮設トイレです。右上の写真はすぐ前にある家屋ですがこんな感じで完全につぶれています。ここ(右中写真)が会議室で、主に環境省が使っています。段ボールベッドを設置し、引き継ぎや会議をしたり、食事をしたりしていました。
 最初の頃は、お風呂に入れないので2泊3日で現地に入り、中日に羽咋という国立の青少年の家がある市まで戻って入浴と食事を済ませ、また2泊3日で現地に入るという流れをローテーションで行っています。
 水が来ていないので、水をくんだポリタンクを置いています。右下の写真は近くの保育園で、作業をしているのが私なのですが、20Lのポリタンクを二つぐらい、朝6時過ぎから持って行って水をくみ、玄関先に置いておき、飲料水などに使います。
 仮設トイレの場合も水が必要です。水が流れないので、仮設トイレに水を補給するといった管理人業務的なこともやっています。

・主な協力団体



 今回応援いただいた多くの団体の方々を一覧としてまとめています。今後も、特に珠洲、輪島は公費解体が増えてきますので、自治体あるいは業者の方々にご協力をいただきながら、できるだけ早い廃棄物処理そして復興に向けた処理を実行していきたいと思います。
 詳細は環境省のホームページにありますが、だいたい2週間に1回ぐらい新しい情報が更新されていきますので、ご覧いただければ幸いです。

 私からのご説明は以上です。ご清聴ありがとうございました。

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